メキシコ・ゲレロ州チルパンシンゴでインタビューに応じるAFP特派員のセルヒオ・オカンポ氏(2017年5月30日撮影)。(c)AFP=時事/AFPBB News

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【AFP=時事】麻薬カルテルの一団に拉致され、生きたまま火をつけて焼き殺すと脅されたメキシコ人ジャーナリストのホルヘ・マルティネス(Jorge Martinez)さん(44)は、あまりに大きな精神的ショックを受け、家から一歩も外に出られなくなった。

 マルティネスさんと同僚6人は5月13日、治安が悪い南部ゲレロ(Guerrero)州で警察の作戦の取材を終えた帰路、麻薬組織「ラ・ファミリア・ミチョアカーナ(La Familia Michoacana)」に属する銃を持った覆面の男ら約100人に車を乗っ取られた。約15分後には解放されたものの、マルティネスさんは再び外出できるようになるまで2週間かかったという。

「単に神経質になっているせいだと思うけれど、人に後をつけられているような気がする」。マルティネスさんは当時、インタビューのために外出することを怖がり、電話越しにささやくような声でそう語った。

 マルティネスさんたちが拉致された2日後、麻薬絡みの最も残忍な事件が起きているシナロア(Sinaloa)州で白昼、別のジャーナリストが銃撃され死亡した。被害者はフランス通信社(AFP)にも寄稿していた犯罪専門のジャーナリスト、ハビエル・バルデス(Javier Valdez)氏だった。

 ジャーナリストたちは、メキシコで勢力争いを繰り広げるカルテルらと軍隊による血みどろの戦いを取材するために、痛ましいほどの危険にさらされている。麻薬組織やそれと結託している腐敗した政府当局者らが自分たちにとって脅威となる、または好ましくないとみなす記事を書いた記者は、命を危険にさらすことになる。

 国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団(Reporters Without Borders)」によるジャーナリストにとって危険な国のランキングでメキシコは、シリアとアフガニスタンに次ぐ第3位となっている。

■約4割にPTSD、約8割に不安症状

 政府が麻薬カルテルとの戦いに軍を初めて出動した2006年以降、100人近くのジャーナリストが殺害されている。さらに20人以上が行方不明となり、200人以上が麻薬密売人らに襲われている。

 生き延びたジャーナリストにとって、受けた傷は目に見えるものばかりではない。メキシコの犯罪ジャーナリストの多くは、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を患っている。ジャーナリスト246人を対象とした昨年の調査によると、41%にPTSDの症状があり、77%が不安症状、42%がうつ症状だった。

 現地のジャーナリスト協会を率いるエリック・チャベラス(Eric Chavelas)氏は、同僚の30%がPTSDに悩まされていると推測する。「われわれは何年も警鐘を鳴らしてきた。どこに行けば(心理学的援助)が得られるのか分からないのだ」という。専門家によると、PTSDを患うジャーナリストのほとんどは治療を受けていないという。

 調査報道週刊誌「プロセソ(Proceso)」の特派員エセキエル・フロレス(Ezequiel Flores)氏(40)は、暴力を振るわれ殺害脅迫を受けたことが理由で、取材から手を引かざるを得なくなった。

 フロレス氏は2014年に学生43人が失踪した事件が起きたゲレロ州イグアラ(Iguala)市周辺を取材していた。学生らは腐敗した警官によって拉致された後、麻薬組織に引き渡されて殺害されたとみられていた。「毎日、悲劇、悲劇、の繰り返しを記録しているが、自分が蓄積したものをすべてを吐き出すことはできないし、その方法も分からない」

 政府は脅迫されたジャーナリストの保護プログラムを創設したが、暴力を阻止することはできていない。今年に入って5人のジャーナリストが殺害されている。

 5月13日に拉致されたもう1人のジャーナリストで、現地紙ラ・ホルナダ(La Jornada)とAFPのベテラン特派員セルヒオ・オカンポ(Sergio Ocampo)氏(60)は、政府の保護措置は非常ボタンやボディーカードと変わらないと非難した。「われわれが殺されそうになったのは、2か所の軍の検問所の間だ」とオカンポ氏は言葉を絞り出した。「保護措置なんて役に立つものか」。オカンポ氏は拉致事件以来、顔面の右側がひきつっている。医師には心理的トラウマのせいだと診断された。
【翻訳編集】AFPBB News