2017年、東京での“当たり前”な出会い方。

それはお食事会でも“友人の紹介”でもなく、デーティングアプリだ。

しかしオンライン上での出会いに、抵抗感を示す人は未だ少なくない。今まで難なく自分の生活圏内で恋人を探してきた男女なら、尚更のことだ。

商社で秘書として働く、桃香(30)もその内の一人。

―デーティングアプリって流行っているみたいだけど、私には必要ないわ。

そう思っていたある日のこと、友人・亜美がデーティングアプリで彼氏ができたことが発覚。憧れの先輩・奈緒が「いいね!」していた「東カレデート」をダウンロードする。

最初はアプリに抵抗を示す桃香だったが、元彼に新しい恋人ができたことを知り、「東カレデート」で知り合った外資系投資銀行勤務の秀一と会うことを決意した。





「さて…。今日は何を着ていこうかしら」

今日は「東カレデート」で知り合った秀一と、『ユニオン スクエア 東京』でランチデートの約束をしていた。

秀一のデートを決める段取りは、完璧だった。

『ユニオン スクエア 東京』という店のチョイスは、肩肘張りすぎていない感じがいい。それに、デーティングアプリでの出会いに抵抗があった桃香でも、ランチの誘いならハードルが低く、受けやすかった。

―やっぱり、秀一さんが私の運命の人なのね……。

元彼のケンに新しい恋人ができたと知って落ち込んでいた桃香だったが、秀一とのデートがトントン拍子に決まり、ご機嫌だった。

白金の自宅から『ユニオン スクエア 東京』があるミッドタウンまで、およそ15分。

スマートフォンの表示はまだ10:30だったが、出かける支度を始めた。初デートの支度には、いつも2時間ほどかかる。半身浴から始まり、メイクとヘアセットには普段の倍、時間をかけるからだ。

40度で沸かした浴槽に、ローズの香りがするジョー マローンのバスオイルを入れ、20分ほど半身浴をした。

ゆっくり湯船につかったせいか、いつにも増して顔色が良い。ベースメイクを入念にし、いつもより慎重に髪の毛を巻き終わった頃には、時計の針は12:30を指していた。

「……完璧だわ」

桃香は思わずつぶやいた。鏡に映る女は美しく洗練されており、これで恋に落ちない男は、きっと男じゃない。

完璧にセットした巻き髪を崩したくなかった桃香は、外苑西通りからタクシーを拾った。


秀一とのデートで、桃香が思わず固まった瞬間とは!?


それまでのメッセージのやり取りから、秀一はかなりのエリートだと分かっている。

神戸にある名門の私立一貫校を卒業後、東京大学に進学し、商社に就職。会社員時代にMBAを取り、その後今勤務する外資系投資銀行に転職したという。

外見もプロフィール写真を見る限り、癖のない爽やかな雰囲気だった。

―こんなにすぐにいい人が見つかるなんて、アプリもなかなか効率的よね。

元彼のケンに新しい彼女ができたと知って以来、桃香の気持ちは100%、秀一に向けられていた。外見もスペックも、桃香の恋人として充分相応しい彼だ。

―私たちはきっと、うまくいくわ…。

久しぶりの恋の予感に、桃香は胸をときめかせていた。



「こんにちは」

『ユニオン スクエア 東京』のテラス席に着くと、秀一は桃香ににっこり微笑みかけた。

しかしその秀一の姿を見て、桃香は一瞬固まった。彼の私服が、イメージしていた印象とかなりのギャップがあったからだ。

バンドマンのようなロゴ入りのTシャツに、黒いベスト。首には個性的なデザインの、十字型のネックレスを下げている。

「こんにちは。お待たせしてしまって、すみません」

その思いに気づかれぬよう、桃香も慌てて挨拶する。

この店のテラス席は、隣のテーブルとの間隔がきちんと取られているため、2人のぎこちない会話を聞かれる心配がない。

秀一が考慮してくれたであろう気遣いに感謝して、好みではない私服についてはいったん忘れようと心に決めた。




「桃香さんみたいな素敵な人と会えるなんて、本当にラッキーだな」

秀一は臆面もなく、さらっとそんなことを口にする。

「……いえ」

桃香は恥ずかしそうにうつむきながら、秀一をちらりと見た。センター分けにしたやや長めの髪、癖のない顔の爽やかな雰囲気。服装以外は、一切申し分ない。

「桃香さんは、商社にお勤めなんですよね?」
「えぇ。秀一さんも、商社にいらっしゃったんですよね?」

同じ会社ではなかったが、共通の知り合いが何人かいたので、その話でひとしきり盛り上がった。

秀一は、今の外資系証券会社に転職して3年目。最近は仕事も落ち着き、土日に時間が作れるようになったため、そろそろ本腰を入れて彼女を作ろうと「東カレデート」に登録したらしい。

「もう僕も33歳なので、食事会とかに行っても後輩のノリの良さに圧倒されるばかりで…」

そうやって正直に話すところが、好印象だった。だからこそ、彼の首元で不気味に光り輝くネックレスが、どうしても気になってしまう。

少し緊張も解けたところで、桃香は思い切って切り出した。

「秀一さんは、普段からアクセサリーされているんですか?」

桃香の突然の問いかけに、秀一はきょとんとした顔をする。

「……あ、すみません。すごく個性的なネックレスを、つけていらっしゃるから」

思い切ってそう重ねると、秀一は恥ずかしそうにこう答えた。

「いや、そういう訳じゃないんですけど。僕、若い頃は勉強ばかりしていたから、こういう男らしいファッションに憧れがあって。……変ですか?」
「いえいえ、全然!」

桃香は慌てて否定したが何となく気まずい雰囲気になってしまい、結局その日は食事が終わるとすぐに解散した。


桃香、うまくいかない恋愛にイライラが爆発!?




「いい人だったんだけど、本当に惜しかったわ……」

家に帰り、桃香は後輩の茜を自宅に呼び出し、今日の話を聞いてもらっていた。いつもなら一番仲の良い亜美を誘うところだが、この間咄嗟に嘘をついてしまったし、今日は聞き上手で優しい茜に、うんと慰めて欲しかった。

「東大卒で超エリートだし、デートの段取りも完璧なのよ。雰囲気は爽やかでいい人だったし、でもちょっと私服がね……」

しかしすぐ自分に言い聞かせるよう、こう畳みかけた。

「でもやっぱり、秀一さんは運命の人だと思うのよ。ケンに新しい恋人ができたタイミングで彼と出会えた、ってすごい偶然じゃない?服装なんて、付き合ってからいくらでも直せるし……」

茜はその話を全て聞き終えると、リスのようなくりっとした目で桃香を見つめながらこう言った。

「桃さん、厳しいことを言うようですが」
「……なに?」
「ケンさんに新しい恋人ができたから、この人が運命の人だって、いくら何でも安直じゃ……。相手には関係ないことですし」

普段は穏やかな茜の口から出る、厳しい言葉の数々は、桃香にとって意外だった。

「それに、女性って“私服がタイプじゃなくても、付き合ってから変えられる”って言いますけど、こだわりがある人は、変えられませんよ。だって、本人はそれがお洒落だと思っているわけだから」
「そ、そんなの、分かってるわよ。ちょっと、言ってみただけよ……」

桃香はこれ以上自分の話に突っ込まれたくなくて、話の矛先を茜に向けた。

「ところで、茜ちゃんは“タップル”で知り合った人とは、どうなのよ?」
「実は来週、3回目のデートなんです」

その話を聞きながら、桃香は、今日のデートで引っかかっていたことを聞いた。

「ちなみに初めてのデートで、LINE交換した?」
「えぇ、しましたよ。今はLINEで連絡してます」

桃香は今日、秀一に連絡先を聞かれなかった。

―やっぱり、秀一さんは、“運命の人”じゃなかったのね……。

考え込む桃香に気づいたのか、茜は気を取り直したように、こう聞いてきた。

「『東カレデート』で、他にいい人いないんですか?」
「……秀一さん以外、メッセージしていないもの」
「え?本当ですか?」
「だって、秀一さん以外いないと思ったのよ……」
「桃さん、思い詰め過ぎ!!同時進行しなきゃ、色んな人と出会えるアプリの意味がないじゃないですか」

ほんわかした外見に似合わず、茜は力強くそう言った。

「桃さんは、美人だし大丈夫ですよ。次にいきましょう!」




どんな落ち込んでいるときだって、「美人」と言われれば、桃香は少し気分が上がる。

「そうよね、今回は運が悪かっただけだわ…!」

茜に励まされ、桃香は気を取り直して「東カレデート」を開いた。

▶NEXT:7月5日水曜日更新
茜に励まされて、立ち直った桃香は同時進行を試みる!?

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