動物の命がけ「母性愛」の秘密がわかった

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動物の母親はどうして自分を犠牲にしてまでわが子を守ろうとするのか。命がけの「母性愛」に私たちは感動するが、実は母親の原動力の仕組みはよくわかっていなかった。

ポルトガルのシャンパリモード神経科学研究所の研究チームが、母親の「愛情ホルモン」が自己防衛本能をストップさせ、献身的な行動に踏み切らせることを突きとめ、生物学誌「eLife」(電子版)の2017年6月13日号に発表した。

オキシトシンが防衛本能をストップさせる

弱肉強食の動物の世界。強敵に出会った動物は、命の危機を避けるために2つの行動をとる。一目散に逃げるか、気づかれないようにじっとしているか(凍りつく=フリーズ行動)だ。ところが例外の動物がいる。子どもを連れた親、特に母親だ。わが身を犠牲にしても果敢に敵と戦って子どもを守ろうとする。

子どもを守るために毒ヘビにかみつく母ウサギ、キツネからヒナの注意をそらすために、羽が傷ついたふりをしてキツネの前に身を投げ出す母キジ、ライオンの群れに突進するカバの母親......などなど。何となく「母性愛」のなせるわざということはわかるが、実際にどんなメカニズムが働き、自己防衛本能を捨ててまで子を守ろうとするのか、解明されていなかった。

「eLife」誌に掲載された論文によると、研究チームのエリザベス・リッケンバッハ博士らは、「愛情ホルモン」と呼ばれるオキシトシンに注目した。オキシトシンは、母親が赤ちゃんに授乳している時に特に多く分泌される。「愛おしい!」「守ってあげたい!」という気持ちを誘発させる。母子関係やカップル間の絆を深める働きをする。最近では、自閉症など社会生活にうまく適応できない人にオキシトシンを投与すると、コミュニケーション能力が向上することが明らかになり、幅広い行動に作用していることがわかっている。それだけにオキシトシンが命がけの「母性行動」にどうかかわるのか、解明が難しかった。

リッケンバッハ博士らは、出産後まもないメスのラットを使って、命の危機がある状態の時に、子どもがそばにいる場合と、自分だけの場合で、どういう行動をとるか実験した。まず、子どもがいない場所で母ラットにペパーミントの香りをかがせながら体に傷かつかない程度の電流を流し、香りが危険であることを植え付けた。すると、母ラットはペパーミントの香りをかぐたびに「フリーズ状態」に陥った。狭い箱の中では逃げる場所がないため、凍りつく以外に自分を守ることができないからだ。

その後、子どもと一緒にさせてペパーミントの香りを流すと、母ラットはフリーズ状態になるどころか、香りを流しているチューブにかみついて攻撃した。そして、子どもを守るために巣とチューブの間に物を置いたり、体を密着してお腹に子どもを抱えたり、グルーミング(毛づくろい)したりする行動をとった。

母親の献身的な行動から子どもは危険を学習

ところで、オキシトシンは脳の扁桃体と呼ばれる部分で分泌される。母ラットの扁桃体でオキシトシンが分泌されないようにして同じ実験をすると、母ラットは子どもが一緒にいても、ペパーミントの香りをかぐとフリーズしたままになった。子どもを守る行動をとらなくなったのだ。自己防衛本能をつかさどる部分も同じ扁桃体にある。このことから、リッケンバッハ博士らは、オキシトシンが自己防衛反応を起こす神経回路に作用し、フリーズなどの防衛行動をストップさせていると考えている。リッケンバッハ博士らは論文の中でこうコメントしている。

「詳しいメカニズムはまだ不明ですが、人間にも同じ仕組みがある可能性があります。興味深いのは母ラットの行動によって。子ラットもペパーミントの香りが危険であることを学習したことです。母親のお腹に抱えられた子ラットは、1匹の状態でペパーミントの香りをかがせられるとフリーズしたのです」