ROYOLE社は、2012年創業でありながら、保有特許700、グローバル従業員700人、企業価値30億ドル(約3300億円)に急成長したテクノロジー企業。深センではこうした技術系ベンチャーを筆頭に、毎月2万5000社の企業が誕生しているという(写真は同社の開発した世界初0.01mm超薄型フレキシブルディスプレイ)


 前回(「ラーメンからITまで、幅広い中国成長企業の顔ぶれ」)から、中国ベンチャー市場を読み解く上での第2のキーワードとして、「様々な創業アイテム」を紹介している。

 前回は、中国ベンチャー市場では、「革新的な領域」以外に、先進国では既に成熟期に入ってしまった「伝統的な領域」でも、継続的に起業と成長の機会が創出されていることを解説した。

中国ベンチャー市場を読み解く6つのキーワード
(出所: Legend Capitalとの討議よりDI作成)


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中国ベンチャー市場を読み解く6つのキーワード
(2)様々な創業アイテム(後編)

 後編となる今回は、前回紹介した「伝統的な色合いの強い領域(´↓)」に続き、右側の「イノベーション領域(きァ法廚縫侫ーカスしていこう。まず、い痢崔羚餮罵モデル」である。

中国ベンチャー市場の創業アイテム(全体像)(赤字は記事内で言及)
(出所: Legend Capital提供資料を基にDIリバイズ)


っ羚餮罵モデル
(例)田舎向けHP、PCブラウザゲーム、病院行列待ちアプリ

 このあたりから、中国発のユニークなモデルが登場し始める。特にこのっ羚餮罵モデルは、中国ならではの遅れ・不便さを逆手に取った新たなビジネスモデルを指す。3つの興味深い例を挙げよう。

(1)ウェブサーフィンに役立つポータル(Hao123):ネットリテラシの格差を解決

 Hao123は、1999年当時、田舎のインターネットカフェの管理人であった創業者が、インターネットリテラシの低い利用者に何度もブラウザの使い方を教えるうちに思い立ったサービスである。その中身はと言うと、インターネットユーザーが頻繁に訪れるウェブサイトのリンクをカテゴリー別に整理しただけのもの。

 しかし、2004年には本ポータルはバイドゥの40%のトラフィックを占め、2014年時点でも2・3級都市を中心に1.8億人のユーザーを持つ。

ウェブサイトのリンクを整理しただけのHao123。各キーワードからの広告費は月3億円に上る


 背景としては、中国では、地域間の所得・教育水準の格差が大きいことがあげられる。例えば、GDPも、短大以上の修了率も、上位3省と下位3省では4〜5倍の差が開いている。ここからすれば、特定地域/特定都市をターゲットに課題解決を行うビジネスモデルにも、まだまだチャンスがあると言えるのではないだろうか。

短大以上の修了者率 上位3省 vs. 下位3省(2012年)
(出所:中国政府統計)


(2)PCブラウザゲーム(天神娯楽):ダウンロード環境の未整備を解決

 天神娯楽は、中国最大のPCブラウザゲーム企業である。2014年7月には深セン取引所中小企業版に上場(迂回上場)し、2016年末の時価総額は約3900億円に上る。

 外部主要投資家であったLegend Capitalは、「ゲーム市場世界1位の中国では、ニッチセグメントであるPCブラウザゲームだけで3300億円ある。これは世界7位、つまりフランス全体のゲーム市場に迫る」「そのため、天神娯楽のようなニッチプレーヤーでも上場が十分に狙えるはずと考えた」と同社に着目した理由を語っている。

中国ゲーム市場規模の内訳(2016年)
(出所:中国游戏产业报告(CNG中新游戏研究))


世界の国別ゲーム市場規模(2016年)
(出所: The Global Games Market 2016(newzoo))


 この「中国でPCブラウザゲームが一定の存在感を占める背景」も、中国ならではの課題に裏打ちされている。つまり、インターネット速度が落ちる地域では、ゲームをダウンロードする必要のない、PCブラウザゲームがより好まれる、というものである。

 なお、天神娯楽の創業者は、2015年9月にウォーレン・バフェットと昼食を共にする権利を約235万ドル(2.8億円)で落札し、従業員と一緒にニューヨークで食事したことでも知られている。

(3) モバイル医療サービスプラットフォーム(微医(挂号网)):既存病院の行列待ちを解決

 2010年に設立された微医(挂号网)は、病院の予約や、電子処方箋の管理・発送等のサービスを提供するモバイル医療サービスである。全国2900以上の主要病院の情報システムに接続され、1.5億人以上の登録顧客を保有、累積利用回数も8.5億回に達する。

 投資家からも注目を浴びており、テンセント、復星集団、ゴールドマンサックス等も加わったこれまでの増資ラウンドでは、累計700億円近い資金調達が行われている。

 この背景にあるのは、未成熟で不便な、既存病院システムの存在である。中国の病院は、国営中心で、「許可制による限られた供給」と「等級制による高度3級病院への需要集中」により、待機時間の長期化・サービスレベルの立ち遅れが続いていた。これら病院では一般的に、複雑な手順を経て登録した後、医師による診療までに平均2.5時間待ちが必要と言われている。

中国における病院の順番待ちの様子


 これら3つのパターンを見て改めて分かるのは、いずれも「新興国の課題解決型」であるということだ。つまり、この「っ羚餮罵のモデル」は、その先の新興国(東南アジア・インド、等)でも何かしら示唆・展開余地があるのではないか、と筆者は見ている。

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(例)ドローン、フレキシブルディスプレイ、スポーツIoT

 最後の5パターン目が、いよいよ「イノベーション主導」である。中国が世界的に見て進んでいると思われる領域である。ここでも3社ご紹介しよう。

 代表例としてまず挙げられるのは、読者の皆さんもご存知、ドローン企業DJIであろう。2006年に深センに設立された同社は、米国、ドイツ、オランダ、日本、香港等の海外拠点も活用し、代表商品Phantomドローンのグローバル展開を行う。2015年には世界市場シェア70%、2016年には企業価値100億ドル(約1.1兆円)にまで成長を遂げている。

 ニューヨークタイムズの「2014年優秀ハイテク製品」、英国エコノミストの「最も代表的なグローバルロボット」にも選定され、質・量ともに、まさに「中国発イノベーション」の領域と言えるだろう。

AR Drone 1.0(上、2010年にリリース)とPhantom 4(2016年にリリース)


 2社目は、冒頭にご紹介したROYOLE社である。同社は、2012年創業でありながら、保有特許700、グローバル従業員700人、企業価値30億ドル(約3300億円)に急成長したテクノロジー企業である。世界初の0.01mm超薄型フキシブルディスプレイの開発に成功したほか、フレキシブルタッチセンサーや、VRを用いたスマート映画館システムを提供する。2016年3月にはScientific American「今年の革新的な企業」にも選定されている。

 最後に、コンシューマ向けスポーツIoTのZeppも、「中国発イノベーション」の一端を担う企業と言えそうだ(ドリームインキュベータとLegend Capitalの投資先でもある)。

 同社は、ゴルフ・テニス・野球といったスポーツ向けのウエアラブルデバイスを開発・販売する、「中国人が中国で創業した会社」である。しかしながら、設立5年目にはカリフォルニアに本社を構え、30万人超のユーザーのうち90%以上が欧米エリア、という目を見張るグローバル化実績を持つ(参考記事:前回連載第15回)。

スイングデータをセンサーで収集し、スマホ上での確認・比較・改善を可能とする


 筆者自身も、Zeppと日系企業との提携支援のため、創業者と日系スポーツメーカー各社との協議をアレンジした経緯があるが、その時の日本側の反応はいまだに脳裏に鮮明に残っている。技術担当者が、「ここまで完成されたセンサー・アプリ技術は見たことがない」と舌を巻くのである。ソフトウエアの世界であればまだしも、ハードウエアの世界において、ものづくり大国・日本のリーディングカンパニーが、中国発ベンチャーの技術に感銘を受ける場面が出てくる時代が来たのかと、筆者自身も衝撃を受けたものである。

 さて、そんな3社(DJI・ROYOLE・Zepp)であるが、実はいくつか共通点が存在する。

 まず1点目は、主な経営陣・中核技術者がグローバル企業の研究所出身者だということである。特に、DJIの共同創業者の1人(技術系)と、Zepp創業者は、ともにマイクロソフトリサーチアジア(北京、通称MSRA)の研究員出身である。しかも2人は、机を並べていた知人同士だというのだから驚きだ。

 こうした先端技術の世界では、まさに欧米の大学・研究機関出身の優秀な中国人技術者が、ベンチャー界に飛び込み、豊富な投資資金をバックに、最先端をひた走る、ということが起こり始めているのだろう(さらにその先、つまり中国の大学・研究機関自体が最先端に達するのも遠い未来ではないかもしれない)。

 次に2点目は、3社とも、チップやセンサー等のハードの製造は、全て深センで行っているということである。深センは、2015年には毎月平均約2万5000社の新規企業が設立され、まさにスタートアップのメッカとなっている。特に華強北エリアは、「ソフトウエアのシリコンバレー」の呼び声高い中関村エリア(北京)と並び、「ハードウエアのシリコンバレー」と呼ばれている。

 これまで2回にわたって、「様々な創業アイテム」を見てきた。次回は起業家側にスポットを当ててみよう。

最後に

◎ドリームインキュベータ・板谷より

「様々な創業アイテム」として、中国では「伝統領域から、イノベーション領域まで、様々な創業・成長の機会が用意されている」ことをご紹介して参りました。
 当然ながら、日本企業にとって、必ずしもそれら機会を全て取り込めるわけではないと思います。ただし、巨大な伝統領域で強み(技術・ブランド等)を展開しながら、むしろイノベーション領域では他市場・自市場への学びを得るという点で、中国は「何度も味わい甲斐のある市場」(裏を返せば”どこまでも逃げられない市場”)と言えるのではないでしょうか。日本の大企業が、こうした中国市場の潮流を取り込み、どのように新たな成長機会を獲得できるかについても、連載の後半で考えていきたいと思います。

◎Legend Capital・朴より

 私が中国VC業界に身を投じた2005年当時は、前回ご紹介した“Copy to China”()モデルが人気でした。ちょうど“中国のGoogle”を標榜するバイドゥがIPOし、中国人創業者は、IDGやDFJといったシリコンバレー系VCに向け、「いかに自分のCopy to Chinaモデルが成功できるか」をアピールするのがメインストリームだったのです。YouTubeのコピーキャットも、4000社は存在していたと言われ、「なぜ中国ではイノベーションが生まれないのか?」の問いに対し、「パクるネタがなくなってからやれば良い」という答えが横行していました。
 時は流れて2017年、アプリ系では北京・上海、ハード系では深センと、様々な中国発イノベーションが生まれてきているのには、隔世の感を禁じえません。

この記事のまとめ: 中国ベンチャー市場を読み解く6つのキーワード
(2)様々な創業アイテム(後編)
・ 中国固有モデル: (例)田舎向けHP、PCブラウザゲーム、病院行列待ちアプリ
・ イノベーション主導: (例)ドローン、フレキシブルディスプレイ、スポーツIoT

(筆者プロフィール)

板谷 俊輔
ドリームインキュベータ上海 董事兼総経理
東京大学工学部卒業、同大学院新領域創成科学研究科修了後、DIに参画。
北京大学外資企業EMBA。
エンタメ・デジタルメディア・消費財分野を中心に、大企業に対する全社改革(営業・マーケ改革、商品ポートフォリオ再構築、生産・購買コスト削減、組織改革、海外戦略見直し等)から、ベンチャー企業に対するIPO支援(事業計画策定、経営インフラ整備、常駐での営業部門立ち上げ、等)まで従事。現在は、DI上海に董事総経理として駐在し、現地政府・パートナーと連携しながら、日系大企業へのコンサルティングと中国・アジア企業への投資・事業育成を行う。

小川 貴史
ドリームインキュベータ上海 高級創業経理
東京大学工学部卒業後、ドリームインキュベータに参加。
主に、新規事業の戦略策定およびその実行支援に従事。 製造業(自動車/重工/素材)を中心に、IT、商社、エネルギー、医療、エンターテイメント等のクライアントに対し、構想策定(価値創造と提供における新 たな仕組みのデザイン)から、事業モデル/製品/サービスの具体化、組織/運営の仕組みづくり(実現性を担保したヒト・モノ・カネのプロデュース)、試験 /実証的な導入まで、一気通貫の支援を行っている。複数企業による分野横断的な連携や、官民の連携を伴うプロジェクトへの参画多数。

朴焌成 (Joon Sung Park)
Legend Capitalパートナー、エグゼクティブディレクター
韓国延世大学校卒業、慶應義塾大学MBA及び中国长江商学院MBA修了。延世大学在学中には、University of Pennsylvania, Wharton Schoolへの留学経験も持つ。
アクセンチュア東京オフィスを経て、Legend Capitalに参加。Legend CapitalではExecutive DirectorとしてEコマース、インターネットサービス、モバイルアプリケーション、コンシューマーサービス分野での投資を積極的に行う。韓国語、日本語、中国語、英語に堪能。
Legend Capitalは、レノボを含むLegendグループ傘下の中国大手投資ファンドで、ファンド総額は50億米ドルを超える。特にインターネット・モバイル・コンテンツ分野および消費財分野に強みを持ち、350社以上への投資実績がある。日系大手企業のLPも多数。

筆者:ドリームインキュベータ