最終回「あなたのことはそれほど」美都が徹底バカだったから、涼太は壊れたし救われもした

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「あなたのことはそれほど」最終回。


麗華が許した理由


涼太(東出昌大)の予想通り、不倫こそしたが有島(鈴木伸之)は普通に良い人だ。同性からも異性からもモテて、誰からも嫌われもせず、おそらくそれなりに良い大学に行って、良い会社に勤めている。きっとスポーツも出来るはず。地味で真面目な麗華(仲里依紗)とは正反対の人生を歩んできた。

だから素直なのだろう。なんでもある程度は思い通りになるから、不倫も素直に謝っちゃうし、朝晩往復3時間、一日計6時間かけて娘に会いにくる。麗華に愛してるとか言って4回もビンタされちゃう。それでもめげずに会いに行く。会いに行って、初めてキスしたシチュエーションを真似て突然キスしてみる。こうしてやっと麗華に許しを得た。

これは一体どういうことなんだろう? なんで急に麗華は許したのだろう?

麗華は、有島に謝ってほしかったわけでも、良いパパでいてほしかった訳でもなかったかもしれない。謝るという事は、美都(波瑠)との不倫が楽しかったと認めることになる。良いパパでいることは、家族が一番大事だという事になる。麗華は、単純に自分といるのが一番幸せという事を示して欲しかっただけだった。

そういえば、過去に有島が二人きりのデートに誘った時、麗華はすごく嬉しそうだった。正しすぎる理論武装をする麗華は、本当は自分を一番大切にしてくれたら不倫ぐらいどうって事ないピュアな女の子だったのかもしれない。そう考えると、麗華も美都とそんなに変わらない。

最後まで短絡的な美都


「涼ちゃんが死んじゃったら私耐えられない。そんなに涼ちゃんが私を思ってくれるのなら、私もう一度……」

涼太が自殺してしまうと思い込んだ美都は復縁を持ち掛けた。呆れるほど、短絡的な思考の持ち主だ。

「みっちゃんらしい。それは同情でしょう? 好きとは違う。ぜーんぶ自分の為だ。これ以上ないくらいみっちゃんらしい。君は、自分を肯定することにかけては天才的だね」

「君と同じように、僕にも気持ちがあるんだよ。そして今、僕の気持ちはみっちゃんのことはそれほど」

視聴者の溜め込んでいたストレスを吐き出させるきつい涼太のセリフ。スーっとした人も多いと思う。

しかし、何も憎くて言った訳ではない。涼太は最後に美都を突き放すことで、前を向くためにこのセリフを言ったのだ。指輪を投げるきっかけができたのは、美都が最後まで短絡的な思考でいてくれたおかげだ。あの同情がなかったら、いつまでも美都に粘着していただろう。

美都は有島のことも涼太のことも、それほどだと、やっと気付かされる。自分が一番大事で、自分の為に恋愛していたという事に涼太に最後に教わった。一年後、おかげで美都は料理、観葉植物、お気に入りのカーテン。自分を大切にする事が出来るようになった。

そんな美都の目標は「人の幸せを喜べるようになれること」だ。やはり美都は、香子(大政絢)と院長(橋本じゅん)の結婚を素直に喜べていなそう。涼太とその恋人(美都がそう勘違いしているだけ)の姿を見ても喜べていない。だが、少なくとも、嫉妬しているようには見えなかった。今の自分に満足しているからだ。

小田原(山崎育三郎)にも触れておきたい。涼太と一緒に楽しそうに笑う最後のシーン。前話で言っていた「人の気持ちを一生欲しがるなんてどんだけ欲張りなんだよ!」というセリフが表すように、いつまで続くかわからない時間を大切にしているようだった。今度は、涼太に新しい恋人が出来ても幸せを願う事が出来るはずだ。

不倫していても、されていても、バカでも、真面目でも、×3でも、恋愛のハードルが高い同性愛者でも、すべての立場の人間が自分を受け入れれば生きていける。不倫ドラマには珍しく、わかりやすいハッピーエンドだった。

(沢野奈津夫)