浦和対鹿島戦で起きた森脇の不適切発言にも言及した。写真:茂木あきら(サッカーダイジェスト写真部)

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岩政大樹 鈴木さんは腸内フローラの解析事業を立ち上げて、去年は岡山まで説明に来てくれました。事業のほうは順調ですか?
 
鈴木啓太 今は割と研究ベースでやっていますが、これからもう少し掘り下げて成果を出していきたいなと。今の会社は、自分が現役次代に経験したコンディショニングのなかで大事だなと感じたことと、タイミングやいろんなものがマッチして始めました。
 いろんなエキスパートが集まっているからすごく楽しいですが、ベンチャーなのでヒリヒリもしています。ただ、この会社だけでなく、アスリートのためになることだったら、なんでもやっていきたいと思っているんです。
 
岩政 アスリートのためにできることはいろいろあると思いますが、今の段階で言える構想はありますか?
 
鈴木 サッカー界から少し離れて、いろいろなアスリートがいることに気付きました。僕たちがサポートしてるアスリートにも、すごくマイナーなスポーツに取り組んでいる人がいるんです。でも、その選手たちは自分のコンディショニングのために必死で考えているし、何か助けを求めている。それ見た時に、何らかの形で応援したいなと思いました。
 例えば、サポーター同士の交流ができないかなと考えています。サッカーを応援する1万人の1パーセントでもスケルトンに興味を持ったらすごいことになる。それに、アスリートの横のつながりを生かして、他のスポーツの凄さを紹介するのも面白いですね。そういった仕組みが作れたら、スポーツ界全体が盛り上がっていくと思います。
 
岩政 先月、大きな話題になった鹿島と浦和の試合がありました。森脇選手が不適切発言で2試合出場停止になった件です。あれはどう見ていましたか?
 
鈴木 デリケートなところに行きますね。誤解が生まれないように、ちゃんと編集をお願いしますよ(笑)。
 
岩政 しっかり編集しておきます(笑)。
 
鈴木 まず大前提として、森脇の行動は反省すべきだと思っています。ああいう行動はすべきではなかった。もうひとつの意見として、小笠原さんの立場なら、他にもやり方があったかもしれないと思いました。例えば、メディアの前で発言する前に、森脇をロッカールームに呼んで話すこともできましたよね。
岩政 メディアへの発言内容は、判断が必要ですよね。鹿島にいた頃は、何か問題があると私に質問が来るのが通例でしたから、喋れることと、喋れないことは判断していました。試合後は感情的になっているのでどんどん出てしまう。そうなると、後々どうなるか分かりません。
 それに、言い合いや暴言という点で言えば、サッカーというスポーツは、感情が爆発する時もありますよね。言い方が難しいですが、それがひとつのエンターテイメントにもなる。そこで言葉狩りになるのは、私はあまり歓迎できません。選手同士だけでなく、レフェリーに話しかけたり、抗議するだけでダメ、という風潮があるのも変えて行きたいと思うんです。
 
鈴木 例えば、ちょっとした暴言でも、〇か×かで言ったら×になる。だから、全員が足並みを揃えて×と言わなきゃいけない風潮になりますが、×のなかでも許容できる範囲はありますよ。僕だって、試合中にいっぱい文句を言われました。でも、それは表に出さない。ピッチで戦っている最中のことですからね。

岩政 そうですね。一方で、私は選手も成長すべきだと思っています。ピッチの中と外できっちり線が引けている選手だと後腐れないですが、そうでないケースもあります。そこをきっちり線引きできる選手が増えてほしい。やっぱりこういう問題については、いろいろと議論していくべきだと思います。
 
鈴木 これを機会に選手の成長もそうだし、周りの捉え方も変わっていけばいいですね。
 
岩政 サッカー界で生きてきて、もう少し「ここが改善されればな」と感じていることはありますか?
 
鈴木 ひとつ思ったことはあります。この前、MLS(メジャーリーグサッカー)を見に行ったんですが、彼らのスポーツの楽しみ方が良いなと思いました。スタジアムの雰囲気作りが良いし、ファンがいろんな楽しみ方を持っているんです。
 日本だと、サポーターは応援しなければいけない雰囲気がありますよね。もちろん、一緒の歌を歌うのも素晴らしいことだし、僕はレッズでそれを実感させてもらった立場だから、良さも十分に分かっています。
 でも、一体感を楽しむ人も、別の楽しみ方をする人も、共存できるのがベストですよ。そうなれば、スポーツが文化になってup to you(あなた次第)みたいな感じになるのかなと。
 あとはどうすればサッカー界にたくさんお金が集まるのか、というところ。もっと選手が憧れを持たれて注目されないと、お金を集めるのは難しいと思います。
岩政 私は広く一般の人たちが選手をリスペクトするようになった時に、サッカーへの評価も変わると思っているんです。サッカーを文化にしたい、とみんな言いますが、実際にどうなった時が文化なのか。やっぱり、たくさんの人に注目されて定着しないと文化にはならないと思います。
 
鈴木 だからこそ、アスリートはもっと頑張るべきなのかもしれません。経験ある選手や自分たちのようなOBが何かをしないと、現状は変わりません。今すぐには変わらなかったとしても、長いスパンで試行錯誤し、サッカーを日本になくてはならないエンターテイメントにしていきたいですね。
 
岩政 そうですね。サッカーを盛り上げていくという意味では、レッズに残る選択肢はなかったんですか?
 
鈴木 社長をやらせてもらえるなら、残ったと思います(笑)。まあ、それはともかく、僕はサッカー界や浦和レッズの将来のために外に出て勉強したいと思いました。サッカー界だけにいると、中での評価は分かりますが、サッカー界が他からどう見られているかはなかなか見えない。それを知りたかったんです。ただ、外で得た知識を活かして、いずれはサッカー界に戻って貢献したいと思っています。
 
岩政 将来的にはレッズに戻ることもあるかもしれないと。サッカーをやめるかどうかの時は迷いませんでした? スッキリ行けましたか?
 
鈴木 いや迷いましたよ。他クラブからのオファーもあったし、いろいろ考えました。でも、この先に他のチームでサッカーを続けて本気でできるのか。サッカーのことだけを考えたら、レッズ以上に情熱を燃やせるところはないという結論に至ったんです。
 もうひとつはサポーターの存在でした。「どこに行ってもサッカーを続けてほしい」と言ってくれる人が多く、それを聞いた時に「僕はここで辞めるべきだな」と思いましたね。
 
岩政 引退と言えば、今度の引退試合は7月17日でしたよね? 
 
鈴木 そうなんです。7月17日、海の日です。出場をオファーしても大丈夫ですか?
 
岩政 ありがとうございます。クラブと相談しますね。どういうメンバーなんですか?
 
鈴木 レッズや代表で一緒にプレーした人たちです。ただ、レッズのほうがほぼほぼ決まっていますが、代表のほうはまだ……。現役の選手たちには声をかけにくくて、探り探りの状態です。岩政さんには、FWで出てもらおうかな(笑)。
 
岩政 この前、東京ユナイテッドで15分間、FWでプレーしましたよ。関東1部では通用しました(笑)。
 
鈴木 え? 本当に?
 
岩政 相手の裏を取ったり(笑)。
 
鈴木 相手のディフェンダーは説教ですね(笑)。実際は、どこでプレーすることが多いんですか? ボランチ? センターバック?
 
岩政 この前の試合は、相手が押し込んで来たら私が最終ラインまで下がり、中盤のゾーンにボールがある時は、出ていってこぼれ球に参加する感じでしたね。
 
鈴木 プレー幅が広がったと?
 
岩政 広がっています(笑)。
 
鈴木 やっぱり、そうなりますよね。ベテランになると、なんとなくサッカーが分かってくる。がむしゃらにやってもできないのは理解しているから、力が抜けてこぼれ球なんかスッと取れたり。
 
岩政 そうそう。なんとなく見えて来ますよね。私がFWとして相手の裏を取る姿を、ぜひ見に来てください(笑)。
 
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「わかるわかる」
 
 ケイタの話には"やはり"共感する部分が多くありました。
 
 ケイタも私も(ケイタはもちろん私ほどではありませんが)、サッカーの技術的な才能には恵まれていませんでした。ですが、私たちはそこで諦めませんでした。
 
 私たちの本当のサッカーキャリアは、自分が「下手くそ」だと気付いたところがスタートだったと思います。
 
「下手くそだから諦めよう」ではなく、「下手くそだからどのようにすべきか」と考えることが私たちのサッカーで取り組んだことでした。
 
 ケイタが自問自答した日々の話が聞けて、彼のまっすぐ前を向く視線の奥には、たくさんの思考と苦悩があったのだと思いました。だから浦和レッズの「ど真ん中」に居続けられたのだと思います。
 印象的だったのは、フラットな考え方です。
「自分の中に人格がたくさんいる」と表現していましたが、様々なことに取り組む現在の仕事への姿勢も、日本代表に対する思いを聞いた時の考え方も、いつも何かに振り切れることなく、すべてにフラットです。フラットに取り組むからこそ、一つひとつに全力で向き合うことができるのでしょう。
 
 鹿島アントラーズにとって、浦和レッズは一番のライバル関係にありました。試合になれば、必ずと言っていいほどヒートアップします。サポーター同士の熱さも相まって、レッズと試合をするたびに「サッカー選手冥利に尽きる試合」だと感じていました。
 
 今はまだ肌感覚であの熱さを思い出すこともできますが、次第にそれも薄れていくのでしょうか。
 
 正直に言って、私はそれを寂しく思うことはありません。こうして、あの頃のライバルと握手をして懐かしく語らい、そして未来を語り合えることをそれ以上に嬉しく思うからです。
 
【プロフィール】
鈴木啓太(すずき・けいた)1981年7月8日、静岡県出身。J1通算379試合・10得点。日本代表27試合・0得点/浦和ひと筋で15年間プレーし、2006年のJ1制覇、2007年のACL優勝など、数々のタイトル獲得に貢献。2006年、2007年にはJリーグベストイレブンに選ばれた。15年シーズンを最後に現役引退。現在はAuB株式会社の代表取締役や明治大アドバイザー、サッカー解説者など多岐に渡って活躍している。

岩政大樹(いわまさ・だいき)/1982年1月30日、山口県出身。J1通算290試合・35得点。J2通算82試合・10得点。日本代表8試合・0得点/鹿島で不動のCBとして活躍し、2007年からJ1リーグ3連覇を達成。日本代表にも選出され、2010年の南アフリカW杯メンバーに選出された。2014年にはタイのBECテロ・サーサナに新天地を求め、翌2015年にはJ2岡山入り。岡山では2016年のプレーオフ決勝に導いた。今季から在籍する東京ユナイテッドFCでは、選手兼コーチを務める。