BLACKPINKなぜ全世界でヒット? K-POPと中南米の関係が示す、日本のアイドル市場の閉鎖性

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 韓国の四人組のガールズグループ BLACKPINKの新曲「最後のように(AS IF IT’S YOUR LAST)」が、18カ国のiTunesグローバルシングルチャートで1位をゲットした。アジア地域はもちろんだが、それ以外だと中南米諸国での躍進が目立つ。アルゼンチン、グアテマラ、ホンジュラス、ペルー、コスタリカで1位をとり、コロンビアで2位、チリ、メキシコでも4位だった。ちなみに日本では2位である(6月23日時点)。彼女たちのMVの再生数はK-POPの歴史の中でも最速に近く、6月22日公開5日ほどで3千万再生数を遥かに超えている。

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 しかも彼女たちはデビューしてからわずか1年ほどである。まもなく日本でも武道館(!)で単独のプレミアム・ショーケースを開催する予定だ。さらに男性アイドルの方をみると、最近日本のワイドショーや音楽番組にも登場した防弾少年団もまたBLACKPINKと同様に、中南米で人気が高い。今年の春に全米大陸をめぐるツアーを行い、特にチリとブラジルでは熱狂的なファンに迎えられた。報道によると現地のテレビ局が、彼らの空港の到着を生放送で流したほどだという。これは日本でも過去に韓流ドラマの主役級俳優が成田空港などに到着したときにみられた過熱報道と同じ現象だ。

 BLACKPINKや防弾少年団だけではない。K-POPの若手から人気メンバーまで、多くの歌手が中南米にツアーなどで訪れたり、または現地で熱狂的なファンを生み出している。J-POPの中南米での受容のされ方からすると格段の差をつけられているといっていい。日本の女性アイドル BABYMETALは、ブラジルの著名ユーチューバーにとりあげられ猛烈な反応を引き起こし、また現地のヒットチャートで上位をゲットしたこともある。だが、K-POPほどの勢いは、一般的に日本勢には見られない。

 韓流ドラマやK-POPが中南米など世界で根強い支持をうけていると書くと、筆者のまわりではきまって韓国の政府の支援があるためではないか、と指摘する人が出てくる。だが、中南米市場でのK-POPの人気は、“草の根”で起きたブームだ。ラテンアメリカでのK-POPの人気を分析すると、J-POPや日本の男女アイドルがなぜ中南米だけではなく世界の市場に阻まれているのか、その理由の一端がわかる。

 K-POPがラテンアメリカ市場で受け入れられた要因を、ニューヨーク大学のジュンボン・チェ助教授は、主に三つの観点から指摘している(※注1)。ひとつは、21世紀に入ってからの南米における韓流ドラマのブームである。日本でも『冬のソナタ』の大ヒットが主因となり、同様の韓流ブームが起きた。だが、南米でのブームは日本とは異なる性格をもっていた。日本では中高年の女性がブームの主導権を握っていたが、南米では若年層から中年にかけての女性層に人気であった(注2)。そしてこれは日本でも同様だったのだが、韓流ドラマを中心にして、南米の女性たちが韓国語や韓国の文化(音楽、ファッション、料理、ライフスタイルなど)に興味を持ったことが大きい。

 つまり韓流ドラマを通じて、K-POP受け入れの下準備ができていたのだ。チェ助教授は特に、『花より男子』(韓国版)でのキム・ヒョンジュン(SS501のメンバー)が人気を得たのが大きいという。キム・ヒョンジュンは、K-POP、韓流ドラマ、そして韓国映画やテレビのバラエティ番組をマルチに活躍していた。日本でいえばSMAPや嵐などのジャニーズ系のアイドルと同じだ。いわば彼を通じて、韓国文化のパッケージ商品を消費することに南米のファンたちが慣れたということだろう。

 このように韓流ドラマがK-POPなどの韓国文化への関心を促すという現象を、私は“ドラマ外部性”と名付けたいと思う。これはかつて日本がアメリカの文化を受容するうえで、『奥さまは魔女』『名犬ラッシー』などの米国ドラマを消費し、そこに描かれたライフスタイルや文化現象に影響をうけていたのと同じものだろう。

 ふたつ目の要因として、チェ助教授が指摘しているのが、日本のポップカルチャーの中南米における人気をあげていることだ。日本のマンガやアニメ、ゲームそしてトレーディングカードなどはアメリカ大陸全域で人気がある。例えば、ブラジルの膨大な人数のK-POPファンたちが、そもそもBoAや東方神起といった南米ブームの先駆者たちを知ったのは、日本での高い評判がきっかけであった、とチェ助教授は紹介している。もちろんこの背景には、インターネットやSNSの普及があるのは言うまでもない。チェ助教授は特に指摘してはいないのだが、ここで注目すべきは、なぜ日本の文化への関心が、J-POPやアイドルたちに行かずに、K-POPのみに行ったかである。この点は最後にふれたい。

 チェ助教授が3番目にあげた南米でのK-POPブームの主因は、草の根レベルでの人気の獲得である。南米諸国と韓国はお互いに地球の裏側に位置している。南米のファンたちは簡単に韓国に行って、K-POPのスターたちのライブやイベントに参加するには経済的なハードルがとても高い。もちろんこの地理的な距離は、インターネットやSNSなどの普及でかなり解消されている。例えば、冒頭に紹介したBLACKPINKや防弾少年団の最新の映像を、南米の人たちはほぼ追加的費用ゼロでYouTubeなどで見ることができる。特に韓国の音楽番組は、現地での放送後、ほとんど時間をおかずに全編をYouTube上に惜しげもなくアップする。このインターネットというネットワークを通じて、特定の文化現象が世界的に流布していく現象を、経済学的には“ネットワーク外部性”という。ネットワーク外部性は、財やサービスのネットワークによる生産や分配だけではなく、文化的現象やまた“思想”さえも世界中に伝播していく(藪下史郎『スティグリッツの経済学 「見えざる手」など存在しない』東洋経済新報社、2013年)。

 このネットワーク外部性によって、南米のK-POPファンが生み出したのが、ダンスのカバーだ。いわば南米版“K-POP踊ってみた”の一大ブームである。いまも毎日のように、南米のファンたちは自身のカバーダンスを動画サイトなどにアップしている。またファンベースのカバーダンスフェスなども多く開催されている。韓国の政府などが自国文化の振興として大がかりなK-POPカバーダンスの競技会などを行うこともあるが、むしろ南米では動画サイトの活用なども含めてあくまで草の根での波及が大きい。これがK-POPの南米ブームを支える大きな要因であることは間違いない。いわばライブを容易にみることができないために、二次創作物がその代替をしているということだ。 ところで、なぜJ-POPや日本のアイドルたちは、K-POPのように中南米でブームにならないのだろうか? チェ助教授が指摘しているように、中南米でも(J-POPやアイドル以外の)日本の諸文化は大規模に消費されているのに、そのチャンスをK-POPにむしろ奪われてしまっている。もちろんその原因は複合的で、またいくつもあるだろう。ここでは、特に、日本の音楽番組が動画サイトなどで良質な映像と音響のまま、無料でアップされないことに注目したい。例えば、日本の代表的な音楽番組といえば、『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)だ。だが同番組については、無料動画サイトなどに、韓国の同種の番組のようにアップされることはない。また非公式でアップされてもその削除などの措置は迅速だ。罰則も重い。ジャニーズなど一部の事務所では、肖像権の管理も厳しいことが、韓国のように無料動画サイトへのアップを拒んでいるのかもしれない。

 いずれにせよ、K-POPのスターやアイドルたちがその現在進行形の親しみやすい姿を、南米を含む世界中のファンに無料で、迅速に、そして大量に供給しているのに対して、日本のJ-POPやアイドルたちの同種の動画は過小供給だ。その意味では、J-POPは自らの閉鎖性ゆえに、K-POPに遅れてしまっているのだ。

 南米でのK-POPのブームを知ることは、日本のガラパゴス化の負の側面を知ることにも繋がっている。(田中秀臣)