「一流大学よりも入るのが難しい学生寮」の可能性

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放送作家・脚本家の小山薫堂が「有意義なお金の使い方」を妄想する連載第22回。今春、京都造形芸術大学副学長に就任し、産官学連携を担うことになった筆者が、選抜50人の学生が人間力とセンスを磨く「学生寮」を妄想中!

今年4月、山形・東北芸術工科大学企画構想学科の学科長からCCO(Chief Creative Officer)へと役職が代わった。同時に姉妹校である京都造形芸術大学の副学長に就任、社会連携推進担当として、産官学連携などを担うことになった。ここでは言葉どおり、学生と社会をつなぐことがミッションだ。

その方法のひとつとして、自分にとっての”100年ロマン”である「学生寮」を京都につくれたら、と、いま妄想している。

話は09年4月に設立された、東北芸術工科大学企画構想学科にさかのぼる。07年ごろ、当時副学長だった現代美術家の宮島達男さんが会いにこられて、「教育に興味はありませんか?」と言われた。40歳を過ぎ、偶然にも「そろそろ自分の得たものを若者たちに受け継がないといけないのでは……」という思いに駆られていた僕は、「好きな学科をつくっていい」という言葉に大きく心が動かされた。

それで、「企画」を教える学科づくりに挑戦してみようと思ったのである。始めたころは「そんな学科に価値あるの?」と冷ややかに見られていたきらいもあったが、今年3月に卒業した5期生は、なんと就職率100%。行き先も博報堂、ANA、JINSなど一流企業が多く、ようやく企画の力が世間でも認められてきたんじゃないかと思ってホッとしている。

よく「企画を発想する力はどのように育めばいいのですか?」と訊かれるけれど、発想というのは癖に近いかもしれない。考える癖、おもしろがる癖、つい発見しちゃう癖をつけるということ。

1日走っただけでマラソンには出られない。鍛錬を日々繰り返した人だけが、出場できる体力と身体能力を持つ。企画も同じで、日々何を考えどう行動するかを重ねることによって、その人自身が企画力のある人になっていく。いわば癖や習慣になるまで体質改善をしないといけないのだ。 

同時に、(教える立場になってあらためて実感したのだが)企画は、学ぶことはできても、教えることは難しい。老子の思想の根幹を成す「道」に近い。企画はこういうものだ、と教えた瞬間に、発展性は消滅してしまう。では、どうやって教えればいいのか。「一緒に暮らすしかない」というのが、僕の出した答えである。

一流大学に入るより難しい学生寮

学生時代において大切なのは、誰と付き合い、どんな時間を過ごすかだ。どの先生に学ぶかよりも、ずっと意味深い。そこで考えたのが「学生寮」というコンセプトである。

以前、実際にある不動産屋から「1棟空きビルがあるのだが、普通に賃貸マンションにするのではなく、何かおもしろい使い方はないだろうか」と相談され、慶応大学の近くだったので、「慶応大学に入学するよりも難しい学生寮」という企画を提案した。寮の名は「クロスセブン」。7人の理事が学生のために、魅力的な大人たちを連れてきて交流させる場にしたいと思い、7人の人選も考えた。

だが、直後にリーマン・ショックが起き、残念ながら企画は流れてしまった。

だからここで「一流大学に入学するよりも難しい学生寮」をあらためて提案したい。寮生は厳しい試験にパスした50人限定。1階にカフェ、地下にはホール、最上階には露天風呂付き温泉などが設備された寮で大学4年間を過ごす。カフェではアルバイトができ、週に1度はホールで、大学では出会えない大切なことを教えてくれるユニークな大人との交流会がある。人間力とセンスの英才教育をほどこす寮なのだ。

寮費は無料で、企業がそれを支払う。50社でひとりの4年を賄ってもいいし、5社で10人を賄ってもいい。とにかく、優秀で可能性のある50人の寮生を4年間ウォッチし、それがすなわち就職試験になるという寸法だ。

費用は単純にひとり30万円として、50人で月額1500万円、1年で1億8000万円(ちなみにちょっとしたテレビ番組1本、またはラジオのJFN38局すべての月額放送権を買うと1200万〜1500万円ぐらいです)。50人の若者との関係を4年間で徹底的に築き上げ、自社の商品開発やリサーチに参加してもらったり、人材確保になったりすると考えれば、意外と投資メリットはあるのではないでしょうか。

未来をつくる大人の責任
 
僕がこういう考えに至ったのには、ふたつ理由がある。

ひとつは僕自身が高校時代に全寮制の学校に通っていたこと。1年生のときは縦割りで、1部屋に3年生3人、2年生3人、1年生4人が暮らしていた。1年坊主は実にこき使われる。同部屋の先輩のために買い出しに行ったり、寮監に見つからないようにラーメンの出前を頼まれたり。当然タバコや酒といった悪いことも教わるし、いまの親なら裁判を起こしかねないしごきもあった。

でも、同学年の仲間たちとその理不尽さに文句を垂れながら、仲良くワイワイと過ごす日々は、まぎれもなくいい時間だったし、大切なことをたくさん学んだ。絆、人として守らなければいけないこと(掃除をきっちりやるとか)、人が必死で何かを学ぶ姿を見て知る自分の限界……。他者を見て我が身を振り返ることのできる寮生活は、僕の後年の生き方にとても影響していると思う。
 
もうひとつは、東北芸術工科大学の企画構想学科で4年間教えていた学生が10人、いま僕の会社のスタッフになっていること。4年間自らの目で彼らを見てきたので、面接の必要がなかった。書類選考、数度の面接などを行うよりも、学生の4年間の暮らしに触れるほうが、自分の会社のカルチャーに合うか合わないかがよくわかる。いわば、先に提案した50人選抜の学生寮は、贅沢だけど「確実な面接」なのだ。
 
この四半世紀、僕たちの生活がこれだけ様変わりしながら、就職活動の風景だけは変わらないというのは本当に解せない。特にリクルートスーツは許せない(笑)。

東北芸術工科大学でも服や化粧に関する指導があり、企業説明会に行くことを勧められる。僕はよく大学の総務から「企画構想学科の学生はちっとも説明会に行かない!」と叱られるのだが、おそろいの紺スーツに身を包み、判で押したように同じようなことしか喋らない「個性を失ったブロイラー」のような学生に企業は魅力を感じるのだろうか。そろそろ新しいリクルートのかたちを探すべきなのではないかと思うのですが。

18〜22歳までの多感な時期に、おもしろい大人、影響力のある大人と出会えるのは幸福なことだ。「未来をつくるのは若者たち」というけれど、実際に未来をつくるのは「その若者たちに接する大人たち」である。彼らに何を気づかせ、どんな環境をつくってあげられるか、大人には責任があると僕は思う。

有意義なお金の使い方を妄想する連載「小山薫堂の妄想浪費」
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