『サクラクエスト』が示す、“お仕事アニメ”の新潮流 “挫折”と“第2の人生”描く意義は?

写真拡大

 『花咲くいろは』『SHIROBAKO』に続く、P.A.WORKSの“お仕事シリーズ”第3弾となるアニメ『サクラクエスト』。東京で就活に失敗した短大生のヒロイン・木春由乃がひょんなことから田舎町の観光大使に就任し、仲間たちと共に町おこしに奮闘するストーリーだ。『サクラクエスト』のほかにも、7月からはゲーム制作現場を描いた人気アニメの2期『NEW GAME!!』の放送も決定するなど、このところ“お仕事アニメ”が勢いを増している。

参考:映画は自由でいいーー『KING OF PRISM -PRIDE the HERO-』が示す、常識の向こう側

 『攻殻機動隊』や『PSYCHO-PASS サイコパス』のような公安警察ものや、水都で働く少女たちの日常を描いた『ARIA』のように、特定の職業をテーマにしたアニメはこれまでにも多く作られてきた。しかし、“お仕事アニメ”という言葉が浸透しはじめたのは比較的最近のことだ。

 近年のお仕事アニメが過去の職業アニメ作品と大きく異なるのは、やはり“リアリティ”にあるだろう。これまでの職業アニメは、前述した3作品のようにSFやファンタジー要素が強いものが少なくないため、視聴者が自身を投影するというよりも、非日常性に触れるような側面が大きかったように感じる。ほかにも、ラブコメや日常系の色が濃く、職業アニメというよりは別のジャンルに区分されるような作品も目立った。

 そんな中で、2014年放送の『SHIROBAKO』や2016年放送の『NEW GAME!』は、それぞれアニメーション制作業界とゲーム制作業界という、比較的身近な職業を題材にしていた。そして、もちろん実際の現場と比べればそれなりに脚色はあるだろうが、社会人の登場人物たちが真摯に仕事に取り組んで、悩みつつも成長していく様が描かれる。それを見ていると、「明日から自分も仕事をがんばろう」と、背中を押されるような気持ちになるのだ。視聴者は、現実生活を忘れて物語の世界観に没頭するのではなく、仕事に励むキャラクターと現実の自分を重ねて活力をもらえるのが、近年のお仕事アニメの特徴だといえるだろう。

 しかし、『サクラクエスト』は、そうしたお仕事アニメの潮流とは少々立ち位置が異なるのではないか。その理由のひとつは、田舎を舞台としている点にある。主人公が移住することになった“真野山”は、実際には存在しない架空の町だ。しかし、石川県を描いた『花咲くいろは』に続き、富山県の南砺市をモデルにしたという説が色濃い。そのため、東京が舞台の『SHIROBAKO』や『NEW GAME!』と比べるとどこかまったりした雰囲気で、“社畜感”のようなものも感じられない。

 また、同じく田舎が舞台の『花咲くいろは』が“旅館の仲居”を取り上げているのに対し、『サクラクエスト』では“観光大使”という少々世間離れした職業がテーマだ。普通の観光大使ではなく、“チュパカブラ王国の国王”という設定も、だいぶ絵空事じみている。もちろん、回を重ねていくうちにストーリーは徐々に現実性を増し、主人公たちも本格的な町おこしの仕事に精を出すようになっていくのだが、これまでのお仕事アニメと比べると少々空想的な印象を受ける。

 もうひとつ、『サクラクエスト』が新鮮なのは、“挫折”とその先にある“第2の人生”を示している点にある。主人公の由乃は就活に失敗してバイト気分で観光大使を始めたし、早苗は東京での生活にくじけて田舎へ逃避、真希も女優として成功する夢を諦めた。こうして何かしら人生につまずいた登場人物たちが、田舎で新たな一歩を踏み出していく。これまでのお仕事アニメが働く人々の毎日を応援していたのに対し、『サクラクエスト』は、いざとなったら現在の仕事とは違う選択肢もあるのだと、逃げ道を提示してくれているのではないだろうか。

 正直なところ、P.A.WORKSの過去のお仕事シリーズ2作品と比べて『サクラクエスト』の評判はイマイチだ。2クールものということもあってか、走り出しはストーリー展開ものんびりしていた。しかし、挫折や逃避の肯定からは、これまでのお仕事アニメになかった“癒し”が得られるし、ノスタルジックな世界観にもスルメ的な味わい深さがある。都会での生活や仕事に疲弊した社会人には、ぜひとも視聴をおすすめしたい。

■まにょライター(元ミージシャン)。1989年、東京生まれ。早大文学部美術史コース卒。インストガールズバンド「虚弱。」でドラムを担当し、2012年には1stアルバムで全国デビュー。現在はカルチャー系ライターとして、各所で執筆中。好物はガンアクションアニメ。