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今回はじめての2ページ構成です。ページ下の「

どうしようかと考えているつもりで
実際は目をそらしてきたことを今になって悔やむ。

「どうしようか」というのは、
バジェットをどう振り分けようかという意味合いの
「どうしようか」ではない。当然。

資金不足を理由に車検を切ってしまうのか、
あるいは、もろもろを諦めてしまうおうか。

このコラムはどうなるのだろう。
読者の皆さんにどう説明しよう。
編集長は、なんというのだろう。

「車検を通すお金がありません
 したがってシャカイチに乗れなくなります」

そういった意味合いにおける「どうしようか」だった。

ため息をついているうちに20日になった。
車検は28日に切れる。
給料日は31日。
残高6000円。

2件の結婚式があり、
喜ばしいことだったけれど
反面、財布は枯渇していた。

1日300円で乗り切ったとしても残高3700円。
せいぜい印紙代くらいしか払えない。

ろくにお金が残らないくせに、
よくポルシェなんて買ったよなぁ。
自分を責める。

オフィスの前を走る罪なきポルシェオーナーが
心から羨ましい気もちになる。
ほとんどあきらめモードだった。
 
 
 
 
その日、ふたつの電話があった。

ひとつ目の電話は、
何かと理由をつけて週末にお邪魔し、
空冷ポルシェの整備を見せていただいている
「シンリュウ」の箭内(やない)さんからだった。

996GT3に乗るシンリュウのお客さんが
ヘッドライトを換えたいらしく、
正規輸入車であるシャカイチ号のそれが
「どんな形状かを調べるために
 シャカイチ号をしばらく貸してください」
というお願いだった。

シャカイチ号を1週間貸し出すことになった。
 
 
 
ふたつめの電話は山中さんからだった。
第14話で協力していただいた山中さん。
ぼくの保険担当のお兄さんだ。

「上野さん、事故の保険が決まりました
 タクシー会社が頑なに交渉に応じませんでしたから
 『思いどおりの結果』とはいきませんでしたが、
 わずかながらお金が戻ってくると思います
 そうですねぇ、6万円くらいかですかね。
 詳しくは追ってお知らせします」

仕事終わり「シンリュウ」にシャカイチ号を
貸出にうかがった。
それからあっという間に1週間が経った。

5月27日、「シンリュウ」にシャカイチ号を取りにいった。
1週間ぶりのシャカイチ号の対面だったけれど、
肩にズンとのしかかる「車検」の2文字のせいで
とくに嬉しい気持ちにもならなかった。
むしろ煩わしい気持ちになった。自分のせいなのに。

あと1日。ほとんど車検は諦めていた。

ひとつ、不思議なことが起こった。

自宅の駐車場にとめて、クルマを降りた。
ミラーをたたむために、右側にまわった。

右側から社内を覗くと、
センターコンソールとシートのあいだに
茶色い封筒が挟まっていた。

ドアをあけて封筒を手に取った。
なにも書いてない茶色い封筒だった。
開けてみると「請求書」と書いてあった。

請求書? 
払わなきゃいけないのがあったのか…。
憂鬱な気持ちで封筒を開くと
差出人は「シンリュウ」。シンリュウ?

なにか買った記憶もない。
暗がりのなか、iPhoneの光を当てて確認してみると、
「車検」という文字が書かれていた……。

あれ? ん?

ルームミラーの横に貼ってあるステッカーに目がいく。
期限が更新されているのだ。え!

あわててシンリュウに電話する。

「あぁ、もう期限近かったし、
 こっちできちんと点検をして、
 問題がなかったから通しておいたよ」

と、さらっとした答えが返ってきた。

素直に嬉しかった。心遣いが身にしみた。
けれど車検が切れなかったことを喜んでいる暇はない。
さて、費用の工面だ! しかしどうしよう。

保険で6万円が戻ってくる。
少なくともあと3万円……。
いきなり電話が鳴る。妹からだった。

受験を控える9歳下の妹から、
英検合格の知らせだった。

むりしてクルマを買って、お金の工面で嘆く兄。
受験にむけて淡々と勉強に励む女子高校生の妹。
わりと何でも話せる仲なので、
そんなことを話してみたところ
電話口から意外な答えが帰ってきた。

「いつまでにいくら必要なの?」

「お年玉がまだ残っているし、
 3万円くらいだったら、
 明日ママに送金してもらっとくよ」

! iPhoneを左から右手に持ち替える。

「月がかわったらわたしの口座に戻しといてね
 そうねぇ、利息は……」

「お金より、おそ松くんのグッズ一式
(渋谷で特別展をやっているらしい)と
 東京喰種(トーキョーグール)の11巻
 まだ買えてないの。勉強で忙しくって」

……! というわけで、
なんとかシンリュウの箭内さんが通してくださった
車検代を払えることになったのだった。

まことに情けないけれど、
背に腹は代えられぬ。

妹は小さいころから、意見が通っていたし
ほとんど勉強をしていたところを見てないけれど
基本的に成績もよかった。

対する僕は、いつもぼーっとしていたし、
運動も勉強もずば抜けてできた記憶がない。

この差はいったい…。

とにかく、保険で入ってきた6万円と、
高校生の妹から借りた3万円の計9万円で
シャカイチ号は車検を更新できたのだった。

月末にお給料が入り、ちゃんと
「おそ松くん」のグッズとマンガの新刊、
もちろん3万円もきちんと返すことができた。

妹は電話のむこうで
「シャカイチさぁ、最近更新おそいけど
 わたしは、そこそこ面白いと思ってるから
 投資よトウシ」と言った。

そんな妹は、
春から経営学が学べる大学を
希望しているのだそうだ。

さて、もっとも不器用な方法ではあったけれど
なんとかシャカイチを乗れることになった。

ただ忘れてはならないのは「点検」の内容。
「24ヶ月点検(別料金)」を追ってレポートしたい。

※今回も最後までご覧になってくださり、
 ありがとうございます。

 もっともポルシェが身の丈にあわない
 ポルシェオーナーだと自責しています。

 ところで、先日、
 ベントレー名古屋/福岡に
 AUTOCARの読者があつまり、
 ベンテイガの試乗会をおこないました。

 これです。

 それはそれで思い出に残るイベントだったのだけど
 試乗会に参加してくれたすべてのお客さまが、
 「社会人1年目、ポルシェを買う。」
 をとてもよく読んでくださっていたのが驚きでした。

 記事をポチッと公開すると、
 一気に「読者数」が増えて、
 最終的にとんでもない数字になるのですが、
 やっぱり「読んでますよ!」と生の声を聞くと
 書いていることの重みも増します。 

 あぁびっくりした!

今後とも、inquiry@autocar-japan.com まで、
 皆さまの声をお聞かせください。
 もちろん、なんでもないメールだって
 お待ちしております。