川崎フロンターレ・小林悠インタビュー(前編)


今季からフロンターレのキャプテンを任された小林悠 噛みしめるように言葉を絞り出す小林悠の表情には、悲壮感すら漂っていた。

「昔はすごい内容が大事というか、そこを優先していたところがあったんですけど、あれからは正直、勝てれば何でもいいというくらい、自分の中で物差しがはっきりと変わりました。極端なことを言えば、今は内容なんて多少悪くても、本当に勝てればいいやって思っています」

 内容より結果――小林がそれを強く意識するようになったのは、今季より川崎フロンターレのキャプテンに就任したから、というだけではない。その真意を知るには、彼が「あれから」と語る、その時間まで時計の針を巻き戻す必要がある。

 そう、2017年1月1日、大阪・吹田スタジアムで延長戦の末に1-2で敗れた鹿島アントラーズとの天皇杯決勝まで……。

「あの天皇杯の決勝は、自分がプロになって初めてタイトルがかかった試合。これまでフロンターレは『シルバーコレクターだ』って言われ続けてきましたけど、自分としては”鬼門”と言われる試合で得点してきたこともあって、勝てる自信もありましたし、チームの苦い過去はあの日で最後にしようと思っていたのに……。結局、それができなかった。

 もう本当に最悪な新年のスタートでしたよね。試合が終わって帰りの新幹線の中でも、『何であのとき、こうしなかったのか』とか、そんなことばかり考えていた。家に帰れば、お正月モードでしたけど、やっとオフになったという感覚はなくて、家族といても最初は楽しみ切れていない自分がいました」

 半年経った今も、昨日のことのように悔しさがぶり返してくる。それは、話を聞いたこちらが申し訳なくなるほどだった。自身のキャリアにおいて初めて臨んだ決勝で、彼が強く感じたのは、戦う姿勢だった。

「率直に言って『戦っていないな』って思ったんですよね。天皇杯決勝でも、球際で負けるシーンは多かったですし、鹿島みたいにセットプレーで決めるというよりも、どこかでやっぱり僕らは内容を重視していた部分が強かったのかなと。昨季は点が多く取れる試合もたくさんあって、プレーしていてすごく楽しかったですし、それ自体はよかったんですけど、結局、勝負どころの試合で勝てなかったという現実を突きつけられた。

 それはなぜかって考えたら、目の前の一つひとつのバトルに勝つ、勝てないというのが、決勝の大舞台で出てしまったのかなって……。だから、自分がキャプテンになって変えていかなければならないのは、そういうところだなって」

 今シーズンより指揮官に就任した鬼木達監督に、キャプテン就任を打診されたのは、シーズンインして間もない、宮崎キャンプ3日目のことだった。監督の部屋に呼ばれると、「変にキャプテンだからと意識せず、チームにピッチの中で戦うことだったりを、悠なりに伝えていってほしい」と言われた。小林自身も「呼ばれたときから、キャプテンの話かなとは思っていた」と、経緯を語る。

「自分もそろそろ(キャプテンを)やらなければなという気持ちもあったから、その場で『がんばります』みたいな感じで、すぐに返事をしました。実際、自分自身もフロンターレに足りないのは、ピッチで戦う姿勢であったり、球際で負けないことだったり、純粋に走るというところだと思っていたので、今もですけど、開幕前からそこは厳しく言うようにしています」

 迎えた今季のJ1リーグでは、開幕戦こそ勝利したが、続く第2節のサガン鳥栖戦は1-1で引き分けた。小林自身は連続得点を記録したが、新加入選手が多かったこともあり、攻撃の歯車は噛み合わず、試合後のミックスゾーンではチームに対する憤りをぶちまける一幕もあった。

「勝っていれば、内容が悪くてもいいかなとは思っていたんですけど、内容も結果も両方が伴わなくて、実際、攻撃も全然怖くなかった。だから、『自分以外に(得点を)決められそうな人がいない』って言ったんです。もっと自分が、自分が、という選手が出てこないと、この先、勝てないなって感じていましたし、そうした発言をすれば、周りが奮起してくれるかなとも思った」

 チームからは、「キャプテンになったら記事になることも多いから、何でもかんでも思ったことを言わないようにって注意されました」と小林は笑う。最近は発言にも注意していると言うが、「後悔はしていない」と語気を強めるほど、小林は危機感を募らせていた。

 その後も川崎は、AFCチャンピオンズリーグを並行して戦う中、第6節から第9節まで4試合勝ち星から遠ざかるなど、復調のきっかけをつかめずにいた。だが、第10節からは3連勝を飾り、大きく息を吹き返す。


「内容が悪くても、勝てればそれでいい」と言う小林悠 転機になったのは、引き分けが続いていた最中の清水エスパルス戦(第8節)を前にして、鬼木監督が行なった原点回帰だった。小林も「(清水戦を前に)オニさんが守備のことばかり植えつけてきたけれど、もう1回、攻撃的なサッカーを見せようと言ってくれて、みんなも頭がリセットされたというか、すっきりしたところはありました」と話す。

 そうして、ACLでもベスト8進出を決めるのだが、そこには鬼木監督の檄(げき)はもとより、キャプテンとして小林が働きかけてきたことも大きかった。

「練習のときに、厳しいことだけを言うのではなく、いいプレーに対してはその場で『ナイスプレー!』って声を掛けて、褒めることはかなり意識していますね。例えば、球際に強くいくことができなかった選手に厳しい言葉を掛けて、その後、その選手がボールを奪い返しにいったとしたら、そのときはプラスになる声を掛けるようにしています。

 厳しいことばかりを言ってチームの雰囲気を悪くするのではなく、いいプレーに対してはいいプレーだと褒めることで、練習から雰囲気をよくしていきたい。そうすることで、このプレーはいい、このプレーは悪いという意思統一も図れますし、それが試合にもつながりますからね」

 勝てない中でもチームが崩れなかったのは、そうした雰囲気作りがあったからだろう。また小林は、キャプテンとして”誰と何を”話すかを心がけるようにもなった。

「(中村)憲剛さんとはもともとイメージを共有できているので、相談もしましたし、一番話もしていましたけど、結局、わかっている者同士で話していても、チームとしては改善していかない。それに気づいてからは、阿部(浩之/ガンバ大阪→)ちゃんとか、今季加入してきた選手と多く話すことで、お互いの感覚のズレというものを擦り合わせていくようにしました。

 そうやってコミュニケーションを取る回数を増やしていくことで、阿部ちゃんなどはチームにすごくフィットしてくれた。そのあたりから、阿部ちゃん自身のゴールも多くなったりして、だいぶ今は楽になってきたところはありますよね。選手間でミーティングもしましたけど、それ以上に練習の合間、合間で、個々に話をしていくことで、チームとしてもよくなってきたと思っています」

 オセロのように、一気にすべての石をひっくり返すのは難しい。小林は、一つひとつの石を黒から白に変えていく作業を惜しみなく続けていった。

 キャプテンであるがゆえに、結果が伴わない時期には小林の表情もどこか曇りがちで、思いつめているようにも映った。そのことを問うと、「そりゃ、責任は感じますよね」と即答し、笑った。そして、今は一点の曇りもない澄んだ瞳をこちらに向けて、こう続けた。

「(いろいろなものを)背負いすぎているというのもわかっているんですけど、キャプテンをやることで、選手として、人間として、すごく成長させてもらっているなと思っています。1年目から全部がうまくやれるわけはないとも思っていましたし、難しいことも含めて全部、自分の成長につながると思っている。それに、キャプテンだから、背負う部分は大きくていいと思っているんです」

 小林がこだわる結果がついてくるようになると、表情にもかつての明るさが戻ってきた。それもまた、キャプテンとして成長した証でもあるのだろう。

 自宅の寝室の扉には、3枚の紙が貼ってある。そのうちの1枚には「タイトル」の文字が大きく書かれているという。天皇杯決勝で味わった悔しさが、勝つことへの執着に変わった。

「今は勝てれば、内容なんて二の次だって思っています。誰が決めたとか、どういうプレーをしたとか、正直、今はどうでもいい。もう本当に、全員で守ってセットプレーで一発だけ決めて勝っても、勝ちは勝ちですからね。こっちが相手を崩して2点取っても、相手に3点取られたら負けるわけですし、そこは今年になってすごく変わったところだと思います」

 それは、キャプテンとして見せた本心である一方で、ストライカーとしては”嘘”でもある。矛盾しているふたつの感情――それこそが小林の人間らしさでもある。

 3枚の紙のもう1枚は「全試合出場」だが、実は残る1枚に書かれている言葉こそが、小林悠そのものを表している。

(つづく)

■Jリーグ 記事一覧>>