LIFULLの本社ビル(東京都千代田区)。「モチベーション日本一」の会社になるまでの取り組みを公開した


「社員は経営理念を実現するために集まった『同志』」──不動産・住宅情報サイト「LIFULL HOMES」を運営するLIFULL(ライフル)の人事本部長、羽田幸広氏は、自著『日本一働きたい会社のつくり方』(PHP研究所)の中で、LIFULLのすべての活動の中核に経営理念があることを強調する。

『』(羽田幸広著、PHP研究所)


 羽田氏は2005年に、創業8年目だったLIFULL(当時の社名は「ネクスト」)に入社した。以来、一貫して人事部門を担当し、「日本一働きたい会社」を目指してさまざまな制度、仕組みを作り上げてきた。本書『日本一働きたい会社のつくり方』はLIFULLの12年にわたる取り組みの軌跡をあますところなく公開した書籍である。

 羽田氏が入社した当時、社員数は80名ほどだったが、現在はグループで1000名を超え、売上高は10倍以上に拡大した。それだけでも目覚ましい躍進と言えるが、さらに特筆すべきなのが、同社がビジネスの成長と軌を一にして「モチベーション日本一」の会社になったことだ。

 LIFULLでは2003年より、組織戦略コンサルティング会社、リンクアンドモチベーションが提供する社員モチベーション調査(会社と従業員の相思相愛度調査)を実施している。当初は「全国平均より低い水準だった」というが、「従業員の満足度」を高めるべく全社的に試行錯誤を繰り返した結果、2017年についに283社中第1位となった。

 また同社は、GPTW(「働きがいのある会社」を選定する国際的な調査機関)が世界約50カ国に対して行っている調査で、「働きがいのある会社」ベストカンパニーに7年連続で選定されている。経済産業省と東京証券取引所が“従業員の健康管理に戦略的に取り組んでいる企業”を選定する「健康経営銘柄」にも2年連連続で選ばれた。

 なぜLIFULLの社員はモチベーションが高く、働きがいを感じているのか。羽田氏にその秘密を聞いた。

LIFULL人事本部長の羽田幸広氏


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社員の「人の良さ」が数字に現れる

──政府が「働き方改革」の旗を振り、それに呼応する形で、さまざまな企業で働き方改革の取り組みが進められています。LIFULLでも働き方を改革するために制度を変えたり、新しい仕組みを導入したりしているのでしょうか。

羽田幸広氏(以下、敬称略) 働き方改革を意識して施策を変えたりすることはあまりありません。もちろん法令は順守しますが、ルールを設けて「早く帰ってください」と言ったりはしません。法令の範囲内で、働きたい人は好きなだけ働けばいいし、早く帰らなければいけない人は早く帰ればいい。その人に合った働き方ができればいいと思っています。会社としては、そういう人たちを束ねて大きな成果が出せればいいという考えです。

──LIFULLでは有休取得率が85%、女性社員の育休取得率と復帰率が100%、男性の育児休業取得率が18%など、働き方改革のあるべき姿から見ると素晴らしい数字が出ていますよね(注)。これはなぜなんでしょうか。

(注)厚生労働省の調査によると、日本企業の有給取得率の平均は48.7%(2016年度)。男性の育児休業取得率は2.65%(2015年度)に過ぎない。

羽田 いろいろなところでその理由を聞かれるんですが、当社では有休や育休の取得を奨励するような働きかけは特にしていません。有休取得率や育児休業取得率が何パーセントとかあまり意識したことがないんです。たまたま調べなければならない機会があって調べてみたら、その数字だったということです。

──数字を目標にしているわけではないのですね。

羽田 はい。企業文化がこの数字を自然に作ってくれました。例えば、新卒採用セミナーに登壇したある男性社員がこういう話をしていました。奥さんが妊娠してそろそろ出産しそうな時期になったら、周りのみんなから「育休を取らなくていいの?」と聞かれたそうです。「取らなくて大丈夫なの? 取った方がいいんじゃないの?」と周りが気にかけてくれたというんですよ。

──それはどんな企業文化なんでしょうか。

羽田 当社の社是は「利他主義」です。“全方位の人たちに何らかのアクションを起こすことで、相手を笑顔に、ハッピーにしよう”という価値観です。当社のすべての活動の中心に利他主義が据えられています。

 だから当社の社員は「人がいい」と言いますか、社員みんなが利他主義を企業文化として醸成してくれているので、そういう数字が出ているのではないかと思います。

──企業文化と働き方がつながっているんですね。育児休暇を取った女性がみんな復職するというのも、社是とつながっているんでしょうか。

羽田 復職した女性社員によると、やはり周りの人がかなり助けてくれたり、支援してくれるそうです。だから自分も頑張ろうという気持ちになる、ということを言っていましたね。

──やっぱり「働き方」の根底に企業文化があるわけですね。

羽田 その影響はかなり強いと思います。

全社員が持ち歩くビジョンカード

──羽田さんの著書『日本一働きたい会社のつくり方』を読んで最も印象的だったのは、人事に関するすべての施策が経営理念や企業文化(社是やガイドラインなど)とつながっていることです。LIFULLの社員は、社是、経営理念、ガイドラインを記した「ビジョンカード」をいつも持ち歩いているそうですね(以下がライフルの社是、経営理念、ガイドライン)。ビジョンカードはいつからあるのですか。

[社是]
利他主義
[経営理念]
常に革進することで、より多くの人々が心からの「安心」と「喜び」を得られる社会の仕組みを創る
[ガイドライン]
1.真理を探究し続ける
2.革進の核になる
3.最速で価値を提供する
4.高い目標を掲げる
5.計画を立て完遂する
6.一点の曇りもなく行動する
7.真のチームワークを築く
8.すべてのステークホルダーを重んじる

羽田 私は2005年6月に入社したのですが、私が入る数カ月前に全社員で話し合って経営理念が決まり、カードもできていました。

──それが今もずっと変わらないのですね。

羽田 ガイドラインは数年に1回、事業のフェーズに合わせて差し替えていますが、社是と経営理念は変えません。

──社員はみんな経営理念を暗唱できるのですか。

羽田 みんなできると思います。経営理念の意味は、確実にみんな理解しています。

 浸透施策の1つとして、ちょうど今日も経営理念やガイドライン、会社の事業戦略等の理解度を図る年に1回の「LIFULLテスト」を行ったところです。また、年に2回、ビジョンがどの程度自分に落とし込めているかを調査するアンケートも行い、社員への浸透度をチェックしています。そこで確認し、浸透度が低い部門には、上司が入って対策を練るということも行っています。

経営理念に共感してくれる人だけ採用する

──経営理念を浸透させるための施策を打っても、社員がそれまでに培った価値観を変えるのは大変ではないですか。あらゆる場面で会社の価値観に沿った行動を躊躇なく取れるようになるのは、なかなか難しいのでは?

羽田 そうですね、なので、当社は採用を非常に重視しています。目指すものが同じで、基本的な価値観が似ている人を採用するようにしています。

 実は、ある時期から採用方針を「経営理念と企業文化に徹底的に共感してくれる人材だけを採用する」方向へ大きく変えました。どれほど即戦力としてのスキルが高くても、ビジョンやカルチャーにずれを感じたら採用しません。

 私が入社した2005年頃は、経営理念に共感するというよりも、「不動産業界を変革したい」という井上(社長)の想いに惹かれて入社する社員が多かったように思います。また、2006年に東証マザーズに上場した頃と前後して大量採用するようになったら、価値観の合わない社員がだんだん増えていきました。すると、ビジョンやカルチャーを改めて共有するための時間をさかなければならないので、生産性が低下してしまったんです。

 そこで、2006年から私たちの経営理念と企業文化にフィットする人だけに採用の間口を絞ることにしました。ですから新卒セミナーでは、入社後のミスマッチを防ぐために仕事内容よりも経営理念や社是の話を注力して伝えます。その結果、今では経営理念に共感する社員が集まる会社になりました

──採用時からフィルターがかかっているわけですね。

羽田 採用ではかなりフィルターをかけています。例えば、どんなにスキルがあっても企業文化に合わない人は採用しませんし、「成長したい」としか言わない人も採用しません。

──それはなぜですか。

羽田 単純に「成長したい」という願望には、「何がしたいのか」という“向き”がないですよね。その「何がしたいのか」の方向が当社の企業理念と合っていれば採用します。例えば、教育事業をやりたいという学生は不動産情報サービス業とは直結しませんが、経営理念の方向性には合っているので採用します。成長意欲のある人はもちろん歓迎しますが、ただ成長が目的という人は採用しないようにしています。

──そうやって採用を変えたのが、今のいわゆるモチベーションの高さにもつながっている。

羽田 間違いなくそれは言えると思います。

──経営理念や企業文化が、LIFULLのまさに核になっているのですね。

羽田 そのとおりです。人事に関してこの12年でいろいろなことをしてきましたが、会社としての最大の変化は、みんなが経営理念の実現に向けて挑戦し、そこに集中して事業を行えるようになったことだと思います。

筆者:鶴岡 弘之