「人生の最終回」を過ごす老人ホームが舞台だけに、最初からどこか死のニオイが漂っていた『やすらぎの郷』。

いずれ、誰かとの死別が描かれることになるだろうとは予想していたが、それがまさか自殺という形で訪れようとは……。

さらに、6月15日にはメインキャストのひとりである井深涼子役・野際陽子の死去も発表され、いやが上にも「死」を考えさせられたく『やすらぎの郷』(テレビ朝日・月〜金曜12:30〜)第11週。


救いようがない展開が続きっぱなし


歌劇団時代の同級生であり親友だった及川しのぶ(有馬稲子)と再会するために「やすらぎの郷」を訪れていた犬山小春(冨士眞奈美)。

しかしパートナー・石上五郎(津川雅彦)が及川しのぶから金を騙し取って逃亡したことが発覚。小春は、パートナーに捨てられた上に、親友をターゲットにした詐欺の片棒をかつがされた形となってしまったのだ。

警察の取り調べから帰った小春は、しのぶに謝罪をするが、激怒&ショックを受けている真っ最中のしのぶにはまったく響かず、コップの酒をぶっかけされた上に「帰る前に(みんなに)土下座をして謝っていきなさい!」と怒鳴りつけられる。

翌朝、小春はしのぶの言葉通り、みんなの前で土下座をして「やすらぎの郷」から去って行った。

一方、しのぶはショックのあまり、ハードな認知症が発症。

もう、たたみかけるように救いようのない展開だ。

老人たちにとって「夢」は毒か?


若い頃から、死ぬ気のなさそうな自殺未遂を繰り返しては世間を騒がせ、みんなから嫌われていた小春。

少々ボケ気味のため「やすらぎの郷」のみんなから距離を置かれていた感のあるしのぶ。

みんなから好かれてはいなそうだったふたりだが、あまりにも悲惨な姿を見せつけられて、さすがに性格の悪い老人たちもしんみりとした雰囲気に。我が身に置き換えて、今回の事件について語り合っていた。

「夢を捨てないからひっかかるのかな。どうして早くもう、夢、捨てないのかな。オレなんかもうとっくに捨てちゃったのに」

大納言(山本圭)の語った「夢」は、「やすらぎの郷」の老人たちにとってのテーマのひとつと言えるだろう。

世俗の業とか、欲望を捨て去って(仕事も金銭面も、すべて施設が管理することになっている)「やすらぎの郷」に入居し、やすらかな老後を送るはずだった老人たちだが、人生の終盤にさしかかってもまだ捨てられない「夢」のせいで、ドッタンバッタン大騒ぎな事件が連発し「やすらげない郷」となっている。

菊村栄(石坂浩二)に脚本を書かせ、みずからが主演しようとしたり、形見分けされた遺品で儲けようとしたり、恨みのある相手を呪ったり、憧れのスターに好かれようとしたり……すべて「夢」の仕業!

若い子のドラマだったら「夢=正義」というのが世界の常識だが、老い先短い老人たちにとっての「夢」は時に毒にもなる。

大納言の言うとおり、夢なんて早く捨てちゃった方が楽なんだろうが……それでも「夢よもう一度」の気持ちを捨てられないのが人間ってもんなのだろう。当の大納言自身、完全に夢を捨てきってるのかと問われると「……きってない」と答えていた。

倉本聰自身を投影していると思われる脚本家・菊村は夢について「先生はまだ、(ドラマを)書く気があるか?」と問われると、

「あるような気もするな」
「本当に書きたいものが出て来たらだけど。書いてる途中にいつポックリと逝くかも知れないからな」

と答えている。

82歳となり、普通に考えたら隠居していても不思議ではない倉本聰が、若者ばかりを向いているゴールデンタイムに対抗して、シニア層が楽しめるシルバータイムドラマとして立ち上げた『やすらぎの郷』の企画。

人生の最後に、自分が活躍していた頃とは様変わりしてしまったテレビ業界に一言いってやろう……と、本気で「夢よもう一度」をやっている感がビンビン伝わってくる。

だからこそ『やすらぎの郷』が圧倒的に迫力のあるドラマとなっているのではないだろうか。

……そんな倉本先生も、さすがにこの後の展開は予想していなかったろうが。

野際陽子の訃報とりんくし過ぎなストーリー展開


ドラマ内では、菊村たちが「老女 ビルから投身自殺」と報じられた新聞を読み、犬山小春が自殺をしたことを知る。

パートナーには逃げられ、親友とは決別し、「やすらぎの郷」への入居も断られ、たぶんお金も持っていなさそう……。ザ・悲惨の極みの犬山小春。「やすらぎの郷」から去って、「その後、どうなったかは知らない」的なフェードアウトをするのかと思ったら、自殺とは!

確かに、高齢者の自殺は年々増加傾向にあり、社会問題となっているようだが、ここまで書くか、倉本聰!

そして、その回の放送後、野際陽子の死去が報じられた。

翌日の『徹子の部屋』は急遽、野際陽子出演時のものに差し替えて放送、そのまま『やすらぎの郷』がスタート。

「6月13日、野際陽子さんがお亡くなりになりました。心よりご冥福をお祈り申し上げます」のテロップの後、はじまったオープニングには雨が降り注いでいた。

当然、犬山小春の死にあわせた演出なのだろうが、どうしても「野際陽子の死」を思わずにはいられず、制作側の意図した以上にエモーショナルな演出に。

さらにドラマ中では、野際演じる井深涼子が死んだ小春について語っているシーンもあった。

「どこもやらないわね、あのニュース。小春だってことにどこのテレビも気づいていないのかしら」
「誰か一人ぐらい古い記者さんが気づきそうなもんだと思うけどなぁ」

かつては名女優として知られていたものの、現在では誰も知るものはなく「住所不定無職の犬山小春さん(79)」と報じられ、遺体の引き取り手もあやふやなまま、ほぼ無縁仏状態で荼毘に付された小春。

一方、『やすらぎの郷』の後の『ワイド!スクランブル』をはじめ、この日のワイドショーは野際陽子の訃報一色だった。

出演ドラマの放送中に現役の女優のまま、みんなに惜しまれつつ亡くなった野際陽子は幸せな最期だったといえるだろう。

今週はまさかの野際陽子ヌードショー!?


それにしても野際さんが亡くなったことで、今後の『やすらぎの郷』にどの程度の影響が出てくるのだろうか。

奇しくも先々週には橋爪功の息子・橋爪遼が覚せい剤取締法違反で逮捕されたことによって、『やすらぎの郷』でも出演シーンをカットしなければならない事態となっていた。

橋爪の場合、わりとチョイ役だったから、ほぼ影響ない程度の編集で処理できているようだが、メインキャストである野際陽子はどう考えても替えがきかない。

既にかなり先まで撮影は済んでいるようなので、しばらくは問題なく野際の出演シーンを見ることができるのだろうが、その後は代役を立てるのか、脚本を変更して出演なしでも問題ないような形にするのか?

野際演じる井深涼子がペンネームとして使っていた「濃野佐志美」関連の騒動もまだ片が付いていないというのに……。

と思っていたら、公式サイトのあらすじによると、今週は野際陽子大活躍ウィークのようだ。

犬山小春(冨士眞奈美)の死から2カ月。夏を迎えた『やすらぎの郷』に恒例のヌーディスト・ビーチが出現する。一糸まとわぬ姿で海水浴に興じる井深凉子(野際陽子)と三井路子(五月みどり)。

な……なんですと!?

先週、先々週と重苦しい雰囲気だったストーリーが一転して、明るくユカイな『やすらぎの郷』が帰ってくるのは嬉しいが、いきなりヌーディスト・ビーチって、どんな展開だよ!

確かに菊村が「やすらぎの郷」に入居する際、「(井深涼子が)時々スッポンポンで泳がれるんでね、何度かご注意申したことがあります」という話題が出てはいたが、回収するのかその伏線。

野際陽子の訃報で悲しい気持ちになっている中、その野際の「ヌードショー」をどんな感情で見ればいいのやら。

とにかく今週も目が離せなそうだ!
(イラストと文/北村ヂン)