勝僖梅の「梅チーズ トリュフ仕立て」(写真提供:勝僖梅)


 2017年3月、世界77の国・地域から3282社が出展し、来場登録者数8万2434人を記録した「第42回国際食品・飲料展(FOODEX JAPAN2017)」において、大きな注目を集めた企業がある。紀州南高梅の梅干の製造販売を手掛ける株式会社勝僖梅(しょうきばい)だ。

 和歌山市に本社を置き、資本金6270万円、年商は約5億円、従業員数44人。売上比率は直販45%、法人・卸が55%。関西圏を主要な商圏とし、関東圏がそれに次ぐ。和歌山県みなべ町・田辺市を中心に生産されている南高梅の中でも、「特A級」という最高ランクの梅だけを扱う高級梅干しのトップ企業である。

 しかし、今回出展した商品は、いわゆる“梅干し”ではない。「梅チーズトリュフ仕立て」(冒頭の写真)と「梅チーズトリュフ仕立て(備長)」「燻し梅ピューレ」という3商品。

「梅チーズトリュフ仕立て(備長)」


万能調味料の「燻し梅ピューレ」


 前2者は、ワインやシャンパンによく合う酒のアテであり、後者は、万能調味料だという。

 これを開発した鈴木崇文専務取締役(46)は、「この3商品でグローバル戦略を戦います」と宣言する。そして、その決意と自信を裏付けるように、開催期間終了までに、実に500社を超える内外の企業からオファーが殺到したという。

 日本が誇る紀州南高梅の梅干しの、それも最高品質企業が、なぜ“酒のアテ”と“万能調味料”で世界進出なのか? しかも、それに対して、なぜそこまで多数のオファーが殺到するのか?

 そうした疑問を解消すべく、南高梅の置かれた状況、そして、その中で、勝僖梅が目指す戦略を、鈴木氏にお聞きした。

勝僖梅の鈴木崇文専務取締役


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最高級南高梅の梅干しを吐き捨てる欧米の人々

 地方創生の流れの中で、日本各地の1次産業は、産品の「ブランド化」を進めるともに、6次産業化を図り、特色ある加工品を開発している。しかも、縮小する国内市場に見切りをつけて、それら1次産品と加工品を、今や、グローバル市場へと続々送り出している。

 和歌山県の農業生産の中で、みかんに次ぐ重要品目であり、かつ、その大半が梅干(や梅酒)として活用される南高梅。世界各国が「和食ブーム」に沸き立つ昨今、南高梅の梅干しの海外人気もさぞやと思われるのだが・・・。

「とんでもない! その真逆です」と鈴木氏は渋面を歪めながら、こう言葉を継ぐ。

「5年前から米国や欧州に打って出て、食品見本市への出展や試食会の開催など、各種プロモーションを強化してきました。しかし、梅干し特有の“すっぱしょっぱさ”が、まったく受け入れられないのです。顔をしかめ、その場で吐き捨てる人びとも続出する有様で・・・」

勝僖梅の人気商品「極(きわみ)」。しかし、海外では、その場で吐き捨てられるという


 しかし、欧米には伝統的にピクルス文化があり、強烈な酸味はむしろ好まれるのでは?それに、アンチョビのしょっぱさも相当なものだが・・・。

「いやいや、彼らにとっては、“すっぱい”、あるいは“しょっぱい”と、“すっぱしょっぱい”とでは、まったく異なるようです。“すっぱい”と“しょっぱい”が両方同時に来ることへの耐性がないのです」

 拡大が期待される中国市場にもチャレンジしたが、甘い味を好む彼らには受け入れられなかったという。

「それで、梅干しを使った料理の提案をいろいろと試みたのですが、それもウケませんでした」

勝僖梅の梅干しは、南高梅のA級の中でも「特A級」に特化。代表商品「祥瑞」は「5L」、「極」は「4L」を使用


万策尽きて、前代未聞の戦略へ

 世界的和食ブームなのに、なぜだ・・・万策尽きかけたその時、鈴木氏はふと閃く。

「日本の価値観をそのまま海外に展開するのではなく、海外に展開できるような付加価値をつけるべきなのではないか?」

 世界中で和食を絶賛する声が渦巻いていても、だからと言って日本のすべての食品が世界中の生活者に歓迎されるとは限らない。受け入れらないことが分かった以上は、受け入れられる食品へと変容させればよい。

 では、どうするか?

「パンに塗ったりパンに合わせたり、あるいは様々な料理の調味料として使えるような加工品を作ったらよいのではないかと考えました」

 そこで鈴木氏が注目したのは、乳製品と燻製だった。

「乳製品に注目した理由は、経験上、梅干しとの相性が良いことが分かっていたからです。1次産業同士で取り組みやすいというのもありましたし。それに、乳製品がパンに合うことは言うまでもありません。燻製というのも、その調理法が欧米の食文化の中で長い歴史があり、受け入れられやすいと考えました」

 こうして、“梅干しと乳製品の加工品”、“梅干しと燻製の調味料”という前代未聞の奇抜なアイディアを携えて、様々な食品会社や、開発資金を補助してくれる先を求めて奔走する日々が始まった。

 燻製に関しては、こんな逸話がある。

「空路移動中、見るとはなしに見ていたANAチャンネルに映し出されたのが、東京・赤坂の燻製料理専門レストランバー『燻』のオーナーシェフ輿水治比古(こしみず・はるひこ)氏の調理風景でした。その姿を見て、“梅干しと燻製の調味料の共同開発をお願いするなら、この人しかいない”と直感したんです。それで、すぐに連絡先を調べ、いきなり電話をかけ、面会のアポを取りました」と鈴木氏。

 実はそのとき、鈴木氏は、輿水氏のお店が“フレンチの神様”ジョエル・ロブションや美食家で知られるクリントン元大統領などからも絶賛される名店とは露ほども知らなかったという。「実際にお店に行って、想像を絶する高級店でびっくり仰天しました」と苦笑する。

南高梅の新たな、そして無限の可能性に開眼

 それから約4年。試行錯誤を繰り返して、ついに完成したのが、冒頭でご紹介した3商品である。

「梅チーズトリュフ仕立て」は、フランス産のコンテチーズの中でも12カ月以上熟成させた“エクストラ”を細かく削り、ピューレ状にした梅干しと練り合わせる。それを丸いボール状に成形し、おろしたイタリア産パルミジャーノをふんわりと纏わせ“トリュフ風”に仕立てた。そして、アクセントとして、梅ピューレにハイビスカスのパウダーを加えている。最高品質の南高梅にふさわしい高級感あふれる“酒のアテ”である。

「梅チーズトリュフ仕立て(備長)」は、さらに凝っていて、梅ピューレにパウダー状の備長炭が加わり、かつパルミジャーノは軽く燻されている。個人的には、備長炭+燻しによって、梅とチーズの相性はいっそう良くなり、酸味・塩味・甘味が調和し、コクも増していると感じる。

 さて、“燻す”と言えば、3つ目の商品、万能調味料「燻し梅ピューレ」だ。これは、ピューレ状にした梅干しに水飴・砂糖・味醂などを加え、桜チップで16時間に及ぶ“冷燻”を施して作る。輿水シェフとの共同作業の賜物だ。口に入れるとまず燻製の風味が鼻に抜け、続いて梅の甘酸っぱさが広がり、そこに燻製の風味がさらに広がる、人生初の味わいである。

 これらの斬新な商品群に対して、「FOODEX JAPAN2017」において、500社以上からオファーが殺到したことは既述の通りである。

 酒のアテであれ、調味料であれ、企業間競争の熾烈な“激戦区”であり、流行にも左右されがちで、長寿商品として定着するのは難しい。その“将来”は未知数だ。

 しかし、ひとつ明確なことは、鈴木氏によって今回提示された3つの新商品が、有力な“仮説”となり、“梅と言えば梅干しか梅酒”という固定観念を覆し、内外の関係者に、南高梅の活用法に対する無限の可能性の広がりを確信させたことだ。

 このかつてない“衝撃”を与えた鈴木氏と勝僖梅の驚きの歴史を次回ご紹介したい。

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筆者:嶋田 淑之