<英総選挙で与党・保守党が予想外の大敗を喫してしまったために、足元を見られてEUの言いなり>

イギリスの欧州連合(EU)離脱交渉は、首脳級の政治的駆け引きが要求される場になるだろう。だが、ブレグジット(EU離脱)に向けた交渉の初日は、イギリスにとって不幸なものだった。

EU離脱担当相デービッド・デービスは、まずは通商関係に関する協議を優先させ、イギリスがEUを去るにあたっての政治的、経済的条件を定めたいわゆる離脱請求書(Brexit bill)に関する議論は後回しにしたいと考えていた。

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だが実際は反対だった。EUの首席交渉官を務めるミシェル・バルニエは、イギリスが第一に進めるべきはEU離脱の手続きであり、両者の離脱後の関係についての条件整備はそのあとになるとの方針を示した。

まずはEUという巨大市場へのアクセスを確保しようというイギリス政府の思惑は外れた。あくまで離脱ありきで、イギリスにおけるEU加盟国市民の権利、そしてEU加盟国におけるイギリス国民の権利について最初に数カ月を費やさなければならなくなる。

デービスは、少なくとも交渉の初期段階では、いわゆる「ソフト・ブレグジット」(移民受け入れである程度EUの言うことを聞く代わり、EU市場へのアクセスを維持する穏健な離脱)路線を取るつもりはないことを辛うじて明言した。

カナダ方式もあるが

イギリスは、EUの共同市場を離脱して域内で国境をまたいで移動する自由を外国人から奪う一方、EU市場と内国待遇で貿易する特権はこれまで通り確保したいという考えだ。

この条件は、現在カナダがEUと結んでいる協定に最も近い。カナダは、EU加盟国市民に対して「国境を越えた移動の自由」を与えているわけでも、EUに対して分担金を支払っているわけでもないが、EUという巨大な経済圏との間で自由貿易協定を締結し、その恩恵を得ている。

だが、EUとカナダの貿易協定は、交渉開始から締結までに8年を要した。

しかもイギリスは、少し前までは考えもしなかった逆風のさなかにある。政権基盤を強化した上でEU離脱交渉に臨もうと考えたテリーザ・メイ英首相は、抜き打ちの総選挙に打って出た。しかし6月8日に行った総選挙では予想外の大敗を喫し、与党・保守党は選挙前の単独過半数も失った。

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デービッド・フランシス