先週土曜日、6月17日にAKB48選抜総選挙の開票イベントが沖縄で行われました。そこではもう色々な事が巻き起こりました。それらの事を語るのは他の方にお任せし、私は一人のメンバーにしぼって書いてみようと思います。

〈島田圏外はそろそろ初夏の季語に採用してもいいだろう〉

総選挙後、そんな書き込みがとある掲示板にあがっていた。AKB48のメンバーである島田晴香(24歳)が毎年のように選抜総選挙で圏外(開票イベントで名前を呼ばれない、今年で言えば81位以下)であることをジョークにした書き込みである。笑えるか笑えないかはさておき、このようなジョークを言われるほど島田の圏外は世の常だった。
今年も島田は圏外だった。デビューからずっと、今年で8年連続の圏外。速報もずっと圏外。そんなメンバーは今も昔も島田以外に誰もいない。AKB48の不人気メンバーの代表格、それが島田晴香である。


あれもAKBのメンバーなのか?


そんな島田のことを初めて知ったのは、去年の11月ごろ、私が「豆腐プロレス」という、AKBのメンバーがプロレスをするテレビドラマに、脚本で少し参加することになってからだ。そのころの私は最近のAKBにはかなり疎く、ドラマの出演者の中で2人ほどしか顔と名前が一致するメンバーがいなかった。
その出演メンバーの中に島田晴香の名前があった。なんとなく聞いたことがあるようなないような名前だった。
島田が演じた役は、ユンボ島田というリングネームのプロレスラーで、工事現場同盟というヒール軍団の長。自分自身ヒールが好きなこともあり、実際に試合シーンを見学に行った時の佇まいや動きなどを見て、これが島田か! やるなー!と興奮し、島田の話の脚本を書きたいと思った。

ユンボ島田は初回の冒頭からプロレスの試合シーンに登場し、ヒールメイクなどの効果もあって、あれもAKBのメンバーなのか?と驚く視聴者も多かった。前半は話のメインに大きく関わってくる存在ではなかったが、ユンボ島田率いる工事現場同盟はそのキャラクターのストイックさや愛らしさで、ヒールにもかかわらず多くの視聴者を味方につけ、人気も高かった。

そんななか、脚本作りは2クール目に突入。2クール目からトーナメント戦になり、ここから主役ではないキャラクターも掘り下げられることになる。
そんな時、たまたま見に行ったプロレスの稽古。そこに島田はいた。
稽古が終わっても島田はプロレス指導のコーチと何やら神妙に話しこんでいた。私は少し離れた所からなんとなくその会話を聞いてしまった。細かい会話は書かないが、プロレスの技の見せ方に凄くこだわったりなど、とにかくこの島田という人はこのドラマに、プロレスに本気すぎる、と感じた。少々痛いけど、なんだかとてもかっこいいと思った。ますます島田の話の脚本が書きたくなった。この会話を聞いていた自分が書かねばいけないと、どこか自己陶酔こみの使命感に燃えてしまった。(もちろん他のメンバーもみんな本気でした)

そして、私はユンボ島田をフィーチャーした回(13話)の脚本を書くことになった。その回のもう一人の主役であるクイウチ松村(松村香織)と島田の試合が素晴らしかったこともあり、とても好評だった。自分がずっと書きたかった、見たかったユンボ島田を、格好良くて、切なくて、愛らしいユンボ島田を世に出せたようでとても嬉しく、ほっとした。
(もちろん、脚本を実体化した島田本人と対戦相手の松村香織、豊島圭介監督、実況の野上アナ、などなど、キャストスタッフみんなの力の成果です)

島田に不満があった


その13話のオンエアーから数日後の4月某日、島田は突然9月にAKB48を卒業すると発表した。さらに芸能界からも引退するという。突然というのは私の勝手な印象で本人にとっては突然でもなんでもなかったかもしれないが。
さらに総選挙も近づいてきた。島田はその発表前から出馬宣言をしており、引退はするが今年も総選挙に出馬することはやめなかった。
そして、私は島田がデビュー以来ずっと総選挙で圏外であることを知った。豆腐プロレスでも活躍しているし、今年は圏内に入るのではないかとその時は軽く考えていた。
またその頃、そもそもこの島田晴香というアイドルはなんでそんなに人気がないのだろうと疑問も持ち始めた。総選挙が完璧な人気の指標でないことはわかっていたが、80位にも入れないなんてどういうことなのだろうか、と。時折バラエティー番組にも出てそこそこ知名度もありそうだし、太っていた時期があったとはいえ、それほどビジュアルが悪いとも思えなかった。

総選挙の投票がはじまり、開票日も迫ってきたころ。私は島田に不満があった。
多くの豆腐プロレスのメンバーが、また多くの他のメンバーも、開票日が近づくにつれ、SNSやSHOWROOMなどの個人のネット配信を駆使してファンに自分の気持ちを語り、投票を呼びかけていた。しかしツイッターでも配信でも島田の姿はほとんど見当たらない。
おいおい、島田は何をしてるんだ、おまえそんなんじゃ今年も圏外だぞ、島田こそ誰よりも必死にならなきゃいけないんじゃないのか、そう思った。
引退も近いし今年の総選挙にあまりやる気がないのかなと思った。

しかし、そんな単純な話ではなかった。
みなさんご存知の通りAKBの選抜総選挙は一人一票制ではなく、一人が何票でも投票できるシステムだ。投票をせびるということは、ファンに投票券付きのCD(あるいはモバイル票など)を買うお金を払ってくれ、と頼むことである。しかも島田はAKBの未来を担っている存在ではない。何ヶ月後かには卒業し、芸能界から引退もするのだ。島田が圏内に入ったとしてもグループのためにはならない。
島田はとても後輩思いであることをいつしか知った。自分がランクインすることで若手の圏外メンバーの背中を押したいというようなことも言っていた。それは嘘ではないだろう。でも、きっとそれが総選挙に出る一番の理由ではなかった。当たり前だけど、自分のためなのだ。一度でいいからランクインして名前を呼ばれ壇上にあがりたい。自分の存在をAKBの歴史に残したい。そんな自分の欲のためにファンに必要以上に票をせびることができなかった。
(これはAKBファンの知人から聞いた説の延長であり、自分の勝手な想像です)

だからといって、これは美談ではまったくない。
参加するメンバーにとって総選挙はアイドルとしての自分が生きるか死ぬかのいわば戦争だ。そんな甘いことを言っている場合ではないし、みんな総選挙のシステムの歪さをわかってうえで、申し訳ないと思いつつも、自分のために、グループのために必死に票を求める、それこそがAKB48のメンバーとしてのあるべき姿なのだ。(総選挙辞退者は辞退者なりの理由があるとおもうので、ここでは割愛)
そんなこと、もちろん島田は全部わかっているだろう。それでもしない、できない、それが島田なのだ、きっと。

そして島田は今年も圏外だった。
奇妙な偶然が重なり、総選挙開票日の深夜にオンエアーされた「豆腐プロレス」22話は、私が書いたもう一つの島田回であった。
ライバルであるハリウッドJURINA(松井珠理奈)に0勝9敗だったユンボ島田が、一番つええのはユンボ島田なんだよ!と意気込み、今日こそ絶対勝つのだと激戦を展開し、最後は無様に散る、そんな回だった。8年連続圏外だったアイドル島田晴香の姿とどうしても重なってしまう。
視聴者の反応もとても良いものが多く、ユンボ島田かっこいい!という多くの声が私の元にも届いた。気づけば多くのAKBファンやプロレスファン、そして私の周りの知人の多くが、ユンボ島田のことが大好きになっていた。

ふざけんな!


この日、ネット配信でオンエアーを見ていた島田は言った。
プロレスでも負けて、総選挙でも負けた、と。
(総選挙を)優秀の美で終わりたかった、でもそんなに甘くないよね、と少し笑いながらも目に涙をためて悔しそうに言った。
自分がAKBにいたということの記録、証明みたいなのが欲しかった、と言って、悔し涙をこらえた。
私はおもった。
島田に感情移入しつつも、ふざけんな!と。
プロレスから何を学んだんだと。勝ち負けも大事だけど、それより大事なことがあるんだよ! いっぱいの人がユンボ島田のファンになってんだよ、大好きになってんだよ、毎年圏外の不人気代表のあんたが、テレビドラマで主役を食う活躍を何度も見せてきたんだよ!
それにさ、あんたの周りにはかけがえのないファンと仲間がいるだろう。
今回の22話もそういう話だったじゃないか。
そこには希望がある、どんなに負けたっていいじゃないか! 勝ち負けを超えた、かけがえのないものに気づいたら、すげえ幸せじゃないか!

また怒った。
でも、すぐにわかった。
どんなに負けたっていいなんて綺麗事だ。
仲間やファンがいるのはもちろん希望だけど。
悔しくて悔しくてたまんない感情は、そう簡単には消えない。
みんなの前では笑えても、家に帰るとすっげえ悔しくなる。やりきれなくなる。
おれ、最初に映画撮ってからずっと映画撮れてなくて、いろんな企画もらったのに、おれが不甲斐ないから全然企画成立しなくて、だめになって、負けて、負けて、負けて。自主映画でもなんでも自分で金出して超低予算でも撮ればいいのに、それより予算のあるものでどうしてもやりたいことがある、どうしてもみたい景色があるからとか思って、どうでもいいプライドがあって、プライドぶっこわす勇気もなくて。

これから自分が永遠に映画を撮れなかったらどうする? 映画が撮れても評価もされなくて客も入らなかったらどうする? それでも鈴木太一のまわりにはかけがえのない仲間がいるだろ、ファンがいるだろなんて言われて嬉しいか。嬉しくない、悔しいよ、そんな仲間やファンの期待に応えられないのが。
それでも次の一歩のためには希望がないと死んじゃうから、みんながくれた希望を支えに、絶対次は勝つんだ、そう思おう、おれ。負けてもいいなんて少しでも思ってたら何もできない。
鈴木さん、いつの間にか自分語り始めてますけど、大丈夫ですか?

とにかく、島田晴香というアイドルは、特別歌やダンスが下手なわけでもなく、特別に顔が変なわけでもなく、美人すぎるわけでもなく、運営からチャンスを全然もらえなかったわけでもない。特別な悪女でもなく、特別に頭が狂ってるわけでもない。それなのに、国民的アイドルグループの不人気メンバーの代表格なんです。
それって面白いなっておもったし、ここから色々想像したりすると、もしかしたら、島田晴香こそがAKB48だったのかもしれないと、ふと思ったのです。それは言い過ぎか。
でも、島田晴香はすっごくすっごくAKB48だった、それは全く言い過ぎではないと思います。


豆腐プロレス」の放送は続く


そんなアイドルがもうすぐこの世からいなくなる(引退する)から、ちょっとセンチメンタルになりました。
でも、島田のために、ということでこの文章を書いているわけではありません。
これをどうしても文章にしたかった自分のためです。
でも、もし、この文章を読んで、AKB48の島田晴香というアイドルを知るきっかけになる人が一人でもいたり、記憶のどこかに残ってくれる人がいたら、嬉しいなー。
そして、自分の脚本回は終わったけど、今週と来週まだ「豆腐プロレス」の放送は続きます。TVerなどの見逃し配信や、Netflixなどでユンボ島田たちの勇姿を見ることができます。DVDとかもたぶんいつか出るのではないでしょうか。
結局最後は宣伝かよ、ごめんなさい。

最後に。豆腐プロレスのメンバーのみなさん、ありがとう。
おかげですごく楽しく脚本を書くことができたし、AKB48グループというとても面白くて刺激的なアイドルグループを詳しく知ることができました。おじさんも負けてらんねえなと、これからの自分の力になりました。

そして、島田晴香さんのおかげで、何だろうな、脚本にさらにエンジンがかかったし、自分のなかの色々な感情と出会えたような気がしています。
ありがとう。
これ以上書くとラブレターみたいになって気持ち悪いので、もうやめます。

AKB48の島田晴香よ
工事現場同盟のユンボ島田よ

永遠なれ

(鈴木太一/映画監督・脚本家)