41歳の億万長者、前澤友作氏(2017年5月27日提供)。(c)AFP=時事/AFPBB News

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【AFP=時事】実業家の前澤友作氏(Yusaku Maezawa)は、米国人美術作家ジャンミシェル・バスキア(Jean-Michel Basquiat)の傑作を1億1050万ドル(約123億円)で落札したことをインスタグラム(Instagram)の投稿で発表した。この投稿で前澤氏は、オークションの歴史だけでなく、日本のアートにおいても新しい時代の幕開けを示した。

 バスキア作品の過去最高額での落札は、80年代の日本を思い出させる。当時、企業が資産買入として、海外の土地やビジネスのほかに、印象派の絵画に大盤振る舞いした。しかし億万長者の前澤氏は、その並外れた資産にもかかわらず「僕は一コレクターに過ぎない」と主張する。今回の落札は、自身の愛と本能に駆りたてられたもので、美術アドバイザーからの指図からではないという。「美しいと思ったから買う、それだけです。名作と呼ばれるものの歴史やストーリーも作品の一部として楽しんでいますが、名作を所有すること自体は購入の目的にはなりません」とAFPの取材に答えた。

 今回落札したのはキャンバスにオイルスティックとアクリル、スプレーペイントを使用し、頭蓋骨を思わせるイメージを描いた、ジャンミシェル・バスキアの1982年の無題作品。前澤氏はこれを隠しておくのではなく、世界中のギャラリーに貸し出す予定だ。ニューヨークで開催されたオークションのあと、「この作品が僕に喜びを与えたのと同じように、人々にも喜びをもたらしてほしい。また21歳のバスキアが手がけたこの傑作が、若い世代をインスパイアしてくれたら」と語った。

■前澤こそが現代のパトロン

 41歳の前澤氏のこのスタイルは、絵画を投資の道具として、あるいは社会的地位を強固にするために所有する日本の従来のアートコレクターのイメージに変化をもたらす。かつて「大昭和製紙(Nippon Paper Group)」の名誉会長だった齊藤了英氏(Ryoei Saito)は、1990年に画家ビンセント・ファン・ゴッホ(Vincent van Gogh)による「医師ガシェの肖像(Bal du Moulin de la Galette)」を当時の最高値である8250万ドル(当時、約183億3000万円)で落札。またピエール・オーギュスト・ルノワール(Pierre-Auguste Renoir)による「ムーラン・ド・ラ・ギャレット(Bal du Moulin de la Galette)」を7810万ドル(当時、約80億円)で落札した。死んだら棺桶に一緒に入れて焼いてほしい、と言ってひんしゅくを買ったのは有名だが、これは後に撤回された。

「シンワアートオークション(Shinwa Art Auction)」の羽佐田信治氏(Shinji Hasada)は1980〜1990年代の好景気時代について「バブルのとき、多くの日本人が投資目的として絵画を買い集めました」と語る。関税の数字を見ても、1985年に輸入されたアート作品は2億4600万ドル(約273億4200万円)だったものが1990年には34億ドル(約3779億1000万円)へと急騰している。だが、バブル時代に購入された名画は、日本の経済が破たんした途端に投げ売りされた。今の日本のアートコレクションのマーケットは、当時のピークの約20分の1に縮小したと羽佐田氏は説明する。

 コレクターの一人である出版会社「ベネッセ(Benesse)」の福武總一郎氏(Soichiro Fukutake)前社長は、離島をアートパラダイスへと変えるのに一役買い、多くの関心を集めた。前澤氏もこの分野に新しい活気を引き込めるのではないかと、羽佐田氏は考える。「いつの時代もパトロンが存在し、アート界を支えてきました。その意味で前澤さんは現れるべきして現れた現代のパトロンといえるでしょう」

 10代の頃はロックスターを目指し、レコードを通販で、そしてオンライン販売へと移行した前澤氏。1998年に創設した「スタートトゥデイ(Start Today)」は、今や日本一の規模を誇るオンラインファッションサイト「ゾゾタウン(ZOZOTOWN)」を経営する会社となっている。米経済誌「フォーブス(Forbes)」によると、前澤氏の財産、35億ドル(約3892億円)は、日本の長者番付で11位だという。

■若いアーティストたちの擁護者

 バスキアの絵画を購入したことを世界に宣言した彼のインスタグラムでは、自家用機やヨット、高級ウオッチ、そして彼の愛するアートなど、贅沢な暮らしぶりを垣間見ることができる。従来のアートコレクターのほとんどはもっと秘密主義であり、このたび落札された無題作品は何十年もの間、公の場で見られることがなかった。だが彼は情熱をもって、若い世代を含む73,000人のフォロワーと関わることを望んでいる。

「(インスタグラムは)情報伝達、情報共有の面で現代美術を広める一助にはなっていると思います」と前澤氏は言う。そして新たな才能を発掘し、作品を購入するためのツールとしてもソーシャルメディアを利用している。東京では、才能あふれるアーティストに恩恵をもたらす現代アート財団を設立し、ついに彼らの擁護者となった。

 同財団の審査員特別賞を受賞した27歳の現代アーティスト、井田幸昌氏(Yukimasa Ida)は前澤氏の存在を、グローバルな美術界に挑戦する有望な日本人アーティストたちの「表看板」と評する。「前澤さんは、勇気づけられる収集家。若手アーティストを育てて影響をあたる意味において、これまで日本では存在しなかったような存在です」

 前澤氏は有望なアーティストたちを多くの観衆に紹介したいと語る。「僕の作品を買ったり、財団の活動を展開したり、将来美術館をつくることで結果的に、まだ機会に恵まれていない若手のいい作品がもっと世に出たり、僕が作品に出会って得たような感動をみなさんと共有できたら嬉しいです」

 次の計画は千葉県に美術館をオープンさせることだ。展示される前澤のコレクションにはパブロ・ピカソ(Pablo Picasso)やロイ・リキテンスタイン(Roy Lichtenstein)、アンディ・ウォーホル(Andy Warhol)、ジェフ・クーンズ(Jeff Koons)の作品も含まれる。さらに昨年5730万ドル(約63億6600万円)で落札されたバスキアによる角のある悪魔の絵画も陳列される。だが米国人美術作家のオークションで史上最高値をつけた無題作品については、世界中のギャラリーを巡回する予定だ。「僕は30年以上も公の場から遠ざかっていたこの作品を、世界中の施設や展覧会に貸し出したい」と前澤氏は語った。
【翻訳編集】AFPBB News