なぜ「忖度」はチームの能率を下げるのか

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話題になった「忖度」という言葉。この言葉をめぐるトラブルは、私たちの職場でも起きている。組織コンサルティングを手がける識学の講師・冨樫篤史氏は「忖度は組織の生産性を下げてしまう」という。それはなぜのか――。

■「自分で考えろ」と言いたくなるが……

なるべく早くやれ。整理整頓しろ。顧客に寄り添え……。

みなさんの組織内で、上司部下間でこんなコミュニケーションが繰り広げられているのではないだろうか。こうした指示は、いわゆる「忖度」というものだ。『広辞苑』(第6版)には「他人の心中をおしはかること。推察」と書かれている。

上司からすれば、忖度の度合いによって、“できる部下”“できない部下”という評価を下すこともあるだろう。少ない指示でも、自分の言いたいことを推察し、スムーズに動いてくれる。そうした部下は、確かに使い勝手がいいだろう。何度も確認してくる部下に対して、“自分で考えろ”と言いたくなる気持ちもわからなくもない。

また、部下からすると、「上司に何度も確認するよりスムーズに理解しているという印象を与えるほうが良い」「もし、理解がずれていれば、気付いた時に指摘してくれるから、そのときにやり直せばいい」と、忖度しながら業務を進めることもあるだろう。

確かに、その瞬間は、「わかりました」と反応したほうが、気持ちもいいし、相手にも安心感を与えることができる。

しかし、こうした 「忖度」は集団のパフォーマンスを低下させる恐れがある。今回は「忖度」が引き起こす問題とその回避策を提起したい。

■「忖度」が生産性低下を招く

「忖度」によって、相手の心中をおしはかることにはリスクがともなう。おしはかるとは、あくまでも推察の領域。上司と部下では、業務における経験・知識等が異なるため、上司のイメージと部下が推察する内容にはズレが生じる恐れがある。

部下は、上司の指示内容について「○○だろう」「○○かな」とおしはかって動いた結果、「そういうことじゃないよ」と上司に言われる。

これに対し、部下は「自分は、○○だと思っていました……」と言い訳をするが、上司からすると、「あいつは全然わかっていないな」となる――。

■3種類のロスタイム

このような事象は、大きく3種類のロスタイムを発生させている。

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(1)上記のような会話を行っている時間
部下からすると自分が忖度した内容を説明することで自身の判断を一部でも認めてくれるのではないか、という気持ちになる。しかしながら、部下が行動した理由がどうであっても、内容がズレていれば、正当化されることはない。

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(2)業務・作業を行っている時間
できあがりを見てから内容のズレを認識するため、その作業のために消費した正味活動時間はそっくりそのままロスタイムとなる。

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(3)さらに忖度する時間
「そういうことじゃないよ」と言われた部下は「指示があいまいなんだよな」という気持ちを消化し、さらに忖度するため、不必要な思考時間を浪費することになる。指示内容から意図を想像し、自分なりのゴールを設定し、迷いながら業務を進めることになる。

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これでは、生産性の低下は明らかだ。内容のズレを正しく認識できていなければ、いつまでも前に進むことはないといえる。

■「わかってるだろう」を生む組織体質

ちなみに、忖度の横行で生産性が低い組織には、以下の特徴がみられる。

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人材の流動性が低く、社員同士の付き合いが長い
→ゆえにあいまいで大丈夫というムラ社会組織

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上司に「おしはかるのも能力」という感覚がある
→相互認識のズレは一方的に部下の責任だという意識

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「ツーカー」であるほうが効率的という誤解
→むしろ少ない情報量で相互理解できる状態を目指している

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所属組織がこのような体質、価値観になっていないか、確認してもらいたい。

■回避策は「指示の明確化」

「忖度」が発生するそもそもの起点は、上司のあいまいな指示である。上司の指示があいまいだから、部下はおしはかって進める必要がでてくる。

つまり、回避策は「指示の明確化」ということになる。「指示の明確化」とは、解釈の入る余地を最小化し、共通認識をつくることだ。この際に注意すべき点は、以下のふたつの例を比べてみるとわかりやすい。

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A:きちんとイスを整頓しなさい。
B:離席時はイスをデスクにしまいなさい。

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A:グローバル人材を育成せよ
B:海外勤務経験が半年以上で、TOIECのスコアが800点以上のメンバーを10名輩出せよ

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言うまでもなく、Bのほうが明確であり、認識のズレが生じる余地はない。

ここでのポイントは、ある期限(もしくは行うタイミング)と状態で、求める内容を明確に指示できているかどうか、である。

求める内容が明確な指示は、部下が忖度する時間をつくらないため、不必要な思考時間も発生しない。さらには、自分勝手な判断や思い込みで仕事を行うこともなくなる。

■部下が認識できるレベルにする

ここで注意してほしいのは、「明確な指示」とは、一挙手一投足のやり方を細かく指示することではない、ということだ。そのような指示を行うと、部下は指示通り行うことで立ち止まり、指示待ちになってしまう。

例えば、「営業先に電話をかけなさい」という指示では、部下は「電話する」という行為をゴールと認識してしまう恐れがある。そうなった場合、「電話をかけたのですが、不在でした」という状態であっても、「指示を完了した」という認識となり、そこで行動が止まってしまう。ここでは、「○○さんとのアポイントをセットしなさい」と指示すれば、求める状態が明確になるため、「アポイントをセットする」というゴールに向かって行動を継続させることができる。

もし、「明確な指示をしているのに、うまくいかない」という悩みを抱えている場合には、部下が認識できるレベルの表現になっているかどうかを確認してほしい。

上司と部下には経験量・知識量に差がある。たとえば「富士山の山頂へ48時間以内に来い」という指示は、明確だが、登山の未経験者にとっては難易度すらイメージできない。この点を留意せず、上司の経験や知識に基づいた表現で指示を出してしまうと、それは結局「曖昧な指示」になってしまう。

「何年この仕事やってんだよ」「わかるだろ?」といったマネジメントは、不要なロスタイムを生み、組織の生産性を下げる。組織の生産性を高めるためには、「忖度」をなくして、指示を明確にすることが重要だ。

■指示明確化のカギ

明確な指示とは、「忖度」の余地がないものだ。あいまいな指示では、自分勝手な判断や思い込みが発生してしまう。具体的は以下のような指示だ。

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▼自分勝手な判断や思い込みが発生しやすい指示の例
整理整頓しなさい、なるべく早く10キロ走れ、離職率を低下させろ
→「不明確な期限+状態」となっている

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▼自分勝手な判断や思い込みが発生しない指示の例
退社時机上ゼロ、10キロ60分で走れ、半年間の離職率を10%以下に下げろ
→「明確な期限+状態」となっている

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「普通は」「常識的には」など「わかるだろ?」というあいまいな感覚にもとづくやり方を変えるだけでも、組織内のコミュニケーションは円滑になる。その結果、ロスタイムは最小化され、生産性が向上するはずだ。ぜひ試してみてほしい。

(識学 大阪支店長、講師 冨樫 篤史)