1万円を盗んだといわれのない嫌疑をかけられ、無実を主張したら1年間近くも拘束されたミュージシャンが、今も理不尽な捜査に損害賠償を求め闘っている。

事件があったのは5年前の2012年6月。大阪府泉大津市のコンビニで客を装ったレインコート姿の男がレジから1万円を奪い逃走した。その2カ月後、近くに住む土井佑輔さん(26)が窃盗容疑で逮捕された。

逮捕の決め手となったのはコンビニの自動ドアから検出された指紋が土井さんのものと一致したためだった。素行が悪かった10代の時に警察で採取された指紋が一致したのだ。

しかし、その後は真面目な生活を送り、事件には全く無関係だった土井さんは「すぐ帰してもらえるぐらいの感覚だった」と話す。ところが先入観を持った警察の捜査は違った。犯人と決め付けられ、激しく自白を強要され、「恐喝に近いような取り調べが続いた」という。

その時に土井さんが取調官の言葉を書き留めておいたメモによると、「人として基礎がなってへんのじゃ。お前みたいなもんが、何が黙秘や全面否定や。自分のケツぐらい自分でふけや」、「オレは今、お前の黙秘している態度に腹立っとるねん。わかってんかい、コラッ?」

可視化による録音を求めても「アホか、誰が録音するか。お前にそんな権利あるか。警察をなめんなよ?とことん苦しめたら」。

1日5時間、20日間続いた取り調べに土井さんは「もう恐怖しかなかったです。このまま犯人として出来上がっちゃう。心がどんどん剥ぎ取られていくような、心に傷しか入らなかった」と述懐する。

検察庁に送検されても、「証拠隠ぺいの恐れがある」と、3回も保釈請求は認められず、接見禁止は9カ月間続き、自殺を考えたこともあったという。

スマホ、防犯カメラが不在を証明

しかし息子の無実を信じた母親が助けてくれた。息子の無実を証明するために自ら調べ始めた結果、息子のスマホから1枚の写真を見つけた。土井さんが事件の時間帯に自宅でくつろぐ姿を友人が撮った写真だった。

おまけに母親が防犯カメラの映像を詳しく調べた結果、逮捕の決め手となったコンビニの自動ドアにあった土井さんの指紋は、事件の5日前にコンビニを訪れ、手を突いた時の指紋だったことが防犯カメラの映像で確認された。

つまり土井さんが事件当時は家にいて、コンビニに行っていないことが証明され、14年7月大阪地裁岸和田支部の判決で無罪が言い渡された。

土井さんの弁護人を務めた平山正和弁護士は「いったん疑義ありとして捜査を進め逮捕、勾留、起訴してしまうと軌道修正ができない体質がある。否認していることの見せしめだと思う」と指摘する。

警察、検察の捜査ミスだったのだが、正式な謝罪がないことに怒りを覚えた土井さんは15年4月、1000万円の損害賠償を求め民事訴訟を起こした。しかし、これにも地裁の判決は「5日前に遡って防犯カメラの映像を調べることは通常の捜査で要求されていない」として「原告の請求を却下」している。

現在、土井さんは「事件の内容を知ってくれる人が多くなる」と大阪高裁に控訴し、今月からその闘いが始まる。

番組コメンテーターの三輪記子弁護士は「微罪事件でも容疑を否認すれば長期間身柄を拘束されることはよくある。こうした手法は『人質司法』と言われ虚偽の自白を招く怖れがあるんです」。

日本の警察は、今回の例で分かるようにまだまだ上質とは言えない。共謀罪が実施されればこうした冤罪はさらに増える可能性がある。