「ロンドンは、オリンピックに向けての地下鉄改修工事のなかで、深夜運行を可能とする保守点検設備を整えました。東京も参考にするべきです」と語る木曽崇氏

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少子高齢化、労働人口の減少などによって、先細りが危惧されている日本経済。そんな中、経済成長、地域活性化、観光振興の最終戦略として注目されている経済ジャンルがある。それが、ナイトタイムエコノミーだ。

本書『「夜遊び」の経済学』は具体的な事例を紹介しながら、なぜ最終戦略として期待されているのかをわかりやすく解説している。IR(統合型リゾート)、カジノ研究の第一人者でもある著者の木曽崇氏に話を聞いた。

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―本書のサブタイトルでもある「ナイトタイムエコノミー」という言葉は、あまり聞きなじみがないんですけれど、具体的にどういったことなのでしょうか?

木曽 ナイトタイムエコノミーの定義は「夜遊びに伴う経済活動」です。ナイトタイムエコノミーという経済ジャンルの研究や振興が世界的に進められてきたのは、1990年代からのこと。そして最近、日本の政界、経済界でもナイトタイムエコノミーの振興が必要という議論が高まりつつあります。

4月に「時間市場創出推進(ナイトタイムエコノミー)議員連盟」が設立されましたし、楽天の代表取締役会長兼社長・三木谷浩史さんが代表理事を務める「新経済連盟」も2月に「観光立国推進基本計画」の改定案への意見として、ナイトタイムエコノミーの振興を挙げているんです。

―東京オリンピックに向けて、観光の施策にもなる?

木曽 全体の流れとしては、海外からの旅行者への観光施策にもなるといえるでしょう。来日観光客数は増えていますが、地方都市に目を向けてみると、シャッター商店街が増えてきています。街歩きをしたり、お酒を飲んだり、夜遊びができる場所自体が少なくなれば、消費機会も損失してしまいます。都市部も海外の国際都市に比べれば、「夜の観光資源」が少ないのが実情です。

従来の対外観光政策は訪日外国人数を目標にしてきましたが、現在は観光消費額を増やす「稼ぐ観光」へ転換されつつあります。それに、日本人の国内旅行でも同様に、夜遊びできる機会が増えれば、観光消費も増える。つまり、ナイトタイムエコノミーの振興が観光振興や地域活性化に直結していくわけなんですよ。

―海外に比べて、夜遊びの面で日本はかなり遅れているんですね。

木曽 例えば、ミュージカル『ライオンキング』のニューヨークと東京での公演スケジュールを比較すると、わかりやすいです。ニューヨークは夜公演が中心。開演は19時か20時で、上演時間は休憩を含め約3時間なので、終演は22時か23時くらいになります。

でも、ニューヨークは地下鉄が24時間運行なので、帰宅の交通手段があります。就業後、軽い食事をしてから観劇を楽しめますし、終演後に仲間とお酒を飲みながら感想を語り合ってからでも帰宅できるんです。

一方、東京は昼公演が中心。夜公演もありますが、せいぜい18時30分スタート。観劇の前後に、食事やお酒を楽しむ余裕はあまりないので、夜遊びによる消費はさほど期待できません。

―東京でも地下鉄の深夜運行はできないのでしょうか?

木曽 ニューヨークの地下鉄は(上下線が各2本の)複々線なので保守点検をしやすいですが、東京は複線なので難しいんです。ナイトタイムエコノミーの振興で一番有効なのは、深夜の公共交通の充実なんですけれどね…。

―うまい解決策はありませんか?

木曽 東京なら、山手線に沿って深夜バスを運行すればいいと思うんです。さらに、ターミナル駅から郊外への深夜バスと接続させれば、帰宅しやすくなります。また、ナイトタイムエコノミー先進国であるイギリスの取り組みは参考になります。昨年8月からロンドンで毎週金、土曜、地下鉄の24時間運行が始まっていますからね。

―ロンドンの地下鉄も、複々線だったんですか?

木曽 東京と同じ複線です。しかし、オリンピックに向けての地下鉄改修工事のなかで、深夜運行を可能とする保守点検設備を整えました。長い時間をかけて準備していたんです。

―ほかに参考になることはありませんか?

木曽 ナイトエコノミーには必ず、負の側面があります。そのため、イギリスには「犯罪および反社会的行為の抑制」「アルコールと健康対策」「交通」「多様性」などを評価基準とした「パープルフラッグ」という認証制度があるんです。新経済連盟も「パープルフラッグ」のような認証制度を提言していますが、マイナス面の対策として参考になるでしょうね。

また、欧米の多くの都市にはクラブカルチャーをはじめとする“夜の行政”に精通した自治体公認の「ナイトメイヤー(夜の市長)」という制度があり、ロンドンにも同様の制度があります。これは、すでに日本でも昨年4月、ヒップホップアーティストのZeebraさんが「渋谷区観光大使ナイトアンバサダー」に就任。ちなみに、Zeebraさんはナイトタイムエコノミー議連による有識者会議の一員になる予定です。

―日本でも徐々に振興策が進みつつあるわけですね。ところで、6月10日に新宿・歌舞伎町で「週プレ酒場」がオープンしました。週プレもナイトタイムエコノミーに進出したんですが、アドバイスをいただけませんか?

木曽 歌舞伎町は2000年代、浄化作戦や客引き規制によって繁華街としては急速に衰退しましたが、幸いにも15年以降、コマ劇場跡に新宿東宝ビルが開業するなど大型開発が進んでいます。やっと活気を取り戻しましたね。

ただ、大型開発主導の再生なので、福岡の中洲、札幌のすすきののような個性がないのが残念だと感じていました。特に歌舞伎町の真ん中、セントラルロード辺りは大型カラオケ店、居酒屋チェーン店が並び立ち、以前の盛り場、繁華街とは雰囲気が異なります。これから歌舞伎町が本当に再生していくため、「週プレ酒場」のようなオリジナリティあふれるお店が出店するのは、とても意義深いことだと思います。

―ナイトタイムエコノミー振興、歌舞伎町の再生のためにも…頑張ります!

木曽 大いに期待しています。もし、割引券がありましたら…いただけませんか?(笑)

(取材・文/羽柴重文 撮影/山上徳幸)

●木曽 崇(きそ・たかし)

1976年生まれ、広島県廿日市市出身。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒業(カジノ経営学専攻)。アメリカの大手カジノ事業者で内部監査業務に携わる。帰国後、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社、国内外のカジノ関連プロジェクトに関わる。早稲田大学アミューズメント総合研究所カジノ産業研究会研究員として、国内カジノ市場の予測プログラムを共同開発。2011年に国際カジノ研究所を設立、所長に就任。著書に『日本版カジノのすべて』ほか

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盛り場での消費や、夜の街歩き、定着したハロウィン、統合型リゾートの導入といった「ナイトタイムエコノミー」の振興により、どのように日本経済は変わっていくのか―。ナイトタイムエコノミーとは、夜から翌朝までの間に行なわれる経済活動の総称。近年では新たな市場として世界的な注目を浴びるようになっており、成長戦略のひとつとして日本でも一躍、関心が高まっている分野である。海外の先行事例を紹介し、今後の可能性を探る!