「ブラック企業」から逃れたい……

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2017年5月、厚生労働省が「ブラック企業リスト」を公開して、大変話題になりました。リストには、じつに300社以上の企業の名前が掲載され、なかには誰もが知っているような大企業も載っています。なんとなく「よくない会社が載っている」と思っている人も多いかもしれませんね。

今回は、ご相談者のエピソードをもとに、この「ブラック企業リスト」について詳しく解説しましょう。(文責:「フクロウを飼う弁護士」岩沙好幸)

事例=転職先がブラック企業かどうか、心配です

僕が勤める会社はいわゆる「ブラック企業」だと思います。

定時にタイムカードを押しますが、連日のように残業があります。もちろん、残業代なんか出ません。新入社員の頃は、「僕がこの会社を変えてやるんだ!」と意気込んでいましたが、もはやそんな気力も失せてしまいました。このままでは身体を壊してしまうと思い、転職を考えています。

ただ、次の転職先ではこんな思いをしたくないと思っていますが、今の会社も結局入ってみなければわからなかったというところです。

厚生労働省が法令に違反した会社を公表するというニュースをみましたが、それは一般人でも見ることができますか? また、どういう会社が載っているのでしょうか?

弁護士回答=労働法令違反の疑いで送検した事案などを公表

これから勤めようという会社が、ブラック企業かどうかがわかれば、転職活動もやりやすくなりますよね。今回は、厚生労働省による、いわゆるブラック企業の公表について説明させて頂きます。

厚生労働省は2017年5月10日、長時間労働や賃金の不払いなど、労働関係法令に違反した疑いで送検されたブラック企業のリストを公表しました。

この公表は、この3月30日に発せられた「労働基準関係法令違反に係る公表事案のホームページ掲載について」という通達に基づくものです。この通達によると、ホームページに掲載する事案は、労働基準関係法令違反の疑いで送検し、公表した事案(送検事案)と局長が企業の経営トップに対して指導し、その旨を公表した事案(都道府県の労働局長指導事案)の2種類あります。

公表する内容は、(1)企業・事業場の名称(2)所在地(3)公表日(4)違反法条(違反した法令の条項)に、(5)事案概要(6)送検日時――です。

ホームページに掲載されている期間は、公表日から概ね1年間ですが、送検事案については、掲載の必要性がなくなったと認められる場合、また局長指導事案については、是正および改善が確認された場合には速やかにホームページから削除されること――とされています。

局長指導事案に関する通達によると、公表の目的は、他の企業における遵法意識を啓発し、法令違反の防止の徹底や自主的な改善を促進させ、これにより同種事案の防止を図ることであり、対象とする企業に対する制裁として行われるものではないとされています。

今回のリストを見ると、ニュースで話題となった大手企業もありますが、大半は中小企業です。また地域別にみると、北海道や愛知県が比較的多く、東京都は意外と少なめでした。

リストにない企業ならセーフなの?

このように、ブラック企業に関する情報が入手しやすくなったわけですが、むろん、公表されていない会社がすべてホワイトなどということはないので、自分が就職を検討している会社が「ブラックなのではないか?」と心配な場合には、面接の際に残業時間や離職率について質問したり、社内に知人がいる場合には、直に様子を尋ねてみたりするのがいいでしょう。

また、会社の評判というものは、業界内に意外なほど広まっているものなので、その会社に知人がいなくても、同じ業界に知人がいるのであれば、評判を聞いてみるのがいいと思います。

とはいえ、ブラック企業かどうかは外部からは分かりにくいものです。また、そもそも、ブラック企業という言葉に厳密な定義があるわけでもないので、たとえば高収入であれば残業が多くてもいいと思うかどうかや、体育会系のノリに馴染めるかどうかなどによって、自社をブラック企業と感じるかどうかも変わってくるでしょう。

ですから、個人的には、「とりあえず入社してみる!」という選択もありかと思います。重要なのは、「自分の会社はおかしいのではないか?」という疑念を過度に押し殺さないようにすることや、限界だと思ったときにはスパッと辞めてしまう勇気を持つことではないでしょうか。

世の中には、「今辞めるなら損害金を請求するぞ!」などと言ったりしてなかなか辞めさせない会社もあると聞きますが、そのような場合には迷わず弁護士に相談されるといいでしょう。

ポイント2点

●ホームページに掲載する事案は、労働基準関係法令違反の疑いで送検し、公表した事案(送検事案)と、都道府県の労働局長が企業の経営トップに対し指導し、その旨を公表した事案(局長指導事案)の2種類

●ホームページに掲載されている期間は、公表日から概ね1年間で、是正および改善が確認された場合には、速やかにホームページから削除されることとされている