味千ラーメンの中国広東省深圳市の店舗(資料写真、出所:)


 前回(「毎日ビリオネアが誕生、スター経営者を輩出する中国」)は、中国ベンチャー市場を読み解く上での第1のキーワードとして、「継続的なスーパースター(企業・起業家)の誕生」をご紹介し、「1カ月に1つ誕生するユニコーン企業」「名実ともに中国の主役となったB・A・T(バイドゥ、アリババ、テンセント)」「1日1人誕生するビリオネア」といった象徴的なトピックについて見てきた。

 では、それらのスーパースター企業が立脚しているのは、どういった業界・テーマなのだろうか?

「中国ベンチャー市場を読み解く6つのキーワード」の2つめとして、今回、深掘りしてみたい。

中国ベンチャー市場を読み解く6つのキーワード
(出所: Legend Capitalとの討議よりDI作成)


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中国ベンチャー市場を読み解く6つのキーワード
(2)様々な創業アイテム(前編)

・中国ベンチャー市場の創業アイテム:大きく5パターン

 まず、中国ベンチャー市場で非常に興味深いのは、「革新的な領域」以外に、先進国では既に成熟期に入ってしまった「伝統的な領域」でも、継続的に、起業と成長の機会が創出されていることである。

 今回、そうした視点から、中国ベンチャー市場の創業アイテム(業種・テーマ)を5パターンに大別した。

 下の図を見ていただきたい。左側は薬局、レンタカーといった伝統的な色合いの強い領域、そこから右に行けば行くほど、ドローンやIoTといったイノベーション領域に近づいてくる構成だ。

中国ベンチャー市場の創業アイテム(全体像、赤字は記事内で言及)
(出所: Legend Capital提供資料を基にDIがリバイズ)


伝統産業
(例)タイヤ、薬局、レンタカー

「10大ニュース」でもご紹介した通り、中国では、タイヤ企業(玲珑轮胎)や物流(中通・圆通・申通)といった伝統的な業界からも、まだ成長企業・上場事例が輩出されている。

 ここで各業界における米国・日本・中国の大手企業の上場タイミングを見てみると、中国でいかに同時多発的に幅広い分野でまだ成長機会がもたらされていることが分かるだろう。と同時に、病院といった先進国における規制業種や、配車アプリのような新規産業では、中国が先に上場を果たすケースも出てきているのも付言しておく。

中国では伝統的な業界の中でも、成長企業を輩出されているケースが広く存在
(出所: Legend Capital・DI分析)


 ここで新たに登場した企業を2社ほど紹介しておこう。

 薬局として例示した「一心堂」は、中国ではトップ10、雲南省では最大のドラッグストアチェーン店で、8省211都市に約3400の直営店舗を持つ。特に雲南省1省だけで2000店舗を展開中というから驚きである。直近でも30%近い売上成長を続けている。

 その実態は、薬品・日雑品を扱う「薬局型」の店舗形態中心と思いきや、それ以外にも、メガネや電気製品も取り扱い、さらには店舗内に設置したインターネットTV経由でのEC注文も受け付ける「コンビニ+スーパー+薬局融合型」の店舗形態まで、大きく5パターン存在する。しかも、その地域のニーズに合わせて、細かく出店形態を変えているという。これは、そもそも中国内陸部でチェーンストアが十分に発達しておらず、各地域に提供されているサービスが「歯抜け」なことに起因する。

 先進国では当たり前、中国沿岸部で成熟しつつある業態も、内陸部×オフラインではまだまだ未熟であることが多いのだ

雲南省だけで2000店舗を持ち、地域の発展状況に合わせ5タイプの店舗を展開


 もう1社、レンタカーの「神州租車」にも簡単に触れておこう(ドリームインキュベータとLegend Capitalの過去投資先でもある)。同社は、創業当初のビジネスモデルとして、自動車のレスキュー・修理・保険といった、付帯メンテナンスサービスを扱う「アメリカ自動車協会(AAA)モデル」を掲げていたが、当時の中国市場では有料会員が全く集まらず、一度は倒産間際にまで追い込まれてしまう。そこで、より伝統的なレンタカービジネスに転身を遂げ、世界最大手Hertzとも巧みな戦略提携を行うなど、2位〜10位を合算しても敵わない圧倒的な規模化を達成し、2014年に香港上場するに至っている。

 同社は世界初上場の配車アプリ企業「神州専車」(参考「香港で上場、あの本間ゴルフが中国で復活していた」)も傘下に抱える。紆余曲折の歴史に興味をお持ちの方は、こちらの記事(「中国レンタカー業界に見るターンアラウンド&規模化戦略 (前編)」)も参照されたい。

シングルアイテム×地域拡大
(例)ラーメンチェーン、オンラインケーキ、エレベーター広告

「 伝統産業」とやや重なる部分もあるが、創業アイテムの2つ目として、「 シングルアイテム×地域拡大」が挙げられる。「ニッチ」かつ「一点突破型」であっても、中国市場の圧倒的規模により、ビジネスとして成立するというものである。ここでは3社、紹介しよう。

 1社目の「味千拉面(味千ラーメン)」は、日本でこそ80店舗であるが、今や中国大陸では670以上のチェーン店舗を展開し、総従業員数は1万人を超える香港上場企業となっている(2017年5月現在)。

 同社は、地域拡大を行う上で、(1)フランチャイズは30店舗以上展開可能な大手に絞る、(2)中国各地に工場設置し全ての食材やスープを完全管理下に置く、(3)キーとなる調理メンバーには熊本本店で1カ月の研修をさせる、といったことを徹底し、日本流スープの味を守っている。

 一方で、サイドメニューやトッピングは、日本に全くない、中国ならではの要素を取り入れて大きく現地化していることも付言しておこう。

日本の10倍近い店舗展開を行い香港上場している味千ラーメン


 続いて21cakeも、ケーキというシングルアイテムではあるが、北京・上海・天津・杭州・蘇州・無錫と地域拡大を行うことで、成長を続けている1社だ(参考:「ハイエンド×カテゴリー特化型ECのパイオニア(前編)」)。

 同社は、差別化されたデザイン、最高級の原料、受注生産・コールドチェーンによる新鮮品質、という「ハイエンドケーキ」のコンセプトを保ちながら、「オンライン」販売チャネルを通じ、主にホワイトカラー層に対して毎日何千個というケーキを届けている。「ハイエンド」×「オンライン」という一点突破型のモデルであっても、十分なビジネスボリュームが見込めるのである。

 そして極めつけは、3社目。エレベーター広告の「分众传媒(Focus Media)」社だ。同社はビル内の「エレベーター」という空間に徹底的にフォーカスした広告メディアである。中国全土110万以上のエレベーター内ポスターと、18万以上のエレベーター内TV広告を扱い、1日のべ5億人に対する広告露出を提供する。

 中国メディア企業としては初めて2005年にNASDAQ上場を果たし、2007年にはNASDAQ100指数銘柄に編入。その後2014年に、さらなる株式市場からの評価を求めて深セン中小企業板に国内回帰(迂回上場)、2016年末の時価総額は2.1兆円に達する。「エレベーター広告」というシングルアイテムだけで兆円企業とは、驚きである。

「エレベーター広告」というシングルアイテムにフォーカスし、兆円企業へ


Copy to China
(例)シェアリングエコノミー、オンライン動画

 海外のビジネスのコピーである。このパターンについては、もはや詳細な説明は不要であろう。特筆すべき点があるとすると、近年、アメリカと中国の「タイムマシン」に要する時間が急激に縮まっていること、配車アプリの滴滴出行(Didi)とUber Chinaの例に見られるように、本家すら飲み込みかねない力を持ち始めていることだろうか。

Copy to Chinaモデルの米・中比較(サービス開始年と企業価値(単位:USD))
(出所: DI分析)


 Legend Capital投資先の小猪短租は、Airbnbのコピーキャットであるが、2012年8月の設立以来、既に中国250都市・10万施設までビジネスを拡大している。そして2016年12月には、滴滴出行(Didi)とUber Chinaの合併に触発された本家Airbnbから、中国事業合併の打診もあったという。

本家Airbnbから中国事業合併の打診もあった小猪短租


 今回は、3つの創業アイテムを見てきた。次回は残り2つを見ていこう。

最後に

◎ドリームインキュベータ・小川より
 中国のVCと話をすると、カバーする領域の広さに驚かされる。ディープラーニング用のチップからラーメン屋まで、日本の感覚からすると節操がない。中国のVCが伝統産業に投資をする理由は、1つは金融システムにある。中国では、銀行が中小企業に融資をしないため、VCがその受け皿になっているのだ。しかし、より本質的な理由は、高い投資リターンそのものにある。伝統産業であっても、白地の市場が広大で、それを刈り取るスピードも速い。投資リターンという「純粋に数字の世界」で見れば、最先端チップとラーメンが同列になる。いかにも中国らしい特徴だと思う。

◎Legend Capital・朴より
 今回は、先進国では既に成熟期にある「伝統産業」にも、創業・成長の機会があることをご紹介しました。この点に関連し、1つ興味深い事実をご紹介しましょう。こうした「伝統産業」であっても、創業アイテムとあまり関係ない方が創業しているケースが非常に多いのです。神州租车(レンタカー)は欧米系通信リース会社のディーラー、爱尔眼科(レーシック手術病院)は軍人ですし、味千ラーメンに至っては創業者が日本旅行のついでに発見し、外食業界の経験も全くない中で創業した背景があります。
 こうした点を考えても、韓国や日本の伝統産業における商品・サービス・ブランドの累積は、中国市場においても優位性になるのではいでしょうか。

この記事のまとめ: 中国ベンチャー市場を読み解く6つのキーワード
(2)様々な創業アイテム(前編)
伝統産業: (例)タイヤ、薬局、レンタカー
シングルアイテム×地域拡大:(例)ラーメンチェーン、オンラインケーキ、エレベーター広告
Copy to China: (例)シェアリングエコノミー、オンライン動画

(筆者プロフィール)

板谷 俊輔
ドリームインキュベータ上海 董事兼総経理
東京大学工学部卒業、同大学院新領域創成科学研究科修了後、DIに参画。
北京大学外資企業EMBA。
エンタメ・デジタルメディア・消費財分野を中心に、大企業に対する全社改革(営業・マーケ改革、商品ポートフォリオ再構築、生産・購買コスト削減、組織改革、海外戦略見直し等)から、ベンチャー企業に対するIPO支援(事業計画策定、経営インフラ整備、常駐での営業部門立ち上げ、等)まで従事。現在は、DI上海に董事総経理として駐在し、現地政府・パートナーと連携しながら、日系大企業へのコンサルティングと中国・アジア企業への投資・事業育成を行う。

小川 貴史
ドリームインキュベータ上海 高級創業経理
東京大学工学部卒業後、ドリームインキュベータに参加。
主に、新規事業の戦略策定およびその実行支援に従事。 製造業(自動車/重工/素材)を中心に、IT、商社、エネルギー、医療、エンターテイメント等のクライアントに対し、構想策定(価値創造と提供における新 たな仕組みのデザイン)から、事業モデル/製品/サービスの具体化、組織/運営の仕組みづくり(実現性を担保したヒト・モノ・カネのプロデュース)、試験 /実証的な導入まで、一気通貫の支援を行っている。複数企業による分野横断的な連携や、官民の連携を伴うプロジェクトへの参画多数。

朴焌成 (Joon Sung Park)
Legend Capitalパートナー、エグゼクティブディレクター
韓国延世大学校卒業、慶應義塾大学MBA及び中国长江商学院MBA修了。延世大学在学中には、University of Pennsylvania, Wharton Schoolへの留学経験も持つ。
アクセンチュア東京オフィスを経て、Legend Capitalに参加。Legend CapitalではExecutive DirectorとしてEコマース、インターネットサービス、モバイルアプリケーション、コンシューマーサービス分野での投資を積極的に行う。韓国語、日本語、中国語、英語に堪能。
Legend Capitalは、レノボを含むLegendグループ傘下の中国大手投資ファンドで、ファンド総額は50億米ドルを超える。特にインターネット・モバイル・コンテンツ分野および消費財分野に強みを持ち、350社以上への投資実績がある。日系大手企業のLPも多数。

筆者:ドリームインキュベータ