Q:歯の数が少なかったり、よく噛めなかったりする人は認知症になりやすいと聞きました。私は奥歯以外は義歯を含めて歯は揃っており、よく噛んで食べるなどと意識したことはありません。それでも認知症になる恐れがあるのでしょうか。歯と認知症の関係について教えてください。
(58歳・学習塾経営)

 A:歯の役割は、食べたものを噛み砕き、味わうという咀嚼機能だけではありません。
 ものを噛み砕く行為は、脳を刺激します。歯と歯を噛み合わせた時の刺激は、歯根にある歯根膜から脳に伝わり、その刺激は脳における感覚や記憶、思考、意欲を司る部分の活性化につながるのです。
 認知症の原因は完全には解明されていませんが、歯や咀嚼との関係を示す報告はたくさんあります。
 東北大学の研究では、健康な人では平均14.9本の歯が残っていたのに対し、認知症の疑いのある人は9.4本と明白な差が見られました。
 この研究ではまた、残っている歯の数が少ない人ほど、記憶や学習能力に関わる海馬の容積や、意志や思考などの高次の機能を司る前頭葉などの容積も減っていることが分かりました。

●意識してよく噛む
 他の研究では、噛まないと神経伝達物質が減ることも分かっています。ラットを使った実験を行った結果では、噛まないと脳細胞が減ることも明らかになっています。
 よく噛むことは消化を促進するし、肥満の防止にも役立ちます。顔の引き締め効果もあります。
 歯が失われると、咀嚼の力が低下しますが、歯が揃っていればよいというわけではありません。脳に刺激を与えるためには、意識して、よく噛んで食べることが大事です。
 とはいえ、長年の癖を直すのは至難の業。よく噛むことを習慣にするための方法にガムがあります。左の奥で5回噛んだら、今度は右の奥で5回噛みます。
 このとき、頭の中で1回、2回と数えるとよいでしょう。いつもこのように行うと、ごはんを食べるときも頭の中で1回、2回と数えるようになり、よく噛むことが身につきます。

山田晶氏(歯科医師)
骨盤療法(ペルピックセラピー)で著名。日本歯科大学卒業。歯科の領域から骨盤のゆがみに着目。骨盤のゆがみを自分で取る方法として、腰回しの普及に努めている。やまだ治療院顧問。