亜鉛不足を原因とした味覚障害の症状には、単純に食べ物の味が感じなくなる味覚減退以外にも、全く味を感じなくなる味覚消失も起きる。
 「他にも、甘いものを苦く感じたりするなど、本来の味を他の味として感じ取る異味症など、症状によって程度の違いはあるものの、味覚障害にはいくつかの種類があります。亜鉛は体内で作ることができないので、食べ物、またはサプリメントなどの補助食品から摂取するしかありません」(同)

 そもそも味覚には、甘味、塩味、酸味、苦味、うまみといった5つの基本的なものに分けられる。舌や上顎には前出の味蕾があり、そこで味を感じる。
 この味蕾は、その食べ物が「美味しい」「美味しくない」をただ識別するだけでなく、人間が生きるために必要な物質を体内に取り込み、有害な物は入らないようにする自然摂理を司っている。また味覚は、人間が生きていく上で必要不可欠な「食べる」という行為と密接な関係がある。そのため、味覚に狂いが生じると、偏食や食欲不振などに陥るのだ。

 総合医療クリニックを営む医学博士の遠藤茂樹院長は、それらの重要性をこう語る。
 「亜鉛は味蕾の再生に必要な要素であって、他の栄養素と同じく、食べ物の中から体が要求する分だけ腸で吸収する。バランスのとれた食生活さえしていれば、亜鉛不足は起こりません。ただし、酒好きの人は要注意です。アルコールの飲み過ぎも、やはり亜鉛不足を起こす。アルコールを分解しようとして体内の亜鉛を多量に消費するからです。これを防ぐには、亜鉛を多く含む牡蠣などの魚介類、またはチーズなどの乳酸製品を多く食べることです」
 加えてストレスも、血中の亜鉛の濃度を下げる原因となるため、食生活改善のほか、仕事中の休憩の取り方や休日の過ごし方を工夫して、リラックスすることを心掛けることも必要だ。

 また、味覚障害について、専門家の一人がこう言う。
 「味覚障害が疑われるときは、『しばらく様子を見ましょう』などと悠長なことを言ってはいられない。脳の異常で中枢神経が正常に働かなくなることもある、怖い症状だからです。最も考えられるのが、脳腫瘍や脳梗塞で、場合には、急性顔面神経麻痺の原因にもなる。病態が深刻ですから、味覚障害の患者さんを診察する際、真っ先にこれらを疑います。異常を感じたら、神経内科、耳鼻咽喉科に受診して欲しい」

 話を亜鉛不足に戻せば、その原因は偏った食事、ストレスにアルコールの過剰摂取となる。
 ちなみに、亜鉛不足の解消は、糖尿病の改善にも通じるとされている。逆に言えば、糖尿病から神経障害を引き起こし、それが味覚障害につながるということだ。