山田太一の原作・脚本によるドラマ「岸辺のアルバム」は、歴代のベストドラマを選ぶ際、必ずといっていいほど上位に入ってくる。このドラマの放送がTBSテレビで始まったのは1977年6月24日、きょうでちょうど40年が経つ(最終回は同年9月30日放送)。


そのタイトルカットでは、台風で氾濫した多摩川を民家が流されていくニュース映像が使われている。劇中でも、このできごとに着想を得て、多摩川べりの郊外を舞台に、そこに住む家族の崩壊と再生が描かれた。

「岸辺のアルバム」について後年、《自分たちが営々として築いてきた、ある種のぜいたく品を含めた財産が一挙に流されていくのは、東日本大震災と全く同じで、『岸辺のアルバム』の先見性には驚いています》と語ったのは、同作で制作を担当した大山勝美である(植村鞆音・大山勝美・澤田隆治『テレビは何を伝えてきたか』ちくま文庫)。大山はこのほか、同じく山田太一脚本の「ふぞろいの林檎たち」などテレビ史に残る数々のドラマをディレクターやプロデューサーとして世に送り出した。

その大山勝美は2014年に82歳で急逝している。亡くなるわずか5日前には、母校である早稲田大学の演劇博物館に電話をかけ、ある提案をしていたという。それは「演劇博物館でテレビドラマ展をやりませんか?」というものだった。この“遺言”を発端に企画されたのが、現在、同博物館で開催中の「テレビの見る夢――大テレビドラマ博覧会」および「早稲田大学芸術功労者顕彰記念 山田太一展」(いずれも会期は8月5日まで)である。

往年の名作ドラマを実際の映像とともに紹介


「大テレビドラマ博覧会」に冠された「大」は伊達ではない。テレビ放送の始まった1950年代から、2010年代の今日にいたるまで、その時代ごとにエポックをつくった作品、あるいは脚本家やディレクターなどつくり手たちの業績を、台本をはじめとする厖大な資料、そして実際に放送されたドラマの映像によって知ることができる。きっと、エキレビ!のドラマレビューを愛読されている方には、おおいに楽しめることだろう。

私も来場した際、各所に置かれたモニターから流れるドラマに思わず見入ってしまった。とくに印象に残ったのは、NHKで1966年に放送された「大市民」である。これは、東京郊外の団地に住むサラリーマンの夫、専業主婦の妻、それから小学生の息子が、それぞれ夏のある一日に遭遇したできごとを描いたものだ。夫を演じているのは、当時40歳間近だった植木等。クレージーキャッツの一員として、テレビのバラエティや映画で、どこまでも調子のいいサラリーマンに扮し一世を風靡した植木だが、「大市民」では同じサラリーマンでも、上と下に挟まれて右往左往する中間管理職を演じている。劇中では植木のトレードマークともいうべき高笑いもたびたびズームアップで映し出されるものの、本来は調子のよさを示すあの笑いが、ここでは逆に虚無的で、悲哀を帯びたものにさえ見える。これはきちんと計算したうえでの演出だろう。なお、「大市民」を演出したのは、当時NHKの気鋭のディレクターだった和田勉である。

ちょうどこのドラマを会場で観ていたところ、後ろに置かれたモニターから、昨年NHKで放送された「トットチャンネル」のワンシーンで、我が家の坪倉由幸演じる植木等らが「スーダラ節」を歌うのが聞こえてきた。そのシンクロにちょっとしびれた。

「大テレビドラマ博覧会」ではこのほか、大河ドラマ第1作の「花の生涯」や朝ドラ初期の大ヒット作「おはなはん」、萩原健一主演の探偵青春ドラマ「傷だらけの天使」、久世光彦演出の喜劇色の濃いホームドラマ「ムー」、トレンディドラマの先駆的作品「男女7人夏物語」、あるいは宮藤官九郎のドラマ脚本のデビュー作「コワイ童話 親ゆび姫」など、各時代を代表する作品が視聴できる(同時開催中の「山田太一展」では「岸辺のアルバム」がスクリーンで上映されている)。ちなみに「コワイ童話 親ゆび姫」では、まだ10代だった栗山千明と高橋一生の共演が観られる。


現実の事件をモチーフにしたドラマも


前出の和田勉の作品では、「ザ・商社」(1980年)も会場で上映されている。このドラマは、以前、エキレビ!でも書いたとおり、放送の数年前に起こった商社の倒産劇をモデルにしたものだ。展覧会の図録に収録された和田の夫人のワダエミと長男の和田翼のインタビューによれば、このドラマの準備にあたり、和田はNHK特集「ある総合商社の挫折」というドキュメンタリーをつくった報道部のチームにも出入りしていたという。

現実の事件をモデルやモチーフにしたドラマとしては、最近でも「小さな巨人」などが思い出される。過去を振り返っても、この手のドラマは少なくない。たとえば、「アフリカの夜」(1999年)は、殺人犯が整形して逃亡を続けた現実の事件を思い起こさせた。

また、「お荷物小荷物」(1971年)も、沖縄返還を目前に控えた時代を反映した作品だった。今回の展覧会では、シリーズ中、映像が現存する唯一の回である最終回を観ることができる(横浜の放送ライブラリーにも所蔵)。

これは、中山千夏演じるお手伝いと、完璧な家父長制を生きる一家を描いたホームドラマだ。じつはこのお手伝いは沖縄出身で、一族の恨みからその家に潜りこんだのだった。最終回で彼女は、自分の子供を家の跡取りにするよう志村喬演じる家長に認めさせ、その家を“乗っ取る”ことで復讐を果たす。ただし、ドラマは本筋から何度も脱線する。テレビ局から出演者が出てきて、ファンに取り囲まれるシーンが出てきたかと思えば、唐突に、憲法改定により家の兄弟6人が戦場に送りこまれて死ぬという不条理ともいえるドラマが展開されたりもする。

テーマ的にも手法的にもかなり冒険をしているにもかかわらず、このドラマは人気を集めた。最終回の視聴率は、制作局の朝日放送のある大阪では36.2%を記録している(東京は29.2%)。なお、「お荷物小荷物」のプロデューサーの山内久司はこのあと、藤田まこと主演の「必殺」シリーズでまたヒットを飛ばすことになる。

時代ごとの「総合情報番組」としてのテレビドラマ


こうして見ると、歴史に残るテレビドラマというのは、その時代の姿を鏡のように映し出しているところがあるらしい。

今回の展覧会では、2010年代の作品についても「あまちゃん」「カーネーション」「泣くな、はらちゃん」などいくつかの作品が紹介されているが、その時代背景として当然ながら東日本大震災は外せない。会場のパネルでの解説によれば、震災は「あまちゃん」のように題材とされるばかりでなく、人物の死の描き方に変化が現れるなど、小さからぬ影響をドラマに与えたという。

近年の傾向としては、90年代の「踊る大捜査線」や「ケイゾク」あたりからだろうか、「あまちゃん」も含め、本筋と関係のないところにまで多様な情報が盛り込まれ、深読みの余地を持たせたドラマも目立つ。ドラマは情報番組でもある――とは、冒頭でとりあげた大山勝美の言葉だ。大山は生前、山田太一をゲストに迎えた座談会で、次のように語っていた。

《ドラマは、感動的な生き方、面白い人生、考え方、感じ方というのを非常に具体的に動く人間や関係の中で示してくれます。だから、いろいろな生き方を知る非常に重要なカテゴリーだと思っています。単なるエンターテインメントじゃなくて総合情報番組でもあると思っているんです。その時代の感性なり、考え方なり、風俗なりが入っています。見方によっては情報の宝庫。ドラマ出身だから言うわけじゃないけど、そういうドラマの力を信じています》(前掲、『テレビは何を伝えてきたか』)

今回の演劇博物館での展覧会からは、そんな「ドラマの力」を実感できる。過去の作品には、いまネットでオンデマンド配信されているものもある。会場で知って気になった作品はぜひチェックしたい。
(近藤正高)