地球上で最も巨大な動物のクジラは、進化の過程で大きくなってきましたが、その大きさは比較的最近、急激に増加したことが分かりました。

evolution of mysticete gigantism | Proceedings of the Royal Society of London B: Biological Sciences

http://rspb.royalsocietypublishing.org/content/284/1855/20170546

Whales today are bigger than ever before. Now, we know why. | Popular Science

http://www.popsci.com/baleen-whales-big

シカゴ大学のグラハム・スレイター博士らの研究チームは、スミソニアン国立自然史博物館にある13種・合計140頭のクジラの化石と絶滅した63種類の種の化石を調べることで、クジラの大きさの変化は、比較的最近である450万年前から発生したことを発見しました。ヒゲクジラ類の化石は各年代で豊富にそろっていたことから、年代別に化石を調べることでクジラの進化の過程をたどることに成功しています。

研究によると、クジラやシャチは地上から海中へと進出した数千万年前から徐々に体が大きくなっていましたが、450万年前を境に数回にわたってクジラの体が急速に巨大化していたことが判明。なお、この体の大きさの変化は、ヒゲクジラだけでなく他の種のクジラでも起こっていることから、巨大化の原因は外的な要因にある可能性が高いと分かりました。



外的要因について考察した結果、研究者たちは氷河期が始まり海流が変化し、氷床や氷河が現れた時期とクジラの巨大化する時期が重なることを発見し、この気候の変化や海流の変化がクジラの巨大化に大きな影響を与えたと考えました。具体的には、海流の変化によって水温が低く動物プランクトンが集中的に発生するスイートスポットが世界中に分布することになり、このクジラのエサの分布は季節的に変化することになったとのこと。エサが豊富な場所は世界各地に季節的に現れたため、クジラはそのスイートスポットを目指して世界中の海を回遊するようになりました。



世界の海に現れるプランクトンの総量自体は大きく変化しなかったと見られていますが、気候や海流の変化によってプランクトンが大量発生する場所は大きく変化することもあり、突如現れたエサであるプランクトンが豊富な場所まで長距離を移動するためには巨大化することが有利になったと見られています。そして、うまくエサが豊富なスイートスポットにたどり着いたクジラは、大量の栄養を摂取することでさらに巨大化していったというわけです。

・おまけ

体を巨大化させていったクジラですが、20世紀の商業捕鯨によって急激に個体数を減らす中、わずか数十年間で平均体長が縮小していたことが新たな研究で明らかになっています。

Shrinking whales and what we can learn from the past | Nature Ecology & Evolution Community

https://natureecoevocommunity.nature.com/users/50783-christopher-clements/posts/17908-shrinking-whales-and-what-we-can-learn-from-the-past

チューリヒ大学のクリストファー・クレメンツ博士らの研究チームは、国際捕鯨委員会(IWC)が作成したクジラの年次報告書を1900年から調べました。この報告書にはクジラの体長だけでなく捕獲数も記録されていることから、捕鯨数の変化と体長の変化の関連性を調査しています。

研究チームはナガスクジラ、シロナガスクジラ、マッコウクジラ、イワシクジラの4種を中心に体長と捕獲数の変化を追ったところ、商業捕鯨が行われていた70年間で、体長が約4メートルも減少していることが分かったとのこと。なお、マッコウクジラについては20世紀を通じて体長の減少が続いていることが分かりました。



体長の減少は個体数の減少と関連性があることも指摘されており、クジラは人間による捕鯨活動によって、かつてないほどの急激なペースで大きさが変化している可能性がありそうです。