2017年、東京での“当たり前”な出会い方。

それはお食事会でも“友人の紹介”でもなく、デーティングアプリだ。

しかしオンライン上での出会いに、抵抗感を示す人は未だ少なくない。今まで難なく自分の生活圏内で恋人を探してきた男女なら、尚更のことだ。

商社で秘書として働く、桃香(30)もその内の一人。

―デーティングアプリって流行っているみたいだけど、私には必要ないわ。

そう思っていたある日のこと、友人・亜美にデーティングアプリで彼氏ができたことが発覚。しかも会社の憧れの先輩・奈緒が「東カレデート」の記事に「いいね!」をしているのを発見する。

気になった桃香は、早速「東カレデート」をダウンロードした。




「東カレデート」の入会には、審査がある。

異性の既存会員の過半数の承認が得られれば、入会できるのだ。

―この私が、落ちるわけないわ。こんなの楽勝よね。

心の中ではそう思いながらも、プロフィール写真を選ぶのにはかなりの時間を費やした。iPhoneのカメラロールをスクロールさせ、自分の美しさが最大限に分かるものを探す。

イメージはやはり、「清楚な秘書」と、一発で分かるものだ。水着ではしゃしいでいる姿やペットと一緒に写っている写真は、あざとい感じがして桃香的にはNGだ。

できることなら会社に行く恰好で撮った写真がいいが、大人数での飲み会の写真しかない。

―そう言えば、『フレンチキッチン』でランチを食べたとき、ケンが撮ってくれた写真、すごく可愛く撮れてたわ。

桃香は早速、過去のLINEをかなり遡り、元彼・ケンとのLINEにあるアルバムを見返した。

その写真は外のテラスで撮ったので、自然光でとても綺麗に撮れている。お気に入りのChestyの花柄ワンピースに、ゆるりとハーフアップにまとめた髪。ケンと一緒だったので、いつもより女性らしい笑顔を浮かべている。

それは、桃香が目指すところの「ゆるふわ系美女」そのものだ。

多くの写真を見返したが、ケンに撮ってもらった写真が、結局一番可愛く撮れている。少し甘えたような顔をしているので、デート中だと分かってしまうだろうか。

「まぁ、考え過ぎよねっ!!」

それをプロフィール写真にし、あとは簡単な自己紹介文を入れて審査を待った。


自信満々な桃香。審査の結果はいかに!?




24時間後、審査は無事通過していたことが分かった。

しかし問題はここからだ。果たして、いい男性と出会えるのだろうか。

「……さてと。どんな男性がいるのかしら」

桃香は男性たちのプロフィールを確認した。

「ふぅん。悪くないじゃない」

プロフィールを見ると、外見も良く、年収1,000万を優に超える男性たちがずらりと並んでいる。職業も医者や経営者などが多い。

その男性たちを見て、桃香の心は浮き足だつ。自分と釣り合うハイスペックな独身男性は、出会っていないだけで、まだこんなにたくさんいるのだ。

正直、デーティングアプリに登録している男性というものに、あまり期待していなかった。この間の食事会にいた黒ぶち眼鏡の会計士・明夫のような垢抜けない男性ばかりなのではないか、と思っていたのだ。

男性たちのプロフィールを次々とチェックしていたら、時刻は25時を回っていた。いつの間にか2時間ほど、アプリに没頭していたようだ。

「いいね」をした男性とマッチすれば達成感があり、逆に成立しないと落ち込む。ちょっとしたゲームのような感覚だった。


空前のモテ期到来?翌朝携帯を開くと、驚きの数の「いいね」!


翌朝、起きると「東カレデート」からたくさんのプッシュ通知が来ていた。アプリを開くと、そこには58の「いいね」と、5通のメッセージ、4本のバラが届いている。

「……ふふ。一晩で、こんなにたくさん来るのね」

ベッドの中で目をこすりながらそれを確認し、起き上がる。時間がないので、細かいところは、電車の中で見よう。そう思い、鼻歌を歌いながら会社に行く支度にとりかかった。



通勤途中、桃香はアプリを見返した。メッセージを読んでいると、「SHU」と名乗る男性からのものが目を引いた。メッセージの内容から、「秀一」が本名のようだ。




―モモさん、初めまして。秀一といいます。プロフィール画像を拝見しましたが、とても綺麗な方で、是非一度お話してみたいと思いました。まずは、メッセージ交換からしていただけないでしょうか?

「綺麗な方」という一言に思わずほくそ笑む。「綺麗」や「可愛い」は、何度言われても嬉しい言葉だ。桃香は早速、秀一のプロフィールを確認した。

SHUと申します。

外資系投資銀行に勤務しており、
昨年までバンコクに駐在しておりました。
海外にいた関係で、彼女を作る時間がなく、こちらに帰って来て真剣にお付き合いできる人と出会いたい、と思い登録しました。

趣味はフットサルで、出身地は秋田です。現在は都内に住んでおります。

まずはメッセージ交換からさせていただければと思います。

よろしくお願いします!


文面からは、誠実そうな人柄が見受けられる。

最後の“よろしくお願いします!”の「!」が少し砕けた感じで、顔文字を多用しないところもバランスが良く、好印象だ。

秀一のプロフィール写真は3枚ほど登録されており、駐在先のバンコクで撮ったと思われるものや、バーベキューの写真、ドライブをしている写真。どれも自然な笑顔で、友人も多そうだ。

桃香も、早速メッセージを返した。


早速、いい人が現れてウキウキの桃香。このままデーティングアプリへの抵抗は払拭されるのか!?



秀一とのメッセージは、レスポンスが早すぎず遅すぎず、スピードがちょうど良かった。LINEと違ってすぐに返信できないし、かと言って長々と送るのも野暮な感じがする。

お互い、4、5行の会話を朝と夜、3〜4往復するのが日常となった。その間、他の男性からも連絡はあったが、返信はしなかった。

「こんにちは!○○といいます」と1行だけで送ってきたり、長々と自分語りしてきたり。あまり心惹かれるメッセージがなかったのだ。

―まぁ、私くらいのレベルになると、すぐにいい人が見つかっちゃうのよね。

秀一と規則正しいメッセージのやりとりを始めて、5日目。ついに、「食事でもどうですか?」と誘われた。

そのメッセージに桃香の心は躍ったが、心の奥底に「デーティングアプリで出会った人と食事する」ことへの抵抗感が、まだ残っていた。

―メッセージのやり取りはとっても素敵だったけど、どうなのかしら……。



結局、秀一のそのメールには返せないまま3日が経ってしまっていた。

やきもきした週末を迎えようとしていると、ちょうど亜美から連絡があり、『RH Cafe』で、会うことになった。




今日は初夏を思わせる心地よい暑さだ。

2人は、辺り一面に緑が望めるウッドデッキのテラスに座った。いつも通り桃香はグリーンスムージー、亜美はアイスカフェラテを頼む。

「亜美、彼とはどうなの??」

トレードマークのショートボブを伸ばしている最中なのか、亜美はいつもより女性らしく見えた。どちらかというとシンプルな服を好む亜美が、今日は可愛らしいレモンイエローのノースリーブのニットに、白いタイトスカートを合わせている。

「順調だよ♡彼の勤める弁護士事務所ってすごく忙しいんだけど、週末は必ずデートしてる」

亜美は多くを語らなかったが、はにかんだように笑う表情を見て、うまくいっているらしいことは一目瞭然だった。

「桃香は、どうなの?いい出会いあった?」

アイスカフェラテのストローを回しながら、亜美が聞いてきた。

「…実は少しいい感じの人がいるのよ。今度食事に誘われてるわ」
「えー、いいじゃん、いいじゃん!どこで知り合ったの?」

無邪気に笑う亜美の質問に、桃香は一瞬固まった。

「……しょ、紹介よ。友達の」
「へぇ。さすが桃香だね」

本当のことが言えず、思わず嘘をついてしまった。声が少し裏返ったように感じたが、幸いにも亜美は何も気づいていないようだ。

「そう言えば、ケン君ってさ、CAの彼女ができたんでしょ?」
「……えっ?」

桃香が驚いて目を見開くと、亜美は慌てて付け加えた。

「ごめん、桃香。知らなかったのね。この間、ケン君の友だちと会ったときに聞いたの」
「……そうなの」

1年前に別れたのだから、ケンに恋人ができるのも当然だろう。しかし相手はCAということが、少しショックだった。桃香の会社の商社マンたちにも、CAは未だ根強い人気がある。ケンもそこになびいたのかと思うと、とても悔しい気持ちになったのだ。

その後すっかり意気消沈してしまって、亜美との会話がほとんど耳に入ってこなかった。



これからデートだという亜美と別れ、桃香は一人ミッドタウンガーデンをぶらついた。「東カレデート」のアプリを開き、秀一にメッセージを送る。

―秀一さん、返信遅くなってごめんなさい。お食事、是非行きましょう。

結局、古い恋の傷を癒すのは、新しい恋しかないのだ。

▶NEXT:6月28日水曜日更新
桃香、ついに秀一との食事。2人はうまくいくのか!?

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