売る場合、仲介業者との契約は、一般媒介にした方がいい

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 【マンション業界の秘密】

 よくマイホームの購入は「一生に一度」と言うが、私が周りを見ている限り一度の人は少数派だ。たいていが2度3度と買っている。

 住宅を2軒や3軒も保有する資力のある人は少ないから、新しい住まいを買うとそれまで住んでいた家を売ることになる。

 実は、中古マンションを市場価格で買うことはたやすいが、相場通りに売ることは難しい。普通に売ろうとしても仲介業者にうまくだまされてしまうことが多いのだ。

 例えば、相場通りなら4800万円で売れるマンションがあったとする。売主さんがネット上の「一括査定」を利用する。すると大変なことになる。業者からバンバンと電話がかかってくる。「当社が一番高く売ってみせます」というアピールだ。

 それで、一番高い査定を出した業者に頼む。「専任契約をお願いします」と迫られる。専任とは、その業者を通してしか売却できない契約だ。

 仮に、その業者が「5300万円で売れます」と言ってきたとしよう。売り出し価格は査定通り5300万円だ。

 ところが、売り出しから2週間たっても2カ月たっても案内すら入らない。業者は言い訳をする。

 「査定をした時と比べて、市場環境が厳しくなっておりまして…」

 仕方がないので売り出し価格を5100万円まで下げてみる。それでも問い合わせが入る程度。

 最初の売り出しから4カ月が経過した。売主も焦りだす。そこで業者から連絡が入る。

 「案内が入りました」

 やってきたのは、妙に手慣れた輩。さっと住戸内を見渡して短時間で引き揚げた。

 あとから「4000万円なら即決で買うとおっしゃっていますが」と業者から知らされる。

 売主さんが買い替えなどで焦っているとイエスと言ってしまう。

 カラクリを説明しよう。この売主が売却を依頼した仲介業者は、その物件を売ろうとする活動など一切していない。ひたすら囲い込んで購入希望のお客さんには紹介しない。これを業界用語で「干す」という。

 そうやって売主が焦るのを待つのだ。頃合いを見計らって知り合いの再販業者に見せる。再販業者は中古物件を安く買って市場価格で売ることで利益を上げる。

 売主が焦って再販業者の提示する価格で売却すれば、仲介業者は売りと買いの両方から手数料を取れる。さらに、購入した再販業者が売り出す時にも専任の契約を取って、今度は本当の客に売る。ここでも両方から手数料を得られる。

 つまり、この仲介業者は1つの物件を2回売買してそれぞれ売り買い両方から手数料を得るのである。

 損をしたのは4800万円で売れる物件を4000万円で手放した最初の売主さん。大もうけをしたのは、一括査定で5300万円の売却可能額を提示した仲介業者。いかにもあこぎなやり方だが、これはごく一般的に行われている手法だ。誰もが知っている大手の仲介会社でも当たり前にやっている。

 ■榊淳司(さかき・あつし) 住宅ジャーナリスト。同志社大法学部および慶応大文学部卒。不動産の広告・販売戦略立案の現場に20年以上携わる(www.sakakiatsushi.com)。著書に「マンションは日本人を幸せにするか」(集英社新書)など多数。