6月8日に実施された英国の「総選挙」の結果、テリーザ・メイ首相率いる与党の保守党が過半数割れし、野党第一党の労働党が躍進するという結果になった。いわゆる「ハング・パーラメント」(宙づり議会)状態となったのである。

 メイ首相は、「連合王国」(UK)の一角を占める北アイルランドの保守政党「民主統一党」(DUP)と閣外協力によってなんとか過半数を維持し、新政権に望むこととなった。

 総選挙を前倒しに実施するという賭けに打って出たメイ首相だったが、過半数を獲得できなかったことで、その求心力は大幅に低下したと言ってよい。

 保守党であれ、労働党であれ、「ブレグジット」(EU離脱)は既定路線であり、その方針に違いがあるわけではない。それが昨年の「国民投票」で示された「民意」だからだ。だが、メイ首相が主張してきた「ハードブレグジット」(強硬離脱)は軌道修正を迫られるだろう。

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若者の不満の受け皿となった労働党

 では、今回の総選挙で、なぜ保守党は過半数割れしたのだろうか。

 ここで注目しなくてはならないのは、「格差問題」に対する英国内の不満、とくに若年層の不満が想像以上に高まっていることだ。この不満の受け皿となったのが労働党であり、保守党のメイ首相は「民意」を正確に読めていなかったということになる。

 もともと階級社会の英国では、エリート支配層と労働者階級の対立は "They vs Us"(やつら 対 俺たち)というフレーズに表現されているように鮮明であった。

 英語には "the winner takes it all"(勝者が独り占めする)というフレーズがあるが、自由主義を徹底すると、社会的な強者はさらに強くなり、社会的な弱者はさらに弱くなる。行き過ぎた「グローバリゼーション」と「新自由主義」が中産階級の没落を招き、格差問題を深刻化させている。

エレファントカーブに見る先進国ミドルクラスの苦境

 先進国の国内の所得格差を「見える化」したのが、いわゆる「エレファントカーブ」だ(下の図)。

1988〜2008年の所得の伸びを示したエレファントカーブ
(出所:拙著『』、ディスカヴァー・トゥエンティワン)


(* 配信先のサイトでこの記事をお読みの方はこちらで本記事の図をご覧いただけます。http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/50270)

 グラフの形が右向きの象のような形をしているので「エレファントカーブ」と呼ばれている。グラフでは象の鼻の先にあるのが「先進国グローバルエリート」であり、象の頭上にあるのが、中国をはじめとする「中進国のミドルクラス」である。この両者が「グローバリゼーション」の恩恵にあずかっている一方、象の鼻の中間に図示されている「先進国のミドルクラス」の所得がボトムにあることが読み取れる。

 つまり、「グローバリゼーション」で割を食っているのが、「先進国のミドルクラス」なのである。ミドルクラス(中産階級)の没落は、先進国に共通する問題なのだ。

 2011年9月には、米国で「オキュパイ・ウォールストリート」(ウォール街を占拠せよ)という抗議活動も発生している。若者たちがスローガンとして掲げていたのが "We are the 99%" だった。「上位1%の富裕層」が富を独占し、それ以外の「99%」である自分たちは「持たざる者」となって苦境にあえいでいるという主張である。

 6月の英国の総選挙で示されたのは、投票行動を通じて表明された「怒れる若者たち」の反乱と言えるかもしれない。1950年代の英国のムーブメントであった「怒れる若者たち」が、70年近くたって再来したと言えようか。

 伝統的な価値観を重視するとみられがちな英国だが、一方では若者文化の象徴であったビートルズやパンクロックを生み出した国でもあり、世代間で価値観の違いが大きい。時代を変革する原動力が若い世代にあることは、英国の歴史が示してきたとおりだ。

「第3次グローバリゼーション」の反作用

 グローバリゼーションは自然現象ではない。歴史的に見れば、私たちが直面しているのは「第3次グローバリゼーション」であり、始まった時期はほぼ特定されている。

「第1次グローバリゼーション」は16世紀の「大航海時代」であり、スペインからオランダ、そして最終的に英国が覇権を握ることになった。「第2次グローバリゼーション」は「産業革命」時代の英国がリードして始まったものだ。

 そして、「第3次グローバリゼーション」もまた英国から始まっているのである。その発端は1979年に就任したサッチャー首相の「金融自由化」にある。いわゆる「ビッグバン」という規制撤廃によって、英国にとっての成長産業であった国際金融部門を強化することに成功した。

 この動きは、1981年に就任した米国のレーガン大統領も追随し、「グローバリゼーション」が一大潮流となった。この流れのなかでソ連が自壊して、旧社会主義圏がグローバル市場に統合されていったのである(この一連の流れについて詳しくは先日出版した拙著『ビジネスパーソンのための近現代史の読み方』をお読みいただきたい)。

もはや「改革」は待ったなし

 だが、何事も「過ぎたるは及ばざるがごとし」である。成功しすぎると、その弊害もまた無視できないものとなる。作用に対する反作用として「アンチ」が生まれてくる。特権層を重視しすぎて、国民が視野から消えかかっていたとき、その英国で「怒れる若者の反乱」が「民意」として示されたのである。

 グローバリゼーション」は「ネーション・ステート」(国民国家)を前提としているが、「ネーション」(国民)が空洞化しつつあることが現在の問題の本質と言えるだろう。「ステート」(国家)を構成する「国民」の格差が許容限度を超えて拡大してしまうと、国民統合が成り立たなくなり、社会が崩壊してしまう。

「第3次グローバリゼーション」は成功したがゆえに、その「負の側面」が行き着くところまでいってしまった。もはや「改革」は待ったなしという状態にある。

 19世紀の大英帝国の最盛期もそうであったが、21世紀の英国もまた「課題先進国」であることは間違いない。今回の総選挙で示された「怒れる若者たち」の意志は、英国は依然として世界の最先端を走るフロントランナーであることを示していると言えよう。

 英国がどのような現実的な解決策を示していくのか、今後も注視していく必要がある。

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筆者:佐藤 けんいち