リーマン・ショック、アラブの春、地震と津波、そして原発事故……。私たちは今、昨日までは「ありえない」と言われたことが、今日、現実のものとなる不確実な世界で生きることを強いられている。ではどうすれば、ランダムで、予測不能で、不透明で、物事を完璧に理解できない状況でも、不確実性を味方につけて、したたかに生き延びていくことができるのだろうか――。
サブプライムローンに端を発する金融危機を喝破し、ベストセラー『ブラック・スワン』で全世界に衝撃を与えた「知の巨人」タレブが、その「答え」を見つけた最高傑作『反脆弱性』から、「プロローグ」を順次公開していく連載第2回。第1回でタレブがたどり着いた新しい考え方「反脆弱性」は、本当にブラック・スワンの特効薬となるのか?

III.ブラック・スワンの特効薬

 私は、自分の理解できない世界で幸せに暮らしたい。

 ブラック・スワンとは、巨大な影響をもたらす、大規模で、予測不能で、突発的な事象を意味する。ブラック・スワンの予測に失敗し、不意を衝かれ、被害を受けた人たち全般を、本書では「七面鳥」と呼ぶことにする。私がずっと主張してきたように、歴史の大半はブラック・スワン的な事象で成り立っている。なのに、私たちは正常な状態に関する知識を微調整して、モデル、理論、説明を構築しようとする。でも、そういうモデルではブラック・スワンを追跡することなどとうてい無理だし、衝撃の起こる確率を測定することもできない。

 ブラック・スワンは私たちの脳を乗っ取り、ブラック・スワンを“なんとなく”とか“だいたい”予測していた気分にさせる。後付けならいくらでも説明がつくからだ。私たちはこの予測可能性という幻想に惑わされ、ブラック・スワンが人生において果たす役割に気づいていない。人生というのは、私たちの記憶の中にあるイメージよりも、ずっとずっと迷路のように入り組んでいる。人間の脳は、歴史を滑らかで線形的なものへと変えようと躍起になる。そのせいで、私たちはランダム性を過小評価してしまう。ところが、いったんブラック・スワンが姿を見せると、恐怖し、過剰反応する。この恐怖と秩序への渇望のせいで、人間のシステムは目に見えない(見えづらい)物事のロジックを破壊することがある。その結果、ブラック・スワンから損害をこうむることはよくあっても、利益を得ることはまずない。秩序を求めようとすれば、得られるのは似非(えせ)秩序だ。ランダム性を受け入れてはじめて、一定の秩序と統制が得られるのだ。

 複雑系は、見つけづらい相互依存性や非線形的な反応に満ちている。「非線形的」というのは、たとえば薬の用量や工場の労働者数を2倍にすると、効果が元のぴったり2倍ではなくて、それより増えたり減ったりするという意味だ。フィラデルフィアで2週間を過ごすのは、1週間過ごすより2倍楽しいかというと、そこまでじゃない。ソースは私だ。反応をグラフにすると、直線(「線形的」)にはならず、曲線になる。このような状況では、単純な因果関係を当てはめるのは間違いのもとになる。個々の部分を見ただけで、物事の全容をつかむのは難しいからだ。

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