金正恩氏

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治安維持を名目に強権を振りかざし、庶民に横暴の限りを尽くしている北朝鮮の秘密警察が4人の女性をスパイ容疑で逮捕したという。しかし、現地情報筋によると、女性たちはワナにはめられたようだ。

女子大生を拷問

情報筋によると、咸鏡北道(ハムギョンブクト)会寧(フェリョン)市の保衛局反探処(スパイ担当部署)は、今月5日から10日にかけて、30〜40代の女性4人を次々に逮捕した。容疑は中国キャリアの携帯電話を使って韓国と連絡を取り、スパイ活動を行っていたというものだ。

金正恩党委員長が昨年春に出した「中国の携帯電話を使うやつらは、南朝鮮(韓国)のかいらいと結託した反逆者として処理せよ」という指示によるものと見られる。

一方、韓国の北朝鮮専門ニュースサイト、ニューフォーカスによると、こうした違法通話の摘発件数は最近になって大幅に減少しているという。

その背景には、人々が電話ではなくカカオトークやLINEなどのメッセンジャーアプリを使うようになったことがある。もちろん、北朝鮮当局もこうした動向を警戒して「LINEやカカオトークを使う者はスパイとして取り締まれ」との方針を打ち出していたが、効果は上がっていないようだ。

情報筋によると、女性たちは実際にはスパイではなく「送金ブローカーだった」という。送金ブローカーは秘密警察にとっても金づるである。奇妙なことに、保衛局もそれを知ったうえで逮捕したというのだ。

ブローカーたちは、韓国に住む脱北者が、北朝鮮に残してきた家族に送金するのを仲介する。米国務省の2014年の報告書によると、脱北者が北朝鮮の家族に送金する額は、少なくとも年間1000万ドル(約11億1000万円)になる。また、送金手数料は送金額の20〜30%(韓国の北韓人権情報センター調べ)と非常に高額だ。

送金ブローカーの正確な数などは把握されていないが、手数料だけでも200万ドル(約2億2200円)以上の現金が彼らの元に転がり込む。イリーガルな取り引きであるため、強力な取り締まりの権限を持つ保衛局の金づるとなりやすい。

ブローカーも保衛局との良好な関係を維持するため、定期的にワイロを支払う。しかし、なかには支払いを渋ったり、拒んだりする者もいる。保衛局は、そういうブローカーを見せしめとして痛めつける。今回の逮捕された女性たちも見せしめだった可能性がある。さらに、スパイ扱いすることで、成果を誇張できるメリットもあるというわけだ。

極めて卑劣なやり方だが、韓流ビデオのファイルを保有していたという容疑だけで女子大生に過酷な拷問を加える北朝鮮の治安当局ならやりかねない。

(参考記事:北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは…

なによりも、保衛員もワイロの取り立てに必死だ。彼らも、上層部へ上納金を収めなければならない。それができなければどのような処罰を受けるかわからず、強引で非人道的な手法でカネをむしり取るというわけだ。

また、先述の金正恩氏の指示が、各地方の保衛局にとって大きな「ビジネスチャンス」となっている側面がある。治安当局は、容疑者を逮捕し、取り調べで「すぐにでも管理所(政治犯収容所)送りにしてやる」と脅迫した上で、しばらくすると「穏便に済まそう」と持ちかけ、ワイロを要求する。なんでもカネにしようとする治安当局に対して情報筋は次のように語った。

「幹部たちは、指示が下ればすぐに金儲けのことを考える。金正恩氏への忠誠心など全くない。国家保衛省のトップだった金元弘(キム・ウォノン)氏の更迭以降、彼らの権限は縮小されたが、言いがかりを付けてカネをだまし取る手法は相変わらずだ」