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シーメンスPLMソフトウェアは4月21日、同社の3Dモデリング・カーネル「Parasolid」のユーザー向けカンファレンス「Parasolid Innovation Conference」を開催した。本稿では、基調講演「インダストリ4.0の時代にやるべきこと」の模様をお届けする。

○純国産CADカーネルが敗れた理由

基調講演に登壇したのは、リコー ICT研究所 技師長(理博)の佐藤敏明氏。同氏は、リコーの3Dモデリングカーネル「DESIGNBASE」の開発に携わっていた人物だ。

「DESIGNBASE」は純国産の3Dモデリングカーネルとして、かつては多くの日本製2D CADソフトに使われていたが、2008年に販売を終了、現在は既存ユーザーの保守のみ行っている。そして同氏は現在「試作をしないものづくり」をミッションとした業務に従事している。

「本当は(『DESIGNBASE』を)現在の『Parasolid』みたいにしたかった」と語る佐藤氏は、「なぜ『DESIGNBASE』が敗れたか」という点について、講演の口開けとして考察を披露した。

まず、日本のCADベンダやシミュレーションツールベンダは、ITバブルが弾けた後に多くが廃業してしまったことをひとつ目の要因として指摘。そして、3D CADの機能は非常に多岐にわたり、半年〜4カ月に1回ほどバージョンアップするようなペースで進化していたため、開発の労力が倍増したことを挙げた。

加えて、かつては大手メーカーは独自の内製システムを採用していたことから、カーネルのバージョンアップのタイミングが各社でバラツキがちになり、その結果として問題が起こった際に対応するバージョンが増え、ベンダーとしては労力が爆発的に増えたのも逆風となったと語った。

○「インダストリー4.0」をどう推進すべきか

続いて、講演の主題である「Industrie 4.0(インダストリー4.0)」へと話題を移した。昨今、セミナーのテーマにもなるキーワードだが、山のようなトピックを内包しており、その実態をつかんでいる人はほぼいないのでは?と指摘し、過日に同氏が参加したセミナーのテーマがあまりにも多岐にわたりすぎていたことを例として挙げた。

「『インダストリー4.0』は話題のキーワードではあるが、その推進のため、自社で具体的に何を変革したら良いかが分からない」、それが多くの業界関係者の実感ではないかと佐藤氏は語る。そして具体的なアクションが見えにくいにも関わらず、トレンドに乗り遅れたら世界から取り残されるのではという不安から、セミナーなどで情報を仕入れている状況ではないかと考察した。

まずもって、「インダストリー4.0」はドイツ政府が推進する、製造業の高度化を目指す活動だ。ものづくりの前提・制約が変化していることを受け、他国に先んじてドイツがまず変わっていこうという機運のもと、IoTの積極的な活用による製造現場のスマート化が推し進められている。「4.0」は、第一次産業革命(蒸気)、第二次産業革命(電力)、第三次産業革命(コンピューター)と産業革命の進展の系譜をたどり、IoTの普及を「第四次産業革命」と位置づけたところからとられている。

IoTもまた流行のキーワードとして注目されて久しいが、さらにその実現にはビッグデータ解析、シミュレーション、AIの大規模活用という要素がある。こうしてさまざまな要素が絡み合っている背景を紹介した上で、「インダストリー4.0」の中心には「サイバーフィジカルシステム(CPS)」があると考えると理解しやすい、と佐藤氏は語る。

「CPS」とは実世界(フィジカル空間)にあるさまざまなデータをセンサーなどを活用して収集し、サイバー空間において大規模データ処理技術を駆使して分析・知識化を実施して得た情報によって、産業の活性化や社会問題の解決を図っていくという構造を指す単語。簡単に言えば、現実の情報をデータ化し、そこから得られた解を現実にフィードバックすることで、多種多様な問題を解決していくというものだ。

○今足りていないのは、データを現実に引き戻す作業

佐藤氏の見解では、データ収・解析については手がけている企業は多いものの、現実へのフィードバックが盲点となっているという。

では、CPSが実現することで従来と何か変わるか。それは「情報共有に地理的時間的物理的制約がなくなる」(佐藤氏)ということだ。例えば、工場の現場を公開したら、知識を持つ人にはそこで行われていることすべてが把握できてしまい、企業活動としては問題がある。つまり、従業員を経由して情報が漏洩するリスクは避けられない。一方で、工場の稼働にまつわるデータを開示する場合は、アクセス権を企業側で設定し、情報の開示・秘匿をコントロールすることができる。

佐藤氏は、「インダストリー4.0」や「IoT」などの文脈で語られるセキュリティは悪意からの防御という側面が強いが、それだけではなく権限コントロールに大きな意味があるのだと強調した。

話題は、今回のカンファレンスの主催であるシーメンスのアンベルク工場に移る。この工場には「インダストリー4.0」の最先端を行く事例として、国内外から見学依頼が殺到しているという。PLC(プログラマブル・ロジック・コントローラ)の製造を手がけるこの工場では、高品質な製品提供、マスカスタマイゼーションに対応。また、製品オーダーを前日まで受けて、生産計画は当日朝決定し、99.5パーセントは24時間以内に出荷するというすさまじいスピード感のインパクトは大きい。

PLCビジネスのキーファクターは、機械制御をつかさどる製品であることから、「トラブルを起こさない」ことに尽きる。また、クライアントにより製品仕様が多岐にわたるため、短納期はおおきなアドバンテージとなる。

佐藤氏は「インダストリー4.0」を実践する先進事例から学べることは、「モノ作りの本質は変わっていない」ことだと明言。何を行うことで、自社の製造現場がスマートになるのかを明確にとらえることが、実現の近道であると語った。

つまり、課題の設定を正しく行い、ビジネスの増強を実現するCPSを作ることが、「インダストリー4.0」への対応につながるのだという。中でも、データ収集の仕組みを構築するには長い時間がかかるため、早く始めるのが何より大切であるとも付け加えた。