金正恩党委員長はやはり、人権問題で墓穴を掘るのだろうか。

北朝鮮の平壌で政治スローガンの書かれたポスターを盗もうとした容疑で逮捕され、17ヶ月ぶりに昏睡状態まま解放された米国の大学生、オットー・ワームビア氏が現地時間の19日に死亡した。

米世論の対北朝鮮感情が最悪となるのは決定的だが、韓国政府もまた、同氏の死去が与える影響を注視している。文在寅大統領は20日に行われた米CBSとのインタビューで、「北がワームビア氏を殺したのかについてははっきりとは分からないが、ワームビア氏が死亡に至る過程で北に重大な責任があると確信している」と話した。

実に慎重な物言いである。文氏は対北朝鮮政策で、対話と制裁を並行しつつ、北朝鮮核問題を包括的かつ段階的に解決する必要性を訴えているが、米国内の対北朝鮮世論がいっそう悪化すれば、北朝鮮との対話について米国の理解を得にくくなるかもしれない。

韓国政府は、ワームビア氏が北朝鮮でどのようにして昏睡状態に陥り、解放から6日で息を引き取ったのかについて詳細な経緯が明らかになるか注目している。遺族らが主張するように「拷問のような虐待」によって死に至ったとすれば、金正恩政権とのいかなる合意も難しくなる。目下、国際社会と対話する姿勢を見せていない正恩氏だが、そのうち彼自身が対話を望むようになっても、思い通りにことが運ばなくなるわけだ。

(参考記事:「北朝鮮で自殺誘導目的の性拷問を受けた」米人権運動家

果たして、北朝鮮はワームビア氏に何をしたのだろうか。

いまのところ、脱北者や北朝鮮ウォッチャーの中に、「拷問を加えた」と見る向きは見当たらない。しかしいずれにせよ、ワームビア氏を罪とも言えない罪で拘束し、その間に彼の身に起きた異変により死なせた事実に変わりはないのだ。

北朝鮮が米国の世論を鎮めたいと思えば、せめて過失を認め、賠償に応じるなどの行動が必要になる。しかしそうすると、それが人権侵害を認めた前例となり、人権問題追及の動きに勢いを与えることになる。

たとえば、北朝鮮は1968年、米海軍の情報収集船「プエブロ号」を拿捕したことがあるが、当時の乗組員が「11か月間にわたって拷問され、後遺症に苦しんだ」と提訴。ワシントン連邦地裁が2008年暮れ、北朝鮮政府に賠償金6600万ドル(約60億円)の支払いを命じる判決を下したことがある。

北朝鮮の動き方しだいではこうした問題が掘り起こされ、トランプ政権から追及を受けることになりかねないのだ。

金正恩氏は米国との駆け引き材料とすべくワームビア氏を逮捕したのかもしれないが、結果的には痛恨のミスを犯すことになってしまったようだ。