平日主婦パワーで『昼顔』が週間トップ 日本特有の「大人向け女性映画」の傾向

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 『22年目の告白−私が殺人犯です−』、『美女と野獣』、『昼顔』。上位3作品で接戦が繰り広げられた先週末の動員ランキング。その中から抜け出したのは、土日2日間で動員18万7000人、興収2億6200万円を上げて2週連続1位となった『22年目の告白』。動員の前週比が80%以上という高い推移は、キャスト人気だけではなく、作品内容への高評価が口コミで広がっている証だろう。

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 前週から1ランクダウンして3位の『昼顔』は、週末の動員では前週比65%とそこまでの高推移ではないが、ウィークデイの興行においては公開1週目から圧倒的な強さをキープしていて、実は週間(7日間合計)ではトップとなっている。先週末の時点での累計興収でも、『22年目の告白』の9億2649万円を上回る9億8603万円を記録していて、今週のウィークデイでその差をさらに大きく広げている。

 先週の当コラム(『22年目の告白』と『昼顔』がトップ2 日本映画反撃の鍵を握る職人監督たち)でも指摘したように、「GWと夏休みの狭間、シネコンや劇場に大人の観客が戻ってきた」という状況が今週も続いているわけだが、両作品のそのような週末とウィークデイの集客傾向の違いからは、「大人」と言ってもその内実が異なっていることがわかる。言うまでもなく、『昼顔』はまさにテレビドラマの時のサブタイトル「平日午後3時の恋人たち」の通り、平日午後3時前後に主婦が大挙して劇場に押し寄せているというわけだ(もっとも今回の映画版では旧姓に戻っている主人公・木下紗和は平日の昼間も働いているが)。

 先日最終回が放送されたテレビドラマ『あなたのことはそれほど』(TBS系)が高視聴率を記録するなど、ここにきて日本の映像界においてにわかに吸引力を増している「不倫もの」。もちろん、以前からこのジャンルはドラマでも映画でも数々の作品が作られてきているわけだが、『昼顔』と『あなそれ』に共通している時代の空気のようなものがあるとするなら、それは「不倫をすることの背徳感(からくる快楽)」よりも「モラル問題としての不倫」と「その後の後始末」に物語の重きが置かれていることだ。それは、以前にも増して、週刊誌をはじめとするゴシップメディアが(芸能人だけではなく文化人や表現者にまで対象を広げて)不倫問題をやっきになってスクープするようになった世相の反映であるとも言えるだろう。

 海外にも、主婦層がこぞって劇場に駆けつけてヒットするジャンルの作品は存在する。近年のヒット作で言うなら、『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』(2015年)や『ガール・オン・ザ・トレイン』(2016年)といったあたりだろうか。日本における「テレビドラマがヒット→映画化」というコースと違って、海外では「ベストセラー化→映画化」というコースが一般的であるところが異なるが、最も大きな違いは、海外では「不倫」という題材はもはや当たり前すぎて作品のテーマにはなり得ないということだ。

 ちょうど今週末には、『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』の続編で、前作に続いて世界各国で大ヒットを記録した『フィフティ・シェイズ・ダーカー』が日本公開される。シリーズの設定を乱暴に言ってしまえば、「大金持ちでハンサムの若手IT系CEO」から「ハードなSMプレイ」を強要されるという、文字通りの「アメ」と「ムチ」の間で葛藤する女性主人公の心の動きを描いていくこのシリーズ。もちろんそれだけではなく、男が極端な性癖を持つに至った過去のトラウマとかもわりと真剣に作中では語られているのだが、正直、男性の観客である自分からすると、登場人物の誰にも感情移入できずに「ポカーン」とするしかない女性向けの非現実的な性的ファンタジー映画と言わざるをえない。でも、本来「大人向け女性映画」というものは、男にしてみればこのくらい「ポカーン」とさせられるものでいいのかも、と思ったりもするのだ。

 その点、『昼顔』で描かれている物語世界は、舞台が日本であるということを差し引いても、現実と地続きで、性的にも物質的にも慎ましく、男にとってもそれなりに身につまされる生々しいもの(もし『フィフティ・シェイズ・ダーカー』に身につまされる男がいるなら、それはそれで会ってみたいが)。両作品を続けて観ると、どちらがいいとかそういう話ではなく(演出面では『昼顔』の方が明らかにテクニカルで洗練された作品だが)、日本人の一般的な映画(物語)への趣味嗜好というものは、改めて西欧とはかけ離れているなぁと感慨を覚えずにはいられない。日本人がアメリカのコメディ映画をちゃんと理解するのは難しいだとか、ホラー映画への愛着がアメリカ人に比べて薄いだとか、映画好きの間ではよくそういう話がされるけれど、日米で現在最も大きなギャップがあるのは、もしかしたら『昼顔』のような「大人向け女性映画」というジャンルかもしれない。

■宇野維正音楽・映画ジャーナリスト。「リアルサウンド映画部」主筆。「MUSICA」「装苑」「GLOW」「NAVI CARS」ほかで批評/コラム/対談を連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮社)、『くるりのこと』(新潮社)。