<協定撤廃をにおわせるトランプ政権のせいでアメリカとメキシコの貿易関係に赤信号が。ビール原料を輸出する米農家も不安でいっぱい>

ライムを搾って飲むコロナビールは最高にメキシカン......と思われるだろうが、実はそうでもないらしい。

メキシコ産ビールの主成分(ホップと大麦)は主としてアメリカから輸入されている。そして喉ごしのよいコロナやドスエキスなどのビールに変身してアメリカに戻り、スーパーの棚に並ぶ。ちなみにビールはメキシコの農産品関連の対米輸出量で上位の品目だ。

だがそんな両国のウィンウィンの関係は、NAFTA(北米自由貿易協定)に垂れ込める暗雲と共に危うくなっている。

トランプ政権のメキシコに対する厳しい姿勢が、両国の長年にわたる貿易関係を崩壊させるというだけではない。アメリカがほぼ独占してきた隣国の市場をカナダやヨーロッパの農家に奪われかねないと、アメリカの農家は懸念している。

「最大の貿易相手国を怒らせたら、どんな仕返しをされるか分からない」と、アイダホ州ソーダスプリングスの大麦生産者スコット・ブラウンは言う。

ブラウンの広大な農場は高地にあるから、作物の育つ期間が限られる。だから大麦が売れなくなっても、代わりに作れるのは小麦だけ。しかし転作にはコストがかかる。「ここは大麦地帯だ。ほかのものはうまく育たない」と彼は言う。

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昨年、アメリカ産農産物の対メキシコ輸出額は180億ドル近くに達した。メキシコはアメリカの農業全体にとって重要な市場だが、とりわけビール用の麦芽やホップ生産者にとっては最高のお得意様。メキシコはアメリカ産大麦の最大の輸入国であり、ホップについても(米国内市場に次ぐ)第2位の市場だ。

米農務省によると、昨年メキシコが輸入した大麦と麦芽約2億6500万ドル、ホップ3700万ドルのうち、4分の3近くがアメリカ産だった。

それもこれも、NAFTAのおかげで関税がゼロになっているからだ。NAFTAの下では「アイダホ州の大麦農家は(アメリカを代表するビール生産地の)ミルウォーキーに出荷するときと同じように(メキシコの)モンテレイに輸出できる」と言うのは、米穀物協会メキシコ事務所のマーケティング担当者ハビエル・チャベス。一方で欧州産の大麦の場合は「メキシコの政治家が国内農家の保護に必要と判断すれば、いつでも輸入制限や関税をかけられる」。

しかし今、両国の関係は危うい。カナダ、メキシコ、アメリカは8月にNAFTAの再交渉を開始する。アメリカが自国に有利な協定変更をごり押しすれば、メキシコも大麦やホップなどへの報復関税で対抗するだろう。米農家はそれを恐れている。

[2017.6.20号掲載]

ジェシカ・ホルツァー