国際連合の人権理事会や、同理事会が任命する特別報告者について、問題以前の初歩的な誤謬が日本語メディアの前面に踊るケースを目にしたことについては、前回のコラムにも具体的に記しました。

 国連が「反日」かどうかは、寡聞にして知りませんが、2017年からの米共和党政権が、どれくらい「反世界的」であるかは、端的に示すことができます。

 2015年9月25日から27日にかけて、ニューヨークで開かれた「国連・持続可能な開発サミット」を通じて議論、国際的に発表された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」を通じて確認してみましょう。

 第70回国連総会で採択された上のリンクは日本国外務省のサイトに掲載されている国際アジェンダで、150か国を超える国連加盟国首脳が合意したもので「持続可能な開発のためのゴール(SDGs=Sustainable Development GoalS)として17の目標と169の個別目標が提示されています。

 2016年1月1日に発効した、この17の目標、2030年までの15年で実現すべき、全地球規模での持続的な開発目標を、以下やや長くなりますが、具体的に列挙してみます。

目標1 貧困撲滅
目標2 飢餓克服
目標3 健康福祉増進
目標4 生涯教育公平享受

目標5 ジェンダー平等、女性女児エンパワーメント
目標6 水と衛生へのアクセスと管理
目標7 安全、持続可能かつ近代的なエネルギーへのアクセス
目標8 持続可能な経済成長、完全雇用とディーセント・ワークの推進

目標9 レジリエントなインフラ整備、持続可能な産業化とイノベーション拡大
目標10 国内および国家間の不平等是正
目標11 都市・居住地の安全、レジリエント化
目標12 持続可能な消費生産パタン

目標13 気候変動とその影響への緊急対策
目標14 海洋・海洋資源を持続可能開発
目標15 陸上生態系保護回復、森林管理、砂漠化対処、土地劣化と生物多様性損失阻止
目標16 平和で包摂的な社会、司法アクセスの平等と責任ある包摂的な制度構築
目標17 持続可能開発への、グローバル・パートナーシップ強化

 SDGsをご存知の方からも「いまだ曖昧模糊として分かりにくい」とリアクションいただくことの多い17目標ですが、これらの15年計画実現が発効した2016年1月1日から、悪い冗談のような変化が全世界を襲いました。

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転換の年、2016年

 「2016年という年は、後から世界史を振り返るとき、ある節目になるだろう」。そう強調するのは東京大学の総長を務める五神眞教授です。以下では五神さんの論旨に沿って2016年に発生した大きなイベントを列挙してみましょう。

1月  中国金融不安
2月〜 中南米でジカ熱流行開始
3月  ブリュッセル空港・連続テロ事件
4月  エクアドル地震
6月  BREXIT

7月  ニース保養地・テロ事件
8月  イタリア中部地震
9月  北朝鮮核実験
10月  気候変動対策のパリ協定調印
11月  米国大統領選挙で共和党政権成立/ニュージーランド大地震
12月  シリア内戦 アレッポ奪還(2011〜内戦 ISIL展開)ベルリン・テロ事件

 よりにもよって国連が「持続的な世界の成長・開発を」と元旦にぶち上げたはずの2016年に、よくもここまでと言えるほど全地球規模での混乱が続き、その趨勢は2017年に入ってから、むしろ度合いを悪くしているかもしれません。

 ジカ熱のような流行疫、エクアドル/イタリア中部/ニュージーランドなどでの地震は天災に分類されるものでもありますが。復興をめぐっては多々、人災の面があるのは、阪神淡路・東北大震災を経験したばかりの日本人には生々しいところと思います。

 ブリュッセル、ニース、ベルリンのテロ事件やシリアを筆頭とする紛争、内戦状態は完全な人災と言うべきですし、中国の金融不安、北朝鮮の核実験なども、人為であるか、社会現象であるかは別として、人間が引き起こしていることは間違いありません。

 そんな中で、英国のEU離脱、いわゆるBREXITと、米国の大統領選挙という、多数の国民が参加する、本来は民主的であるべき投票において、せいぜいよく言って孤立化、保護化、悪く言うなら独善化、右傾化というべき結果が出、経済的にも多額の損失を被るセクターが出始めました。

 そして、上に挙げた2016年の出来事の中で唯一、プラスの方向に含みを持っていたはずの「パリ協定」に対して、ドナルド・トランプ米国共和党政権は今般「離脱」の方向を明確化したわけです。

トランプ予算教書の「これでもか」反世界・反SDGs化

 実のところ11月の米国大統領選挙、つまり2017年からのトランプ政権誕生というニュースは、全世界にとってアラーム以外の何ものでもありませんでした。

 実際、前回も触れました、通常より3か月遅れで出てきた予算教書では教育、研究、通商、労働、健康、農業、環境などの項目が軒並み大幅圧縮され、軍事公安関係に増額が見られたわけ。上記の一つひとつが、いちいちADGsの方針にわざわざそむくようにさえ見えるもののオンパレードになっている。実際にみてみましょう。

教育 → 反目標4=生涯教育公平享受 ほか多数
研究 → ほとんどすべての目標に基礎研究は決定的に重要
通商 → 反目標12=持続可能な消費生産パタン ほか多数

労働 → 反目標1=貧困撲滅反、反目標8=持続可能な経済成長、完全雇用とディーセント・ワークの推進 ほか多数

健康 → 反目標1=貧困撲滅、反目標3=健康福祉増進、反目標6=水と衛生へのアクセスと管理 ほか多数

農業 → 反目標12=持続可能な消費生産パタン、反目標15=陸上生態系保護回復、森林管理、砂漠化対処、土地劣化と生物多様性損失阻止 ほか多数

環境 → 反目標13=気候変動とその影響への緊急対策 反目標14=海洋・海洋資源を持続可能開発 反目標15=陸上生態系保護回復、森林管理、砂漠化対処、土地劣化と生物多様性損失阻止

 と1から17まで、およそ国連加盟国150か国が総体において合意する、人類社会すべてに共通する公益に反する、超大国・米国の予算編成方針となっているのが分かると思います。

 これは、時間的な順序から見ても、明らかに国連が米国に対して「反米」というのではない。現に前のバラク・オバマ政権では多くの歩み寄りがなされていました。

 単純に、米国の「反世界」転向、反米、反日などと同様に言うなら「反世」のリアクションから結実するもので、ここに至って米国の民主主義は、完全な衆愚状態に陥っている懸念がある、と上記の国際指針を取りまとめ、実行してきた多数の国、穏健な知的セクターが共通の心配をしています。

SDGsを失敗から成功へ・・・何が問題だったのか?

 せっかく高い志をもって国連総会で採択されたSDGsなのに、どうしてかくも無力で、これらが発効したはずの2016年1年だけでも、なぜこのように手ひどい、丸反対のリアクションばかり呼び起こしているのか?

 その理由の解明は簡単ではないでしょう。ただ、重要なことは、出来事を単に指をくわえて眺めるのではなく、積極的な対案を構築、実施していくこと、これに尽きます。

 例えばパリ協定に関しては、もはや米国をあてにはできない、とEUを中心に具体的な対策が短期から長期スパンまで様々に検討され始めています。

 SDGsは、通常の意味では「文系」に区分される問題、例えば、

目標10 国内および国家間の不平等是正

 や

目標16 平和で包摂的な社会、司法アクセスの平等と責任ある包摂的な制度構築

 のような課題もありますが、多くの課題が文系と理系、双方の英知を結集させて実現する必要があるものです。例えば、

目標3 健康福祉増進

 と一言で言っても、医学、疫学などの背景から社会、経済的な要因、保険制度など行政の関わる部分など、あらゆるアプローチが「正の干渉(positive interference)」をもって建設的に支え合わないと(constructive interaction)と、うまく目標達成することができません。

目標6 水と衛生へのアクセスと管理

 といった観点には、水環境を正確に評価する都市工学、化学的な観点と、環境基準の設定、破壊された環境の回復などには社会科学的な観点と、双方の具備が必要不可欠、かつどちらもが殺し合わず、「負の干渉(negative interference)」、破壊的な相互作用(destructive interaction)を注意深く構成していかなければ、技術的に可能なものも、実を結んでいきません。

 こうした問題を考えるとき、私が大きく準拠するのは、刑法の故・団藤重光教授(1913-2012)が示した法哲学的な観点です。

 また、東京大学としては、こうした状況を克服していくうえで、社会を駆動する新しいモデルの必要性が、すでに科所長会議を経て全学合意として確認されており、そこでは経済学の故・宇澤弘文教授(1928-2014)がモータリゼーションに関連した提出した「社会的共通資本」の概念など、具体的な数理・論理構造をもった取り組みの必要性が確認されています。

 以下、大学での私自身の取り組みを含め、これらについて簡単に触れてみたいと思います。

(つづく)

筆者:伊東 乾