教育は平等、ではない。

親の経済力が子どもの教育や学力に反映される「教育格差」。

東京の中心で暮らす裕福な家庭では、子どもの教育に桁違いの金額を費やしていると聞く。

これまで、年間学費300万円をかけて世界のトップ層を目指したり、型にはまらぬ生き方を望むインターママを紹介してきた。

今回は話を伺ったのは、都内有数のお嬢様学校、白百合学園に娘を通わせる、親子4代白百合ママ。




#File04 挨拶は「ごきげんよう」親子4代白百合一族の母校愛


名前:薫さん
年齢:34歳
子ども:7歳(女の子)
子どもの学校:白百合学園小学校

飯田橋の『カナルカフェ』は、いつ訪れても懐かしい気持ちになる。

昼下がりのテラス席は水面がキラキラと眩しく輝き、時折通り抜けていく気持ちの良い風に、取材班が目を細めていた時だった。

「お待たせしました」

時間ぴったりだというのに、先に席に着いていた取材班を目にすると、薫さんは小走りで近寄ってきてくれた。

グレーのトップスに黒パンツ、足元は歩きやすそうなローヒール。

薫さんの装いは非常にシンプルかつ実用的で、化粧も最低限。高級品は見当たらないその質素な佇まいに、取材班は拍子抜けしてしまった。

彼女の家は、祖母、母、姉及び自身、そして小学校に通う娘を含めて4代にわたり白百合学園育ち。まさに、正真正銘の白百合一族なのだ。

白百合学園といえば、「ごきげんよう」という、2017年の東京ではおよそ聞くことのない挨拶を未だに徹底していることで知られる、都内有数のお嬢様学校である。

どんなお嬢様然とした女性が現れるのかと期待していたのだが、本物の箱入りお嬢様というのは、薫さん然り、必要以上の主張を必要としていないのかもしれない。


何が何でも白百合、というわけではなかったが…薫さんが娘を白百合に入学させた理由


狭いコミュニティだからこそ、培われる濃く太い絆


-薫さんは白百合一族だとお伺いしましたが、やはり卒業生のお子様が多いのでしょうか?

学校の公式HPなどには「親の出身校は考慮しない」と明記されてはいるが、そうは言っても…という思いで尋ねてみる。

「そうですね...娘の入学式で同級生を3人見かけましたし、先輩や後輩で見た顔もちらほら。多いといえば、多いのかもしれませんね」

-やはり。

「なるほど」と意味深に頷く取材班の邪推を察知したのだろう、薫さんは慌てて付け加えた。

「白百合出身ママのお子様でも、お受験の日に見かけたのに入学式にいなかった子もいるので…絶対に優遇される、というわけではないですよ」

-娘さんの学校選びは、迷わず白百合、だったのですか?

取材班の質問に、薫さんは意外にも首を横に振った。

「いえ、娘に関しては最初から白百合にこだわっていたわけではないんです。公立に通わせてもいいと思っていて…なので、幼稚園は近所に通わせていました」

薫さんのご主人は埼玉県の出身で、公立高校を卒業後、大学受験で早稲田大学政治経済学部に進学している。

何が何でも私立、という価値観はなく、むしろ公立で様々な環境にある子どもたちと触れ合うことも良い経験になるだろう、と夫婦で話していたそうだ。

しかし、やはり直前になって薫さんの考えが変わったのだという。




「祖母も白百合、母も私も姉も幼稚園から白百合に通っているでしょう。幼い頃から共に過ごした仲間との絆はとても深く、もう家族同然の付き合い。そういう仲間を、娘にも作ってあげたいと思いました」

白百合学園は、幼稚園から大学までを擁する一貫校である。

大学は外に出て行く生徒が大多数だが、それでも幼稚園から高校まで通算15年をともに過ごした濃く太い絆は、社会人になってからも切れることなく続いて行く。

それは裏を返せば、狭いコニュニティで生きる煩わしさもある気がしないでもない。

しかし薫さんにとって白百合で過ごした15年は、娘にも是非同じ経験をさせたいくらい、充実した学生生活だったということだろう。

「偏った世界なのかもしれませんが、実際それで何の不自由もなかったですし。私立に入れる、と決めた時点で白百合以外は考えなかったです。他の学校は見てもいないですね」

公立志向だったご主人も、そもそも薫さん一家が白百合一族ということで「覚悟はしていた」と言ってくれたそうだ。


都内有数のお嬢様学校。昔ながらの良妻賢母を育てる校風の、良し悪し


見られているのは、「わきまえられる」こと。


-白百合のお受験で、子どもに求められているのはどういった資質だと思われますか?

白百合学園小学校では、幼稚園から上がってくる60名がそのまま小学校に進学するため、外部から小学校に入学できる枠は60名。

ペーパー試験、口頭試験、そして両親と子どもの三者面談で適性を審査されるのだという。

取材班の質問に、薫さんは印象的な言葉を口にした。

「そうですね…“わきまえられること”を重視している気がします」

-わきまえる、ですか…。

場をわきまえる、分をわきまえる。

それは確かに、人としての品格というべきものだろう。しかしそういう種類の素養を、未就学の子どもに求めるという点が興味深い。

薫さん曰く、お受験の際の、子どもたちの待ち時間の過ごし方やお行儀を、じっくり見られているのだという。

白百合ではお受験の日、全員が同じ時間に集合する。

そのあと何グループかに分かれ試験が行われるが、自分のグループの番が来るまで待つ時間が長いのだ。

「上級生が紙芝居をしてくれたり、遊び道具なんかもいろいろ置いてあるのですが、どう立ち回り、他の子どもたちとどんな風にコミュニケーションをとるか。そこを見ている気がしますね」

白百合学園は従順・勤勉・愛徳を校訓に掲げており、キリスト教的精神に根ざした価値観を養う教育を実践している。

人格の根本は3歳までに形成される、などと言われるが、根っこの部分で自分より他人を優先し「わきまえた」行動ができるかどうか。

しかもそれを試験本番ではなく、取り繕うことが難しい待ち時間に見られているというのだから、普段からの家庭教育がものを言う。

子どもはもとより、母親の良妻賢母ぶりが試されているとも言えるだろう。

「三者面談では、普段どんなお手伝いをしていますか?といった質問や、お母さんの作るご飯で何が好きですか?といったことも聞かれます」

そのほか、口頭試験においても、先生が作ったお弁当の中身を、おもちゃで再現するというような課題もあるのだという。

個性を最大限に生かすことがよしとされる時代に、さすがお嬢様学校、という審査基準である。

取材班は思った。

世の中すべての人間が個性を主張し、闘争心むき出しにしていたら収集がつかない。

白百合学園に集うような、いわゆる恵まれた子どもたちにおいては、愛徳の精神を重んじ、利己主義を捨てて社会のために生きることこそ使命なのかもしれない。

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6歳で慶応卒内定。慶應義塾幼稚舎、華麗なるお受験

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