学生の窓口編集部

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著名人の方々に大学在学中のエピソードを伺うとともに、今の現役大学生に熱いエールを送ってもらおうという本連載。今回のゲストは『フィデリティ退職・投資教育研究所』所長を務める野尻哲史さん。『日本人の4割が老後準備資金0円 老後難民にならない「逆算の資産準備」』(講談社+α新書)、『貯蓄ゼロから始める安心投資で安定生活』(オレンジ世代新書)などの著者として活躍される野尻さんは「日本人の老後の生活設計」の研究における第一人者です。そんな野尻さんはどのような学生生活を過ごされたのでしょうか? 地元の岐阜県から一橋大学に進学した、当時の野尻さんの学生時代のお話を聞いてみました。

親元を離れるために、東京・一橋大学へ

――野尻さんは岐阜県立加茂高等学校からなぜ一橋大学商学部を選んだのでしょうか?

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正直に言いますと、大学はどこでもよかったんですよ。まず、おやじの元を出たいという気持ちがありましたね。父の名前は「鐵次(てつじ)」といいますが、どこに行っても「鐵次さんとこの息子さんね」って言われるんですよ。子どもの頃から「息子さんの〜」ではなく、なんとか自分の名前で呼ばれるようになりたいと、本当に思っていました。

最初は、大学も岐阜に行こうか、名古屋に出ようか悩んでいたんですが最終的には東京に出てきちゃいました。父親は地元に進学するものと思っていたので、怒って生活費を出してくれませんでした(笑)。

――お父さんは東京に出ていくのが許せなかったのですか?

そうですね。「知らん」と言ってましたね。母は少し援助をしてくれましたが、あとはアルバイトで捻出しました。ですから学生時代は貧乏生活でした。一橋大学に受かったときも父は、国立だとか私立だとか、そういうことは一切気にしないで、「授業料はいくらだ?」と聞いてきたぐらいです。

――商学部を選んだ理由は何だったのですか?

一橋大学にしたのも最初に合格したからですし、理由はなかったですね。当時は特に経済に興味があったわけでもないですし。高校では理数科にいて、数学をやってましたので、本当ならそのような分野を選ぶべきなんですけれども。でも文系を選んでしまいましたね。当時は受かる大学を選びをしていて、最終的に一橋大学の商学部にご縁があったという訳です。

クラブ活動に熱中した学生時代

――商学部ではどんなことを学ばれましたか?

一番難しい質問ですね(笑)。ゼミは吉野昌甫(よしの まさとし)先生の「国際金融論」でした。学んだことはともかく、一緒に学んだ仲間はよかったですね。今でも付き合いがありますよ!

――友達も優秀な人が多かったのではありませんか?

たしかに頭のいいやつはたくさんいました。でも、単に頭がいいだけではなく、独創的な人が方が多くいたのがよかったです。毎回こんなこと考えているのか、と驚かされたりしていました。

――学生生活はいかがでしたか?

正直あんまり学校に行かなかったですからね(笑)。アルバイトとクラブ活動がほとんどでした。アルバイトは本当にいろいろやりましたよ。一番実入りがいいのは家庭教師ですが、道路工事の旗振りとか、工場の荷出しとか……とにかくたくさんのアルバイトを経験していました。

――クラブ活動は何を?

1・2年のときは学祭(小平祭:現在のKODAIRA祭)の実行委員、委員長をやってました。3・4年はラフティングです。「ストローム(Strom)会」というのがありまして。現在はとても強くなっているんですが、その黎明(れいめい)期といいますか、まだ出来たての頃に入って活動していました。私がたしか四代目の世代に当たるはずです。偶然の産物でもあったのですが、仲間うちの人間が何人かいたのと、岐阜の川で育ったというのもあり、ラフティングの道に入りました。

――ラフティングの活動はどうでしたか?

ホームグラウンドは奥多摩なんですが、そこまで行って練習をしていました。当時はラフティングというものがメジャーではありませんでしたから、用具をそろえるのも一苦労。勝つとボートがもらえる大会もありました。ヘルメットがないものだから道路工事用のものをかぶったりしていました(笑)。今はそのストローム会もすっかり強くなっていて、今年も全日本で優勝した、とかで連絡がありました。国際大会にも出ているそうで、びっくりしちゃいますよ。

ただ、私たちの時代と一番違っているのは女の子が入っていること。当時は今みたいに施設が充実していないので、お風呂もないし、トイレもない。北海道の天塩(てしお)川にツアーに行って10日間もそんな環境で過ごす、なんてことをやってましたから、女性が入会することは想像もできませんでした。

結局ラフティングが楽しすぎて、4年生のときもぎりぎりまでクラブ活動をやっていました。大学4年生はアルバイト、クラブ活動、ゼミの生活でした。

――4年といえば卒論ですが、ちなみに卒論はどのようなものでしたか?

恥ずかしいからあまり言いたくないんですが(笑)、「マネタリーアプローチを使ったメキシコ経済の分析」というものでした。自分が卒論を提出した翌年にメキシコ債務危機(1982年)が起こって、「お前の卒論は全然当たんなかったな」なんて冷やかされたものです。でもこの論文を書くのにいろいろな文献を調べて、国が経済に与える影響というのは随分大きいものなんだな、と思いましたね。

大学4年の夏までクラブ活動を、そこから就活へ

――卒業後は山一證券に入社されますが、なぜ山一證券を選ばれましたか?

4年の夏が終わるまでクラブ活動をやっていたものですから、就職活動は何もしていませんでした。当時は就職先が決まっていなくて最初は留年しようと思っていたぐらいです。しかし、ゼミの吉野先生に相談に行ったら

「お前ね、この1年は遊ぶ1年かもしれないけど、日本には定年制というのがあって、今の1年は最後の一番年収の高いときで、(留年するのは)それを無駄にするのと同じだ」

と言われて……。それなら就職先を探さなくちゃ、と慌てて就活をしましたよ。吉野ゼミのOBは銀行と商社が多かったので、まずは銀行を回ったんですけどね。「野尻遅いよ、今ごろ何しに来たんだよ」なんて言われました。今なら考えられないことですね。ところが、大学の先輩が山一證券にいて、そこを訪問したら「いいから来い」と引っ張り込まれたような形で就職しました(笑)。

――職種に希望はなかったのですか?

証券会社だったら調査部に入りたい、アナリストになりたい、とは思っていました。株価の分析の中に「企業分析」というジャンルがありますが、当時はそこに魅力を感じていました。でも、当時の私の知識ですから、実際はまったくの付け焼き刃だったのかもしれません。

――アナリストの魅力はどんな点ですか?

これは入ってから思ったことですが、企業分析っていろんな方法があるんだ、と。ツールの議論だけではなくて、例えば経営者によってこんなに変わるんだ、とか、習うことは本当にいっぱいありましたよ。1日24時間じゃとても足りないな、と当時は思っていました。

――大学で学んだことは入社してから役立ちましたか?

うーん……テクニック的なことではやはりゼロなのかもしれません。もちろん、大学時代から「分析についての議論やノウハウを学ぶことは会社に入ってからいくらでもできる」と言われていましたが、分析のテクニック自体は学生時代はまったく知りませんでした。

その一方で「大学に行ったことが役に立ったか?」という問いには、「すごく役に立った」と言えますね。大学時代に出会い、共に学んだ仲間は就職後も助けてくれます。今でも昔の仲間と月イチで飲み会をやっています(笑)。大学に行かなかったらそんな仲間とも出会ってないですからね。

■現役大学生へ「自由闊達(かったつ)に!」

――現役大学生に対してアドバイスをお願いします。

これからは人口構成も大きく変わっていく時代ですから、「ダイバーシティ」というものを肌感覚で理解していないと生きていくのがつらいだろうな、と思います。学ぶことや仕事などをもっと自由に考えていいんじゃないか、若いうちからもっと多様性について知っていた方がいいんじゃないか、と思います。言い方を変えると「縛られることがなくなってきているんじゃないか」ということ。

例えば「就『社』じゃないよ、就『職』だよ」と私たちの時代にも言われたものですが、今はそれが実現できるようになっている気がします。入社した会社が嫌だったら、似たようなことをやっている同業他社に就職しちゃえばいいわけですよ。

学ぶことでも同じで、海外の大学に行ってもいいし、大学に入り直したっていいですし、やり方が自由になっている、この認識を持つことが大事だと思います。

「仕事」「学ぶこと」だけではなくて、他のことでも、もっと自由に行き来できるような発想を持ってほしいな、と思います。「ダイバーシティ」だと受け身なイメージがありますから「自由闊達」でしょうか。もっと闊達な部分、フレキシビリティーを持って学生時代を謳歌していただきたいですね。

――ありがとうございました。

野尻さんが、現役大学生のみなさんに一番伝えたいメッセージは、「自由闊達」。のびのびとやりたいことに挑戦できる環境があるのは大学生ならではの特権なのかもしれませんね。「大学はどこでもよかった」と語る野尻さんですが、現在の著名なエコノミストとしての原点は一橋大学商学部に入ったことであり、そこで出会った仲間や先生との交流が野尻さんの基盤となっています。現在大学生活を送っているみなさんは、野尻さんの言葉を参考に、自分の仲間を大事にして、自由闊達に行動してみてはいかがでしょうか?

(プロフィール)
のじり・さとし

一橋大学商学部卒業。内外の証券会社調査部を経て、現在、フィデリティ投信株式会社にて『フィデリティ退職・投資教育研究所』所長。日本証券アナリスト協会検定会員。証券経済学会・生活経済学会・日本FP学会・行動経済学会会員。『日本人の4割が老後準備資金0円 老後難民にならない「逆算の資産準備」』(講談社+α新書)、『貯蓄ゼロから始める安心投資で安定生活』(オレンジ世代新書)など著書多数。
⇒『フィデリティ退職・投資教育研究所』(『フィデリティ投信株式会社』)https://www.fidelity.co.jp/fij/invest_navi/
⇒一橋大学『スローム会』公式サイトhttps://rafting-strom.jimdo.com/

(高橋モータース@dcp)