「ひよっこ」72話。鈴子「私の戦争は終わってないよ」沁みました

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連続テレビ小説「ひよっこ」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)
第12週「内緒話と、春の風」第72回 6月24日(土)放送より。 
脚本:岡田惠和 演出:渡辺哲也


72話はこんな話


ある夜。
省吾(佐々木蔵之介)はみね子(有村架純)に、鈴子(宮本信子)は、柏木堂の一郎(三宅裕司)と、昔(戦後間もない頃)の話をする。

「残ったのは鈴子さんとドビソースだけだった」


バー月時計には、店名にふさわしく、壁にたくさんの時計が掛かっている。「あさが来た」(15年)の五代と砂時計、「べっぴんさん」(16年)の時計に代表されるように、時を感じさせるのに最適なアイテムである時計を背にして、カウンターにみね子と並んで座った省吾は、「なんか話したいんだよ、みね子に」と、過去の話をしはじめた。
戦争で、父を亡くした省吾。「残ったのは鈴子さんとドビソースだけだった」と言う。
母とふたりですずふり亭をここまでにして、妻・節子とかわいい娘・由香(島崎遥香)も得たものの、働きすぎて妻が死んでしまった。由香が10歳になる頃だ。
とここで、由香が屈折してしまった理由はそれだった、ということがわかる。

「なかったことにしたいんだよね、でもできない人もいるよ」


すずふり亭の勝手口に面した中庭に、鈴子と一郎。この街(赤坂)が、戦後からずいぶん栄えたことにしんみり。街を駆ける消防車の音かと思わせて、それは空襲警報の音になる。その音と共に、鈴子が過去を思う。
「戦争でたくさんのものをなくした、みんな」
「でもそこからがんばってみんな、がむしゃらになくしたものを取り返すために がんばってがんばって無理して で そこでまたいろんなものを失くした」
「豊かにはなったけどね(後略)でも何が残ったんだろう」
「(前略)戦後どころか、私の戦争は終わってないよ。もう元には戻らない。まだずっと借金払っているような気分」
「なかったことにしたいんだよね、でもできない人もいるよ」
鈴子のなかで、引っかかっているのは、嫁を「私が殺したようなものだ」ということだった。
哀調を帯びた曲がかかって・・・。
でも、「ひよっこ」では、しんみりしたままにしないで、必ず笑いにもっていく。

親ばか


一郎は、由香のことを、実はお金に困っているわけではなく、「時々迷惑かけたくなるんだろう。自分を忘れるなって言いたいだけだって」とヤスハル(古舘佑太郎)が言っていたと鈴子に伝える。
「そんなことを言うようになったな、大人になったなって」「親ばかだからね俺は。あいつは最高だよ 俺は幸せものだ」ともらいっ子のヤスハルへの愛情を語る。なんていい父子なんだろう。

親ばかなのは、省吾も同じだ。「可愛い顔してるだろ 母親にそっくりなんだ」とみね子に由香のことを語る。

都はるみの「アンコ椿は恋の花」の替え歌でおどける一郎。
そこへ、鈴子と一郎のやりとりを、早苗(シシド・カフカ)と島谷(竹内涼真)が共同炊事場で、こっそり聞いていたであろうと思わせる描写が入る。
一方、漫画家のふたり(岡村天音、浅香航大)は、何も知らずに、「みねこ様〜」と漫画を一生懸命描いている。
月時計には、井川(やついいちろう)とヒデ(磯村勇斗)がやって来る。

この、島谷と早苗と漫画家ふたりと井川とヒデの場面があるのとないのとでは、全然印象が変わるだろう。
省吾と鈴子の回想だけだと、沖縄慰霊の日の翌日に、戦争の話を盛り込んできたなと思うのだが(それはそれで十分意義がある。とりわけ、鈴子の「私の戦争は終わってないよ」は強烈だ)、他の人々の生活の点描が入るだけで、ドラマの中で史実がきちんと生きるし、ドラマの強度も上がる。
近所で生活をしている人々の中に、過去に囚われた人がいて、現在の生活に懸命な人がいて、未来の夢に向かっている人もいて・・・といろいろ。でも、彼らが、一瞬、お互いの時間が重なり合うことがある。一見関わりない人とも、みんなどこかでつながっている。だからこそ、「みんないろんなことがあっげど、それでも笑って生きています」というみね子のモノローグも効いてくる。

「ひよっこ」名物、1週間分の、なんかいい感じのエピローグの土曜回としても、じんわり味わえた。

鈴子が、「豊かにはなったけどね(後略)でも何が残ったんだろう」と戦後、がむしゃらに働いてきた自分たちのことを立ち止まって反省するところは、朝ドラ絶対王者の「おしん」(83年)で橋田壽賀子が言いたかったこととも共通しているだろう。橋田は、数ある著書で、たびたび、「おしん」にこめた思いは、豊かになり過ぎておかしくなっている日本は生き方を考え直すべきてはないかというようなことを書いている。実際、その懸念どおり、日本が今、かなり貧しくなってしまった。拙著「みんなの朝ドラ」のインタビューで、岡田惠和は、高度成長期の話を、あの頃は良かったという「ALWAYS 三丁目の夕日」視点では描かないと語っているが、逐次、反省の視点で描くのは、どこでどう間違ったか、検証する点では重要だと思う。

さて、そろそろ、折り返し。13週は、ビートルズと消えたお父さんの謎がいよいよ? 話が大きく動くか?
(木俣冬)