北朝鮮の中国批判は一線を超えた(金正恩) KCNA/新華社/AFLO

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「北朝鮮は米国に次ぐ、第2の仮想敵だ」「韓国が朝鮮半島を統一した方が中国に有益」──。中国は激しい北朝鮮批判を続けている。もはや「血で塗り固められた友誼」は存在せず、国境をはさんで両軍が対峙。このままでは、米朝より先に、中朝戦争が勃発する可能性も指摘されている。ジャーナリストの相馬勝氏がレポートする。

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「北朝鮮=仮想敵」論をいち早く発表してきたのが、上海の華東師範大学国際冷戦史研究センター主任の沈志華教授だ。沈教授はソ連邦崩壊でロシアが混乱していた1994年、個人資産を投じて、ロシア政府から朝鮮戦争時のスターリンや毛沢東、金日成主席が交わした公電やその後の中朝ソ3か国が取り交わした秘密文書などのコピー数万部を入手し、翻訳や解読を行った。

 その研究成果の一部が同大のホームページ上で公開されている。それは今年3月、大連外国語大学で行った講演録で、約2万3000字に及ぶ長大な論文だ。そこには中朝関係の秘話が満載されている。

 たとえば、朝鮮戦争後の1958年、中国の義勇軍が北朝鮮から撤退する際、毛沢東は金日成と会談し、「もし、再度戦争するようなことがあれば、中国の東北部を北朝鮮に譲っても良い」と発言した。毛の真意は「戦争で北朝鮮が窮地に陥った際、北朝鮮軍は東北地方を拠点にして戦ってもよい」ということだと教授は語る。

 この言葉を言質として、2001年に訪中した金正日総書記が中国側に「東北部を『視察』したい」と申し出た。中国側は「外国首脳が(東北部に)行くなら、『訪問』であって、『視察』ではない」と異議を唱えたが、金総書記は「父親の金日成が生前『毛沢東主席は東北部を北朝鮮に譲った』と話していた」と反論した。

 江沢民指導部はすぐに、中国共産党中央対外連絡部の朱良部長(当時)に調べさせた。「たしかに金親子が毛沢東発言について自分たちに都合の良い部分だけを取ったのだが、事実だったことは間違いない」と教授は明かした。「このような解釈を行う北朝鮮こそ、中国の潜在的な敵だ。北朝鮮は中国の広大な領土を求めるという野心を持ち続けているのだ」と教授は憤る。

 また、北朝鮮が中国に敵対的な態度をとるようになったのは1992年8月、中国の最高実力者、トウ小平が金日成の反対を押し切って、中韓の外交関係を樹立してからで、この後、金日成は核兵器開発に着手し、金正日から、いまの金正恩指導部に引き継がれている。

「中国の核心的利益の一つは『東北アジア域内の平和的環境であり、中国の経済発展の持続』だが、北朝鮮は核開発に突き進み、域内の平和的環境を崩そうとしているのは明らかだ。もはや、この時点で北朝鮮は『潜在敵』であり、逆に韓国は『潜在的な友人』で、この結果、中朝友好協力相互援助条約は一片の紙屑でしかなくなった」と教授は指摘する。

 さらに、教授は「朝鮮半島の統一は中国にとって脅威だろうか」との疑問を呈し、「一般的に中国は米韓による朝鮮半島の統一よりは、北朝鮮が存続し続け、南北朝鮮が対立している現状の維持を望んでいる」との説に反論。韓国は潜在的な友好国なのだから、「韓国が朝鮮半島を統一した方が、中国にとって有益だ」と力説する。「なぜならば、韓国による朝鮮半島の統一によって、韓国と国境を接することになる中国東北部に韓国資本が流入し、東北部の経済発展を促進することになるからだ」と分析している。

 このような教授の「北朝鮮=潜在敵」論は、米国の朝鮮半島問題専門家で、ブッシュ政権当時の国家安全保障会議(NSC)アジア部長を務めたビクター・チャ米戦略国際問題研究所(CSIS)担当部長にも支持されている。チャ氏は今年4月25日、米上院アジア太平洋の政策と戦略に関する軍事問題公聴会で次のように証言した。

「北朝鮮は1994年から2008年の間に16回のミサイル発射実験および1回の核実験を行った。09年1月からこれ(今年4月25日現在)まで71回のミサイル実験および4回の核実験を実施した」と語り、核開発は近年、急ピッチで進められていると強調。とくに09年以降、北朝鮮は中国などとの話し合いにも応じておらず、「核開発中止に関して話し合いをする気がないことを示している」と断定する。チャ氏は「13年には中国側の窓口役を務めた張成沢氏を処刑して、中国とのパイプを絶った。これは金正恩委員長が中国を敵視している証拠だ」と鋭く指摘している。

 沈教授も米紙「ニューヨーク・タイムズ」の取材に対して、「もし、北朝鮮が核開発を完了すれば、世界は北朝鮮の独裁者の足下にひれ伏さなければならなくなるだろう。膠着状態が続けば続くほど、北朝鮮に有利になる」と分析。そのうえで、教授は「もし、北京とワシントンの政治的な協力が失敗し、北朝鮮の核開発の野望を封じ込められなければ、米中両国政府は対北朝鮮軍事オプションを前提とした協力体制を敷くべきだ」と強調している。

●そうま・まさる/1956年生まれ。東京外国語大学中国語学科卒業。産経新聞外信部記者、香港支局長、米ハーバード大学でニーマン特別ジャーナリズム研究員等を経て、2010年に退社し、フリーに。『中国共産党に消された人々』、「茅沢勤」のペンネームで『習近平の正体』(いずれも小学館刊)など著書多数。近著に『習近平の「反日」作戦』(小学館刊)。

※SAPIO2017年7月号