2010年7月のモスクワは記録的な猛暑と大気汚染から何千人もの市民が死亡し、死者数は前年同月の1.5倍に上りました。猛暑や熱波が人々に影響を与える様子はニュースでも数多く報道されていますが、一方で、今後起こる熱波によって人々がどのような影響を受けるのか?という予測は難しいとされています。そんな中、ハワイ大学の物地理学者であるCamilo Mora氏は、世界36カ国で発生した784の熱波を対象とした900の研究から、熱波によって深刻な影響を受ける人々が2100年までにどらくらい増加するのかを分析・予測し、世界地図上で可視化しています。

Global risk of deadly heat : Nature Climate Change : Nature Research

https://www.nature.com/nclimate/journal/vaop/ncurrent/full/nclimate3322.html

Heat can kill and we’re turning up the thermostat | Ars Technica

https://arstechnica.com/science/2017/06/heat-can-kill-and-were-turning-up-the-thermostat/

研究チームはまず、人間の体が気温や湿度といった環境的な要素から深刻な影響を受ける「危険ライン」を定義しました。人間の体が持つ放熱の力は、周囲の気温が体温に近づくほど小さくなります。加えて、人は体表から汗が蒸発する仕組みを使って放熱を行いますが、湿度が高いと汗が蒸発せず、放熱ができないので体温を下げることができません。このため、気温が体温よりも低くても、湿度が高いと人の体はオーバーヒートを起こしてしまいます。研究者らはこのようなオーバーヒートの状態が世界中で、どのような頻度で起こっているのかを調査。すると、例えば2000年には地球の13%の土地で、全人口の30%もの人々が、この危険ラインを越える環境を経験していました。その多くは東南アジアやインドを含んだ熱帯地域とのこと。

その後、研究者らは上記の分析を「温室効果ガスが2100年までにもたらすと考えられている地球温暖化のいくつかのシナリオ」に適用。すると、「温室効果ガスを最大限に削減できた」とするシナリオでは産業革命前と2100年を比べた時の気温の上昇が2度しかないのですが、それでも体に危険が及ぶほどの熱波を体験する人々の割合は30%から48%にまで上昇することがわかりました。

熱波が人々に与える影響は、以下のウェブサイトで可視化されています。

Deadly Heatwaves

https://maps.esri.com/globalriskofdeadlyheat/



画面右側にある「Year」というタブを開くと、1950年から2100年にかけて、危険なレベルの熱波の影響をどのくらいの人々が受けるのかを見ることができます。「2100」を選択すると……



デフォルトでは「RCP2.6(温室効果ガス排出を大きく抑えられた時)」の設定となっているので、RCP2.6で仮定した2100年の危険レベルが表示されました。



色分けは以下の通りで、年間50日以上危険ラインを越える日がある地域は黄色になり、そこから色が濃くなっていくにつれ、危険ラインを越える年間日数が多くなっていきます。



一方で、温室効果ガスの排出量がこれまで通りに増えていった場合を想定した「RCP8.5」に設定すると、全人口の4分の3もの人々が毎年20日以上の危険ラインを越える熱波を経験するとのこと。湿潤熱帯地域ではほぼ毎日この危険ラインを越えることになり、 アフリカやオーストラリア、ニューヨーク南部を含む地球上の大部分で毎年50日以上の熱波が人々に影響を与えると考えられています。日本のマップを見てみたところ、東京より北、東北地方も激しい熱波が年間50日以上あることがわかります。



人口増加・都市化の傾向がある熱帯地域や、高齢者が増加している地域になるほど、熱波の影響は深刻なものとなります。研究者らは、「我々の発表した研究は、死の危険が高くなる地域でのリスクを積極的に少なくすることの重要性、そして環境への適応が必要となるエリアについて強く主張するものとなっています」と語っています。