<メル・ギブソン10年ぶりの監督作品は、実在の衛生兵の生きざまを描く感動作>

長く記憶に残る映画を作ろうと思ったら、何より大事なのは土台となるストーリーと脚本だ。トム・ハンクスやメリル・ストリープ級の名優をそろえても、土台がしっかりしていなければせっかくの才能が無駄になる。

その点、10年ぶりに監督業に復帰したメル・ギブソンは、とびきりのストーリーを選び出した。『ハクソー・リッジ』は第二次大戦下で実在したアメリカ兵士の生きざまを追った作品。戦争の恐怖を容赦なく表現しながら、1人の兵士の揺るぎない信念と慈悲の心を見つめた。

バージニア州育ちの若者デズモンド・ドス(アンドリュー・ガーフィールド)は敬虔なキリスト教徒。非暴力の信念から兵役を拒んできたが、第二次大戦が激化するなか、祖国に奉仕していないというやましさに苦しんで衛生兵に志願する。死ぬまで武器は取らないと誓った彼は銃もナイフも使わず、ハクソー・リッジと米軍が呼んだ沖縄の激戦地(前田高地)で、仲間の兵士を命懸けで助け出す。

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ストーリーは3つに分かれる。まず強い信念の背景を明らかにして、ドスの人物像を確立。次に新兵訓練でのトラブルを描き、それから舞台は戦場へ移る。

前半は戦争映画とは思えないほどのどかだ。暴力的な父親に育てられたにもかかわらず、ドスは心優しい青年に成長し、看護師のドロシー(テリーサ・パーマー)に恋をする。初めてのキスで有頂天になり、かつて兄弟と遊んだ野山に彼女を連れて行く。そんな彼にドロシーだけでなく、観客も引かれていく。

ガーフィールドが醸し出す人の良さも手伝って、ドスは好感度満点だ。だからこそ彼が訓練中に臆病者と罵られ、リンチを受けるくだりは心が痛む。だが本当に心がえぐられるのは、沖縄戦に突入してからだ。

ギブソンが監督だけに血みどろの描写が満載だが、戦闘のむごさを徹底してリアルに描いた点は見事。爆弾や機関銃がいかに人体を破壊するか、観客は目の当たりにする。兵士が味わった恐怖を強調することで、そんな状況でも銃を一度も使わなかったドスのすごさが際立つ。

[2017.6.27号掲載]

エイミー・ウエスト