写真撮影/片山貴博

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間取りや家具は完成品からセレクトし、自分たちが「使いこなしていくもの」。そう考えている人は多いだろう。そうした既成概念にとらわれず、自分たちの暮らしや「好き」を貫いてリフォームした人がいる。部屋はもちろん、トイレや収納の内側まで「美しい……」といわずにいられない、そのリフォームの全貌を紹介しよう。

キッチンリフォームで気がついた「家に生活を合わせるストレス」

今回訪れたのは、千葉県にあるmayukoさん宅。すっきりとした丁寧な暮らしの工夫をつづった『丁寧な暮らしのルール』を運営する、人気ブロガーだ。実は2016年のSUUMOジャーナルにもご登場いただき、キッチンリフォームのお話を伺った。それから約1年がたち、今回は寝室と子ども部屋、トイレと収納、玄関と、キッチン・リビング以外のほぼすべてに手を入れる大規模なリフォームを行ったという。しかも廊下と部屋を仕切っていた壁を壊し、3LDKだった間取りがほぼ1LDKになるというものだ。

【画像1】画像左:リフォーム前と、画像右:リフォーム後の間取り。洋室1と2を分けていた廊下の壁を取り払って開放的にし、造作のデスクを設置するなどの大掛かりなもの。既存のn+LDKの概念にとらわれない、mayukoさんのこだわりが詰まった住まいに

前回も紹介したが、mayukoさんは多忙を極めるワーキングマザー、しかもこの春小学生になったばかりの双子の娘さんがいるが、リフォーム後の住まいは生活感やごちゃごちゃ感が一切ない。どの部屋もため息が出るような美しさだ。

【画像2】共用廊下に面して新しく設置してもらった造作家具。玄関と部屋を区切る縦の格子状のものは暖房器具。目隠しにもなるほか、冬は寒さを感じないよう工夫されている(写真撮影/片山貴博)

「もともと、子どもたちの小学校入学のタイミングに合わせてファミリーデスクをつくろう、という話がはじまりでした。それに合わせて子どもたちのスペースもリビングと同じ床材にしようという程度に考えていました。だからここまで大規模なリフォームにするつもりではなかったんです(笑)」と、はじまりを振り返る。

子どもの成長にともなって、住まいが手狭になったり、暮らしに合わなくなるというのはよくある話。リフォームを考える前に、引越しするという選択肢はなかったのだろうか。

「このマンションの立地やリビングからの眺めがすごく気に入っているんです。だから子どもが大きくなってこの間取りが使いづらいと感じたからといって、引越すことは考えられませんでした。それに1年前にキッチンをリフォームしたことで、『今までは家に生活を合わせていたんだ』ということに気がつきました。持っているモノや自分たちの生活に合わせて家をリフォームしたら、こんなに快適なんだ! って、この1年、つくづく実感したんです」

【画像3】2016年の取材・撮影時。1年暮らしてみて気がついた「発見」が、今回のリフォームに活かされている(写真撮影/片山貴博)

ただ、“暮らしに家を合わせる”と単にいっても、大人の「好き」を追求・徹底することは難しい。特に子どもがいればなおのこと、子どもの好みや使い勝手が優先となってしまいがち。今は我慢して、子どもが大きくなってからリフォームするという「先延ばし」も考えられたかもしれない。

「そもそも、私がワガママというか、子どもの空間とはいえ、気に入らない家具を置いてイライラしながら暮らすのはよくないと思ったんです。子どもだって母親がイライラして過ごすよりも、ご機嫌なほうが心地よいはず。年齢的にもアラフォーになり、今後の数十年間小さな不満を抱えて生きるよりも、決断するなら今だな、と思ったんです」とその理由を明かす。

『その壁は本当にいる?』からはじまった壁のぶち抜き計画

リフォームプランの依頼先は、前回と同様、インテリアの造作やリフォームも手掛けるFILEの石川敬子さん。1回目の打ち合わせから、デスクを置くことに加えて、部屋と廊下を区切っていた壁を取り払うことが提案されたという。もともとの間取りに造作のデスクを置いたとしても、部屋が暗く閉鎖的な空間になってしまう、というのがその理由だった。

「壁をぶち抜くといわれたときは、さすがに驚きました。ただ、昔から私たち夫婦のことをよく知っていて、信頼している石川さんからの提案なので、すんなり受け入れられましたね」

デスクの裏側は一面収納とし、統一感を出すためにキッチンと同様の建具にすることが決まった。また、2つの部屋の壁を抜くことで、床の色に違いが出ないよう、床材も全面的に張り替えることに。

【画像4】リフォーム前の部屋は、マンションの共用廊下に面した窓がある、6.3畳の洋室。窓の下部はもともとはめ殺し(壁に直接はめ込まれ、開閉することができない)のすりガラスだった(画像提供/mayukoさん)

【画像5】画像4のリフォーム後。現在は子どもたちの遊ぶスペースだが、子どもたちが成長したらここにシングルベッドを並べて、子どもたち二人だけで寝る予定。中央の家具は可動式で、間仕切りにもなる(写真撮影/片山貴博)

【画像6】画像5の間仕切りを動かしたところ。窓下部に断熱材を補強して、腰壁に。この腰パネルにぴったりつけてベッドのマットレスを設置すれば、これがヘッドボードに見えるように……というところまで設計済み!(写真撮影/片山貴博)

【画像7】間仕切りの反対側に造作のデスクを設置。右側の扉は寝室に出入りできるようになっていて、回遊性の高い間取りに。親子の心理的な面でも機能的な面でも、風通しがよくなった(写真撮影/片山貴博)

あわせて見直したのが、寝室と洋室にあったウォークインクローゼット(以下、W.I.C)。

「今まで漠然とW.I.Cは収納力があると思っていたのですが、石川さんから、クローゼット(壁面収納)のほうが収納力がアップするし、有効面積も広くなりますよ、とアドバイスされて。それならということで、ここに収納したい物にあわせてサイズを測りなおし、クローゼットにしました」

反対側にあたるキッチン側のパントリー収納も奥行きを深くするなど、再調整をしたという。

【画像8】W.I.Cではなく、持ち物に合わせた壁面収納に。手前は娘2人分の洋服がかかっている。奥には季節アイテムやスーツケースなどを収納。どこに何があるのかひと目で分かるようになっているので、子どもたちだけで整理整頓できる(写真撮影/片山貴博)

【画像9】壁面収納の反対側はラベンダー色が愛らしい造作家具。mayukoさんはワントーン明るい色を選んでいたというが、石川さんの勧めでこの色に変更。「仕上がってみると、私が思い描いていた色だったんです。アドバイスを聞いて大正解でした」(写真撮影/片山貴博)

寝室はグレートーンで統一。心が落ち着く空間に

続いてリフォーム計画にあがったのが、寝室。こちらにもあったW.I.Cを見直して夫妻それぞれのクローゼットに変更。あわせてmayukoさんが憧れていた腰パネルを採用するとともに、ホコリが舞うのをおさえるために、フローリングではなくカーペット敷とした。現在はここで家族4人が寝ている。

【画像10】リフォーム前の寝室の様子。画像4と同じように、窓の向こうは共用廊下(画像提供/mayukoさん)

【画像11】寝室のリフォーム後。寝室は明るいグレーで統一して、より心地よい空間に。ちなみに寝室も子ども部屋も、照明はポールセンのもの。色違いで少しずつ雰囲気が異なる(写真撮影/片山貴博)

さらに、トイレも手洗いシンクの下に収納をつけること、壁紙の張り替えなどを行うことにし、寿命を迎えそうな洗濯パン、雰囲気に統一感を出すため玄関も同時にリフォームしてしまうことに。結果としてキッチン・リビング以外、ほぼ全面的な大規模リフォームとなった。

【画像12】夫婦2人分の洋服がスッキリおさまったクローゼット。ここにオールシーズンの洋服がおさまっているので、衣替えは不要(写真撮影/片山貴博)

【画像13】トイレのリフォーム前の様子。収納が足りずに洗剤などの収納に困っていただけでなく、手洗いボウルのまわり、ふちの部分に黒ずみができてしまっていたのもストレスだった(画像提供/mayukoさん)

【画像14】トイレのリフォーム後。北欧テイストの壁紙に、タイルを合わせた。手洗いシンクの下部には収納を設置。「ここにずっと居られる〜」というくらい、お気に入りの空間に(画像提供/mayukoさん)

【画像15】トイレのクラシックなドアノブも美しい。白枠に表示された「VACANT(空いています)」もおしゃれ!(写真撮影/片山貴博)

ここまでの大規模リフォームだと、やはり費用が気になるところ……。

「カーテンなどのファブリックも見直し、そろそろ寿命が来そうな洗濯乾燥機もあわせて変更したので、総額で輸入車1台分くらいはかかりました。見積もりを見たときはさすがにびっくりしましたが、お金をかけた以上の価値はあると、1年前のキッチンリフォームで実感していましたから。今回のリフォームは、前回のリフォーム経験があったからこそ、思いきって決断できたんだと思います」

リフォーム期間中の生活は、どうしていたのだろうか。「不便はありませんでしたか?」という質問には、

「リフォームの施工期間2カ月ほど。その間、リビングに必要最低限の荷物を集めて日常生活を送りながらの施工となりました。また、友人のお家や実家に荷物を預かってもらったり、マンションのゲストルームに数日間宿泊するなど、落ち着かない日もありました。そんな苦労はありましたが、やっぱりリフォームしてよかったです」とmayukoさん。

「キッチンリフォーム時は、美しさと機能面が5:5くらいでした。今回のリフォームは、美しさ8:機能2でしょうか。機能面でいえば、通風・採光と収納くらいですから。家全体が明るくなり、収納があるので、きっちりモノがしまえる。でもこうした機能面以上に、心理的に好きな空間に囲まれる幸せってかけがえがないものだなって思いました。大げさにいえば、人生の質がよくなる、そんな感じです」

リフォームには時間と手間、費用、そのすべてがかかるため、妥協せずに、自分好みの空間を追求するのは、誰にでもできることではないかもしれない。でも、お気に入りの空間があれば、人はもっと安らげるし、楽しくなる。「単なる不満の解消」「機器の交換」というリフォームから、もっと心地よく生きるためのリフォームへ。こうした発想があれば、暮らしはもっと豊かなものになるのかもしれない。

【画像16】子どもたちのデスクの反対側から見たところ。十分な収納量を確保でき、季節のお花やアロマポットも置ける(写真撮影/片山貴博)

●取材協力
・「丁寧な暮らしのルール」収納、料理、インテリア、ときどき双子。●関連記事
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(嘉屋 恭子)