連続ドラマ「あなたのことはそれほど」9話(TBS系)。

メインの4人のうち、一番一般的な倫理観を持っているのは、間違いなく麗華(仲里依紗)だ。美都(波瑠)は不倫に対して罪悪感さえ感じられないし、有島(鈴木伸之)は家庭第一のくせに浮気を繰り返してしまうチャラ男。涼太(東出昌大)も一途ではあるが、執着心が強すぎてヤバイ奴になってしまっている。

第9話は、普段脇役の小田原(山崎育三郎)、皆実(中川翔子)、香子(大政絢)に焦点が絞られていた。3人はそれぞれ印象的なセリフを残しているのだが、麗華の不倫観が多数派だとしたら、3人は少数派の意見をそれぞれ代弁しているように見えた。


小田原の言い分


「俺なんてどんだけ正しく生きていても報われない。人の気持ちを一生欲しがるなんてどんだけ欲張りなんだよ!二人とも欲張りすぎて腹が立つんだよ!」

小田原は涼太の事が好きだった。報われない恋愛をする同性愛者が、異性愛者である涼太と美都に向かって言った言葉だ。

ある意味で不倫肯定発言のわけだが、そこにはひとときでも一緒になれる事の幸せを噛み締めろというメッセージが込められている。一生同じ幸せが続くと考えている事自体がエゴだというメッセージが込められている。

美都がいくら不倫していたとはいえ、二人がちゃんと幸せなら、小田原は離婚なんて勧めなかったのかもしれない。

皆実の言い分


「浮気されてるくせに正論吐いてバカみたい!私が愚痴ると(麗華)は、学級委員みたいに当たり前のこと偉そうに!旦那と話し合えなんてわかってる!でも、自分と嫌々結婚した人と話し合うのが怖いの!」

美都を中傷するビラをバラ撒いていたのは、皆実だった。麗華の為にやったと思い込もうとしていたが、しかしそれは自分の為。正義を振りかざして美都に制裁を加える事に快感を覚えていた。そこを麗華につかれ、飛び出た本音がこれだった。

皆実は、自分の旦那が浮気していると思っているのではないだろうか? だが、自己評価が低いので人と本音で話し合うことを避けてしまう。何かが明らかになるのが怖い。変化するのが怖い。現状維持を選んでしまい、少しずつ精神が削られていく。不倫否定派だが、そんなものは見て見ぬ振りをして、幸せに暮らしたい。でも、どういう状況が幸せかすらわからない。怖くて何も出来ないのだ。

麗華はいつでも正しい発言をする。しかし、正し過ぎる発言は、正しい行動が出来なかった弱者を傷つける。皆実はそんな麗華に、正しい行動を取れない弱者の辛さを訴えたかった。もし麗華が皆実の気持ちを少しでも理解出来ていたのなら、もう少し有島の言い訳を聞いていたかもしれない。

香子の言い分


「どこかで(美都を)羨ましいって思ってたのかも。間違った恋愛に突っ走るなんて、思いっきり人間してるなーって。だから説教していた。自分が絶対的な立場からする説教は気持ちいい。でも、つまんないこと言ってるなって。だからってあんな辛い生き方したくないけど」

香子は麗華と同じく、このドラマで数少ない一般的な倫理観を持っていた。その正しい倫理観で、美都に正論を説いていた。しかし、結局は全て美都への嫉妬だったと、院長(橋本じゅん)にこのセリフ打ち明けた。

不倫ドラマど真ん中のセリフだ。人を傷つけるから、世間のルールだから不倫はしない。でも、それだけじゃつまらない。上手く生きるのと、楽しく生きるのを両立するのは難しい。不倫反対派の香子が、不倫をしてしまった人間に少しだけ寄り添う事が出来たという証拠のセリフだ。もっとも、不倫をされていない人間だから言えたともいえるが。

妊娠も疑惑で終わってしまった美都は、今、全てを失い一人でボロアパートに住んでいる。最終回、犯した罪をどう反省し、どう今後に生かしていくのか。今まで不倫に対する思考を停止させていた美都だけに、最後くらいは見せて欲しい。最後くらいは主人公らしくバシっと決めてほしい。

(沢野奈津夫)