津波や地震といった災害時に、一般の消防車両が進入困難な場所での救助活動などに従事する消防車両「レッドサラマンダー」。全地形対応といいますが、どのような車両なのでしょうか。

「全地形対応」は伊達じゃない、その走破能力とは

「全地形対応」をうたう、日本でたった1台しかない消防車両が、愛知県岡崎市の岡崎市消防本部に配備されています。荒れ地や泥濘路はもちろん、がれきや溝をも乗り越え、さらには水に浮いて進むことも可能で、消火活動や災害救援活動などあらゆる状況の活動に従事するという、その名も「レッドサラマンダー」です。


愛知県岡崎消防本部に配備されている消防車両「レッドサラマンダー」。写真は2016年9月に富山県で行われた合同訓練のようす(画像:岡崎市消防本部)。

「レッドサラマンダー」は全長8.2m、全幅2.2m、高さ2.6m、重量約12t。最大積載量は4400kgで、車両の前部に4人、後部に6人が搭乗可能です。足回りにはゴム製クローラー(いわゆるキャタピラ)を採用し、最高速度は時速50km、最大登坂能力は50%(坂の傾斜角でおよそ26.6度)、最大60cmの段差や最大2mの溝を乗り越えられ、水深1.2mまでなら走破可能です。上述のように水に浮くこともでき、その際はクローラー部分が水かきの役割を果たします。製造元はシンガポールの軍需関連企業であるSTキネティクス、国内販売代理店は消防車両最大手のモリタ(兵庫県三田市)です。

 出動対象地域は全国で、洪水や地震、津波などの被害を受けた地域への出動要請を受け、消防庁長官が派遣することになっています。そうした活動を想定していることから、日本のほぼ中央に位置し、高速道路のインターチェンジに近く、東・西日本両方に出動しやすい岡崎市消防本部に2013年3月、消防庁がおよそ1億円を投じ配備しました。

 ところが2017年6月までの4年あまり、一度も出動実績はなく、「宝の持ち腐れ」と揶揄する声もあったそうです。このため新たな活用方法として試験的に、6月1日(木)から10月31日(火)までの5ヶ月間、愛知県内で大雨・洪水警報が発令された際の任務が加えられました。

「2016年の秋冬に総務省と愛知県、岡崎市の三者で話し合いを行い、決定しました。配備から4年間、出動実績がなかったこともあり、『ほかの使い道を探ってみよう』という意見が出たため、梅雨や台風で大雨が想定されるシーズンに活用してみようという試みです」(岡崎市消防本部 消防課)

 そして6月21日(水)、初めて出動することになりました。

出動しなくても果たす役割が

「レッドサラマンダー」について、岡崎市消防本部 消防課に話を聞きました。

――6月21日に初めて出動されたそうですが、どのような任務をこなしたのでしょうか?

 岡崎市内に大雨・洪水警報が発令されたため、12時50分に本部を出動し、管轄区域に山間部を多く抱える東消防署額田出張所へ向かい、待機していました。結果的に想定していた土砂災害は発生せず、16時45分に任務を解除しました。

――災害が発生していた場合、どのような任務を行っていたのでしょうか?

 土砂崩れが起きるなどして、一般的な消防車両が入れなくなった地域に土のうを運んだり、孤立した住宅への救援を行います。


「レッドサラマンダー」出動、専用搬送車両で現場へ向かう(画像:岡崎市消防本部)。

――最高速度50km/hとのことですが、現場へはどのように向かうのでしょうか?

 燃費が1km/Lとあまり良くないこともあり、専用搬送車両を使って目的地まで搬送します。一般的な消防車両と違って小回りが利かないため、これから徐々にすみ分けを考えていきます。

――緊急出動時以外で見る機会、たとえば一般公開されることなどはあるのでしょうか?
 年によってバラつきはありますが、年間で10回程度、公的な訓練で見ることができます。多くの「レッドサラマンダー」ファンが詰めかけますよ。

――一般市民の反応はどのようなものでしょうか?

 コアな消防車両ファンだけでなく、幅広い年齢層に人気ですね。当消防本部に直接見に来る人も多く、平日の昼間にアポイント無しで、という人もいます。市内の小学校の生徒さんも社会科見学で何百人と来ます。来られた人たち全員に、あわせて防災に関する話もしているので、来場者の防災意識の向上にもつながっているのではと感じています。

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 活用方法については、まだ検討の余地が残る「レッドサラマンダー」ですが、前出のモリタや岡崎市消防本部も「災害が発生しないことが一番です」と話しています。

「レッドサラマンダー」をその手に

 他方、「レッドサラマンダー」は2017年3月、タカラトミーのミニカー「トミカシリーズ」として商品化されました。同社の担当者は「レッドサラマンダー」の選定理由について、「『お子さんが好き』『話題性がある』といった点から選びました。また、お父さんお母さんからお子さんに、『災害が起きると大変だよ』ということを教えてほしかったというのも理由です」と話します。


タカラトミーが発売した「No.121 全地形対応車レッドサラマンダー/エクストリームV」(画像:タカラトミー)。

 クローラー部分が回転する造りになっており、同車の動きを忠実に再現。「子どもが遊んでも壊れないように、車両間の接続部分も頑丈に設計している」といいます。大人から特に大きな反応があるわけではないとのことですが、子どもを中心に幅広い層が購入しているそうです。

【写真】NEXCO中の黄色い切り札「ロードタイガー」


NEXCO中日本の路面測定車「ロードタイガー」は、最高100km/hで走行しつつ、路面におけるミリ単位のひび割れすら見逃さない(2017年1月25日、中島洋平撮影)。