文武両道を貫いてきた「韋駄天」の輝きがさらに増している。

 6月17日、世界ランキング11位のラグビー日本代表は静岡・エコパスタジアムにて、2019年のワールドカップで同じプールAに入った世界4位のアイルランド代表と対戦した。アイルランド代表は主力11人がいない若手中心のメンバー構成だったが、それでもトップクラブでプレーする選手も多く、前半だけで4トライを許してしまう内容に。結果、22-50の大敗を喫した。


強豪アイルランド代表相手に1トライ・1アシストを決めた福岡堅樹 それでも試合終盤、持ち前のスピードを武器に輝きを放った日本人選手もいた。1トライ・1アシストと気を吐いた、WTB(ウインガー)福岡堅樹(ふくおか・けんき)だ。

 福岡は現在24歳だが、2015年のワールドカップと2016年のオリンピックに出場した唯一の選手である。試合後、アイルランド代表のキャプテンFL(フランカー)リース・ラドックが「頭に浮かぶのは福岡です。ボールに対する執念が私たちには脅威でした」と言えば、敵将のジョー・シュミット・ヘッドコーチ(HC)も「福岡が印象的だった」と名を挙げるほどの活躍を見せた。

 日本代表のジェイミー・ジョセフHCが「試合の序盤はキックからプレッシャーを与えることができ、WTBが外でコンテストしていい展開だった」と評したように、福岡は前半から大外でハイボールキャッチやボールキャリアなどの攻撃から存在感を示し、ディフェンスでも身体を張っていた。

 10-50で迎えた後半36分、ボールを大きくつないで左サイドの福岡にボールが渡ると、そのまま相手のスクラムハーフをスピードでかわしてトライ。さらに続く38分も、ボールをすばやく回す展開から福岡が抜け出すと、内をフォローした途中交替のSH(スクラムハーフ)流大(ながれ・ゆたか)にパスを通し、それがトライへとつながった。

 福岡は両シーンをこう振り返る。

「外にスペースがあり、相手ディフェンスが内に寄ることも多かったので、ボールをもらったら前が空いていたシーンもあった。内側の選手がしっかり引きつけてパスを投げてくれました。マツ(WTB松島幸太朗)、FB(フルバック)野口竜司からいい形でもらえたから、前に出られた。彼らに感謝したい」

 福岡はトップリーグでまだ2年目を迎えようとしている若手だが、決して順風満帆なラグビーキャリアではなかった。祖父が開業医、父親が歯医者という一家に生まれた福岡は、5歳のときにラグビーを始める。福岡高校3年生時には花園(全国高校ラグビー)に出場。ただ、両ひざのじん帯を断裂するという大ケガも経験している。そして、浪人の末に「ラグビーも医学の道もあきらめたくなかった」と筑波大医学群を受験するも不合格。その後、後期試験で合格した筑波大の情報学群に進学した。

 紆余曲折ありながらもラグビーをあきらめなかった福岡だが、そのスピードはすぐにエディー・ジョーンズHC(現イングランド代表)の目にとまった。大学2年生で日本代表に抜擢され、強豪ウェールズ代表との試合にスタメン出場。さらに2013年11月のスコットランド代表戦ではアウェーの地で2トライを挙げ、その名を世界に知らしめた。

 しかしながら、その後はケガなどの影響もあり、2015年のワールドカップメンバーには選ばれたものの、唯一負けたスコットランド代表戦のみの出場に終わった。「(ワールドカップでは)勝ったときにグラウンドに立っていたかったという思いもありました。完全燃焼とは言い切れません」(福岡)。

 ワールドカップと大学シーズンが終了した後は、日本のスーパーラグビーチーム「サンウルブズ」からの誘いを断り、「オリンピックはどのアスリートにとっても最高の挑戦の舞台」と7人制ラグビーに専念した。2016年のリオデジャネイロ五輪のメンバーに選ばれ、ニュージーランド代表撃破やベスト4進出にも貢献。ただ、大会1週間前にスタメンの座をWTB後藤輝也(NEC)に奪われるという悔しい経験もしている。

 そして福岡は大学卒業後、プロ選手としてパナソニックワイルドナイツに入団。もうひとつの夢である「医師」になるため、ラグビーは2019年のワールドカップ、そして2020年の東京五輪までと決めている。「ずるずるいくと、次の夢への切り替えが難しくなる。しっかりけじめをつけたい。自分自身、ケガの経験もあるので、今の段階ではスポーツ整形医になれれば」と思いを馳せた。

 昨シーズンはパナソニック1年目から試合に出場し、昨年11月に新指揮官がジェイミー・ジョセフHCとなっても日本代表に選ばれた。逆転勝利したジョージア戦(28-22)、僅差で敗れたウェールズ戦(30-33)でもトライを挙げる活躍ぶり。トップリーグでは昨年12月のホンダ戦でダブルハットトリック(6トライ)という快挙も達成している。

 さらにパナソニックのシーズン終了後には、参入2年目のサンウルブズに加入。3試合連続となるトライを記録するなど、スーパーラグビーの舞台でもさらなる成長を見せた。そしてこの6月のテストマッチシーズン(ルーマニア代表戦&アイルランド代表戦)でも連続トライを挙げ、WTBとしての存在感を十分に発揮している。

 ただ、アイルランド代表との1戦目は50失点、特に前半だけで31点を許してしまった。ジェイミージャパンはキックを多用する戦術を取ったが、キックをうまく競れなかったときのフォローが遅れてしまい、そのギャップを相手に突かれてしまった点が痛かった。

 アイルランド代表との2戦目(6月24日@東京・味の素スタジアム)に向けて、福岡は課題をこう語る。

「(1戦目は)前半に多くの失点を許して試合を作られてしまった。あれだけ点を獲られると逆転は難しい。(2戦目は)まずはキックを競って、相手にクリーンなボールを取らせないようにする。そして、もし相手にボールを取られてしまったときも、ギャップができないようにしっかりディフェンスを整備したい。1次のディフェンスが大事です。次戦はどれだけ粘れるかどうか」

 1戦目の後半最後は、狙いどおりに相手を疲れさせて3トライを挙げた。福岡は「いい点と悪い点が明確になった。選手たちの戦術理解度は上がっていますし、後半は自分たちの戦術が通用したので、自信にもなった」と、大敗に対しても前向きに考えている。

 ジェイミージャパンにおいて、過去6試合中4試合でトライ。24歳の福岡にはエースの風格が漂っている。それでも「外で、スピードで前に出られた。アタックで通用する部分が見えている。ただ、相手も対応してくると思うので、自分ももっと引き出しを増やさないといけない」と謙虚な姿勢を忘れない。

 すっかり日本代表の顔となった「ケンキの進化」が止まらない。

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