まさに快勝。これほど気分のいい勝利は、そうそうあるものではないだろう。

 J1第15節、ジュビロ磐田は敵地・埼玉スタジアムへ乗り込み、浦和レッズを4-2で下した。先制後、一度は逆転されながら、再度試合をひっくり返しての痛快な逆転劇である。


逆転、ダメ押しゴールを決めたとジュビロの松浦拓弥(右)。左は川又堅碁「中村俊輔というエースをケガで失っていたので、浦和が2、3点差で勝てるという空気が流れていたかもしれない」

 磐田の名波浩監督がそう振り返ったように、試合前の評価で言えば、浦和有利の見方が大勢を占めていたに違いない。磐田のキャプテン、DF大井健太郎も「(客観的に)見ている人からすれば、浦和は格上の相手」だと認める。

 しかし、試合開始直後から主導権を握ったのは、劣勢が予想された磐田だった。

 じっくりとパスをつないで攻撃を組み立てたい浦和に対し、磐田は高い位置からプレスをかけ、浦和の攻撃を制圧。いい位置で奪ったボールをカウンターに結びつけると、それが防がれてもセカンドボールを拾い、連続攻撃につなげることもできていた。

 そして、試合を自分たちのリズムに持ち込んだあとは、ペース配分も考え、闇雲に前からボールを奪いにいくのではなく、リトリートして守備ブロックを整える時間を作る。そのうえ、いい流れの時間帯に首尾よく先制点を奪うこともできた(MF宮崎智彦のFKをFW川又堅碁がヘディングでつなぎ、最後は大井が頭で押し込んだ)のだから、試合は磐田の思いどおりに進んでいたと言ってもいい。名波監督が語る。

「立ち上がりから前がかりにアクションを起こし、コレクティブ(組織的)にやれた。スライド(横方向の移動)、縦ズレ(縦方向のマークの受け渡し)の連動もスムーズにできていた」

 1年前に時間を巻き戻せば、実は昨季J1ファーストステージ第2節でも、磐田は浦和に同じ埼玉スタジアムで2-1と勝利している。だが、このときの磐田は、ただただ我慢の守備を続けるしかなかった。当時の名波監督の言葉を借りれば、「高いラインを保ちつつ、飛び込まない。プレスバックやスライド、コンパクトなフィールドサイズを保って、90分戦っていこう」。ベタ引きでこそなかったが、積極的にプレスをかけることはなく、守備網に引っかかってくるボールをはね返すだけだった。

 ところが、今季の磐田の戦い方はまったく違っていた。昨季が「守備的な守備」だったとすれば、今季は「攻撃的な守備」。磐田の積極性が浦和を完全に飲み込んでいた。

 ただ、ほぼ完璧と言っていい内容で優勢に試合を進めていただけに、前半のうちに、それもセットプレー(CK)で同点に追いつかれたことは、あまりにもったいなく、痛恨だったに違いない。しかも、その後はハーフタイムを挟み、徐々に浦和へと試合の流れが移っていくなかで、56分には逆転ゴールを許した。

 せっかくこれほどの内容の試合ができていたのに……、嗚呼。スタンドにつめかけた磐田サポーターはもちろん、地元でテレビ観戦している人たちの嘆きまで聞こえてきそうな無情の試合展開だった。

 しかし、試合はまだ終わってはいなかった。

 苦しい試合をどうにかひっくり返したことで、浦和には少なからず油断が生じていたのだろう。そのままの勢いで攻め倒すというより、じっくりと相手をいなすようにボールをつなぐなかで、一瞬のスキが生まれた。

 68分、磐田は自陣ペナルティーエリア付近で起きた浦和のパスミス(ちょっとした呼吸のズレだった)に乗じ、前線へロングパスを蹴り出す。すると、果敢に飛び出した浦和のGK西川周作のクリアが走り込んできたMFアダイウトンに命中し、ボールは浦和ゴールへ向かって転々。これを自ら拾ったアダイウトンが難なくゴールに蹴り込み、同点に追いついたのである。

 そして、ギアを上げ直そうとするも落胆の色を隠せない浦和に対し、磐田は74分に決勝点を、80分にはダメ押し点を、いずれも交代出場のMF松浦拓弥が決め、再逆転。第15節終了時点でJ1トップの総得点35を誇る浦和との、息もつかせぬ打ち合いを見事に制した。

 前評判を覆す勝利を振り返り、名波監督は「大きなポイントが3つくらいあった」と語り、勝因を挙げる。

 ひとつ目は「前節、ガンバ大阪という素晴らしいチームに3-0で快勝し、自信を強く持てた」こと。ふたつ目は「(逆転されて)1-2になったあと、もう1点決められることなく、しぶとく粘り強く守れた」こと。そして3つ目が「(同点に追いついたあと)3点目、4点目(を取りにいく)の意識が強かった」ことだ。

 確かに、難敵・浦和を相手に腰が引けることなく積極的な戦い方を貫けたのは、前節の自信があったからだろう。そして、先に3点目を与えなかったことが、結果的に逆転勝ちにつながった。大井が振り返る。

「もちろん常に勝ちを目指しているが、アウェーで浦和(との試合)なら、引き分けでも悪くない結果。1点差なら何が起きるかわからないので、1-2のまま粘れたのが大きかった。アダ(アダイウトン)の同点ゴールは事故みたいな形だったが、ああいうこともあるから」

 殊勲の2ゴールを決めた松浦も、「(自分のゴールより)何よりチームとして勝てたことが一番」と言い、「ディフェンス陣が体を張ってくれたことが大きい。2点取られたあとも、何点か取られてもおかしくなかった」と語る。勝ち越しゴールを貪欲に求める意識が生まれたのも、2失点でどうにか踏みとどまれたからこそ、だ。

 とはいえ、スタンドの記者席から試合を見ていて、磐田の逆転勝利には、もうひとつ大きなポイントがあったように思う。

 それは、磐田が3-2と再逆転した直後のこと。リードした磐田は引いて守りを固めるのではなく、反撃を試みる浦和に対し、再び高い位置からプレスをかけ始めたのである。最終ラインからチームを支えた大井が語る。

「あそこで引いてしまうと、あの時間(残り時間20分ほど)でも、浦和にはやられてしまう。自分たちはカメ(のように閉じこもる形)になって守り切る力はない。それなら、サイドに追い出して前から(プレスに)いこうと、みんなで声をかけ合った」

 先制しながら、一度は逆転されていた磐田にしてみれば、「今度こそ、この1点を守らなければいけない」という守りの意識が生まれてもおかしくはなかった。もしも磐田が受け身に回っていれば、1点差の試合はどう転んでいたかわからなかっただろう。

 だが、磐田はそこで引くどころか、もう一歩前に出て、浦和にさらなる圧力を加えた。大井が続ける。

「(サイドでの高い位置からのプレスが効き)中央でワタル(浦和のDF遠藤航)がボールを持ったときに孤立してノッキングするようになったので、これはイケると思った。あれが4点目につながった」

 名波監督が「(1-1の同点にされた)前半終了間際のCKから、我々が68分に(2-2となる)同点ゴールを決めるまでは浦和の時間帯だった。その間に逆転されたことは反省しないといけない」と話すように、浦和に主導権を明け渡す時間帯は確かにあった。

 だが、90分間を通して見れば、磐田の試合だったと言っていい。「大きな努力をした結果。ハードワークして、勝利に値する試合ができた」(GKカミンスキー)ことは間違いない。同じ場所、同じ相手からの勝利でも、内容的に見て昨季とはその意味が大きく異なる。この1年での磐田の進歩を強く印象づけた。そんな勝ち点3だったのではないだろうか。

 これで、磐田は前節のガンバ戦に続き、2連勝。大井曰く、「去年からあまり連勝がなく、1個勝ってホッとしてしまうところがあった」というが、「この連勝は、自分たちがやっていることに間違いはないという自信につながる」。カミンスキーもまた、「ガンバ戦、レッズ戦と満足できる試合だったが、(次節の)FC東京戦はまた別の試合。難しいゲームになるだろうが、連勝につなげたい」と手応えを口にする。

 かつての黄金時代を彷彿させるように、昨季の年間勝ち点1位を相手に真っ向勝負で押し切った磐田。価値ある勝利をさらなる進歩への起爆剤にしたいところである。

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