上海にあるロッテマート普陀店。以前は早朝から多くの客で賑わっていたが・・・(筆者撮影、以下同)


「韓国のロッテ、中国から撤退するかもしれないなあ」──上海の小売業者の間でそんな噂が飛び交っている。

 昨年夏、在韓米軍が最新鋭ミサイル防衛システム「THAAD」(高高度ミサイル防衛システム)を配備した。それをきっかけに中国政府が、中国でビジネスを展開する韓国企業に対し報復行為を続けている。

 狙い撃ちされたのが、韓国・ロッテグループが経営する大型スーパーの「ロッテマート」だ。ロッテマートは2008年に北京で開業したのを皮切りに、中国全土で112店舗(2017年3月時点、公式サイトより)を展開してきた。公式サイトによれば、2018年には300店舗に拡大し、売上高2000億ドルの達成を目指していた。

 ところが、その計画の前に中国による執拗な経済制裁が立ち塞がる。

 今年3月、中国政府はロッテマートに対し、消防法などへの違反を理由に営業停止の強制処分を下した。3月は対象店舗は37店だったが、4月には対象が74店舗に増えた。処分は「1カ月の営業停止」のはずだったが、中国紙「環球網」によると5月31日時点で74店舗が休業状態にあり、13店舗が自主休業、12店舗が“開店休業状態”にあるという。

 ロッテマートは店舗網拡大どころか、売却を検討せざるをえない状況に陥り(韓国最大の中文メディア「亜州経済」)、今や“息も絶え絶え”だ。

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見るも無残な閑散とした店内

 6月上旬、筆者は“開店休業状態”にあるロッテマート(上海・普陀店)を訪れてみた。

 時刻は朝9時。駐輪場に駐輪されている自転車がほとんどなかったことから、客が少ないことは予想できたが、店に入ってみて、あまりの“惨状”に言葉を失った。

 中国人は、その日の買い物を早朝に済ませる。そのため、スーパーが賑わいを見せるのはたいてい午前中である。しかし、ロッテマートの食品売り場に人影は見られない。

閑散とした店内


 生鮮食品の仕入れが、ほとんど行われていないのだろう。魚売り場では、数匹の魚が氷に埋められているだけで、活魚コーナーの水槽ではなぜか金魚が泳いでいた。果物売場のマンゴーなどはすでに黒い斑点ができており、長い時間放置されていたことが分かる。

 店内のパン屋では、売り場としての体裁を保つために、パンとパンの間隔をできるだけあけて陳列するという涙ぐましい努力を行っていた。

 その他の商品も、陳列棚は欠品だらけの状態だった。家電売場も商品がまばらで、メーカーが商品を引き揚げていることが一目瞭然だった。

 結局、食品売り場で筆者の視界に入った客は4人だけだった。対日感情の悪化が頂点に達した2012年の反日デモですら、日系の商業施設はここまでひどい状態ではなかった。

 中国のメディアによると、この経済制裁によりロッテマートは12億元(約192億円、1元=約16円)の損失が出たという。ロッテマートは2万5000人を雇用するが、営業停止でも給与の支払い義務が生じるだけに、この制裁は手痛い。

「THAAD」が配備されてから7月で1年が経過する。韓国の政権交代により少しは制裁が緩和されるのではないかという期待もあったが、6月に入っても依然としてロッテマートへの集中攻撃は続いている。

稼働しているレジは2カ所だけだった


エスカレーターにも人影はなし


韓国人が根を張る上海

 その一方で、中国に韓国の商品が深く根を下ろしているのも事実だ。韓国メーカーの衣料品や食料品は上海の消費者の生活に溶け込んでいる。サムスンのスマートフォンやLGの液晶テレビといった家電製品も、かつての勢いは衰えたものの中国市場で大きな存在感を放っている。

 また近年は、気軽に行ける海外旅行先として韓国の人気が高い。韓流スターによる中国公演を楽しみにする若者たちも少なくない。

 筆者もかつて住んでいた、虹橋空港に近い「古北新区」は、2000年代後半から韓国人の居住者が急増した。同地区西側の虹梅路を中心とする一帯には自然発生的に韓国人街ができ、至るところでハングルの文字を目にすることができる。実は中国には、日本人以上に多くの韓国人が根を下ろしている。

 そうした事情もあってか、中国政府が韓国に経済報復を仕掛けても「国民一丸」の大きな運動にはなりにくいようだ。

「私は韓国が許せない。ネットでは必ず原産国を確認する」と話す上海人女性もいるが、その抗議運動は比較的冷静で、理性的である。実際に、上海では大規模な反韓デモやボイコットは発生していない。5年前、上海で「反日デモ」や「日本製品の不買運動」が吹き荒れたときとは明らかに様相が異なる。上海市民がロッテマートに足を運ばないのは単に「商品がない」ためだろう。

 中国の韓国に対する姿勢は、政治と民間の間で乖離が見られる。反日に飛びついた中国人が、反韓には飛びつかないのはなぜだろうか。日本人としては、中国人の意識が進化したのだと解釈したいところである。

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筆者:姫田 小夏