「結婚=ゴール」なんて考えは、古すぎる。

東京の恋愛市場は、結婚相手を探す女で溢れかえっているが、結婚はゴールではない。そんなものは、幻想だ。

吾郎、34歳。長身イケメン、東大卒、超エリートの企業法務弁護士。

吾郎いわく、結婚をM&Aに例えるならば、M&A実施の調印式=結婚式であり、PMI(買収実施後経営統合)=結婚後の生活となる。東京婚活市場において、PMI軽視の風潮は非常に強い。

とか言いながら、ちゃっかり英里と結婚した吾郎。しかし、彼のアンチ結婚主義は変わらないようだ。

引き続き、既婚者たちの結婚生活を、彼独自の目線で観察していこう。




紀子という女は、吾郎の大学時代の3つ上の先輩で、すこぶる頭の良い、典型的な男勝りのエリート女だった。

新卒で外資系コンサルティングファームに就職し、数年後には東海岸でMBA取得、その後またコンサルタントとして散々活躍した後、今度は某事業会社に引き抜かれ、30代前半で役員の座に就いた。

それほど仕事がデキるだけあり、紀子は性格も姐御肌で友人も多かったが、クールな外見とキャリアウーマンが身につけがちな威圧感で、男っ気はあまりなかった(恐らく多忙で時間もなかっただろう)。

よって、彼女のような人種は、独身を貫くか、“主夫”となるような男を見つけるか、もしくは年下の美少年なんかと晩婚するのだろうと、吾郎は勝手に分析していた。

しかし紀子の選択は、吾郎の予想を大きく裏切った。

彼女はIT系の会社を経営する、業界ではちょっと有名な男と急に結婚を決め、なんと専業主婦になったのだ。

その後は早々に子どもを2人産み、復職することもなく、家庭に入ったままである。


優秀なキャリア女が、なぜ“専業主婦”なのか...?


なぜ“わざわざ”専業主婦に?


紀子の専業主婦になるという決断は、彼女を知る人にとっては、もはや山口百恵や堀北真希の引退くらいのインパクトがあった。

キャリアの絶頂期で、なぜ“わざわざ”専業主婦なのか。休職でも産休でもなく、彼女は完全に退職してしまったのだ。

経済力もある夫婦なら家政婦やベビーシッターを雇うことも容易だろうし、あれほどの栄光を手にしたキャリア女が、専業主婦で満足できるものなのだろうか。

きっと夫がよほどの亭主関白か、紀子のような頭の良い女でも、結婚というイベントにのぼせ、判断を誤ることがあるのか。

そんな背景から、吾郎は紀子から「吾郎くんの結婚秘話も聞きたいし、お祝いしましょ」と、久しぶりの連絡をうけたとき、さぞかし面白い結婚生活の実態が聞けるのだろうと、少々意地の悪い期待を抱いていた。



「本当に、相変わらず意地悪な人ね、吾郎くんは(笑) まぁ、専業主婦が家庭でくすぶってると思われても仕方ないわね。最近は、女もみんな仕事を続けてるものね」

『mikuni MARUNOUCHI』にランチにやってきた紀子は、吾郎の皮肉な問い掛けを、子供をなだめるような笑顔でサラリとかわす。




仕事を辞めて数年経つと言うのに、紀子は相変わらず隙のないオフィスカジュアルのようなシンプルで品のある恰好をしており、隙のない佇まいは、とても専業主婦には見えない。

「しかし、仕事に戻りたいとは思わないんですか?」

「今は特に思わないわ。主婦って暇だと思われがちだけど、意外に忙しいのよ」

「主婦の“忙しい”というのは、だいたい習い事とか、買い物とか、贅沢なランチ会の類じゃないんですか」

吾郎はなおも食い下がり、紀子を煽ってみる。理由はただの好奇心。元エリート女の本心が知りたいだけだ。

すると紀子は、吾郎の目をじっと見つめ、ニヤリと余裕の笑みを浮かべた。

「吾郎くん......。共働きでお互い自立した夫婦はもちろん素敵だけど、それって今の東京では、もはや“普通の基準”だわ。ウチは、家族そのものを“会社経営”みたいに考えてるの」


DINKSは、もう古い?!次の流行りは...?


DINKSはもう古い。次の時代は“金持ち子だくさん”


紀子いわく、東京のアッパー層では、高学歴でキャリアを築いた女が“あえての専業主婦”になるパターンが増えているという。

というのも、最近のエリートサラリーマンや経営者といった男たちは、同じようなキャリアや知性を女にも求めることが多いため、多忙な職種同士での結婚が増えている。

「お互い激務だと、子供ができた場合、どうしても子育てや女側のキャリアに弊害が出るでしょう。それで、さらに夫婦関係まで壊れるのはナンセンス。そもそも収入に困るわけではないし、思い切って仕事を辞めたのよ」

しかし紀子は、のほほんと専業主婦生活を過ごしているわけではない。

外で鍛えた仕事能力を、家庭内に発揮するのだ。料理や家事はプロのレベルを保つのは当然、そして子供の教育には、特に力を注いでいる。

「学生時代は予備校と家庭教師のバイトもしてたから、教えるのは得意なの」

そんな彼女の娘は、3歳にして、ひらがな・カタカナ・アルファベット、簡単な漢字や英単語を読むことができるという。

他にも簡単な足し算引き算、そして紀子の趣味も兼ねて教えているピアノや水泳も、3歳にしては驚かれるレベルだそうだ。




さらに紀子は、経営者である夫を全面的に支えるらしい。それは普通の「良き妻」とは少し違う。

仕事の愚痴や悩みを聞いて精神面のサポートをし、必要であれば、人事でも経営方針でも、真剣に解決策を考えるというのだ。(元敏腕コンサルタントの紀子の意見は貴重だろう)

「うちの夫は経営者だけど、地位が高かったり高収入の男性って、それだけプレッシャーやストレスも多いでしょ。だから、やっぱり同じ目線で話せるパートナーが必要なのよ」

一般的に、仕事の愚痴やトラブルを家庭に持ち込む男は少ないと思う。

だからこそ、特に日本では銀座のクラブのようなサービスが成り立つ面があるが、言ってしまえば、紀子は妻として、ホステスのような役割も担っているというのだ。

また、夫の会社でパーティ等のイベントがある際は、紀子がすべて手配する。デキる妻は、その辺のイベント会社よりもずっと良い働きをする。

「でも、これを“内助の功”とか言ってしまうと、ちょっと古臭いし、私みたいな女は抵抗を感じちゃうんだけどね。だから私は、夫を社長、自分を副社長に例えて、家庭という会社を成長させるって思うようにしてるの」

「へぇ...」

紀子の言い分は確かに一理あるし、それで家庭円満ならば素晴らしいことだ。実際、紀子の夫の会社の景気は年々良くなっているらしい。

それが彼女の専業主婦という選択に起因しているのかは分からぬが、確かに、精神的な拠り所のある男は、外で力を発揮しやすい気がする。

「でも、意見が食い違ったり、対立することはないですか」

「もちろん、意見が違うことはあるわよ。でも多少イラっとしても、彼を“夫”でなく“社長”だと思えば、伝え方や接し方が変わるから、変に喧嘩になることはないわ。

もちろん、夫に何かあれば私はいつでも社会復帰するわよ。それに今でも投資はちょこちょこしてるから、資金力だってゼロじゃない。吾郎くん、DINKSはもう古くなりつつあるわ。次の時代は、“金持ち子だくさん”よ。私ももう一人くらい産みたいわ」

「ほう...」

男女平等、女の社会進出が定着した今、富裕層が次に目指すのは“金持ち子だくさん”という家庭の豊かさなのだろうか。

それは正当な意見とも欲深い意見とも取れなくないが、その理想を実現するためには、女の器の大きさと賢さ、そして絶対的な自信が必要なのだろう。

吾郎はふと、クックパッドを見ながら毎晩料理に苦戦している英里を思い浮かべた。

―ウチは、普通も普通だな。

思わず苦笑が漏れる。しかし不思議なことに、嫌な気はしなかった。

▶NEXT:7月2日 日曜更新予定
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