“やりたくない”とは思えなかった――松田 凌、役者としての誇りを胸に金木 研と向き合う

2015年に上演された初演から2年。主人公・金木 研役にオーディションで選ばれた松田 凌を迎え、舞台『東京喰種トーキョーグール』の新作公演が6月29日より上演される。金木役にあたり、松田はこれまで覚えたことのないような“怖さ”を肌で感じているという。しかし、その“怖さ”こそが、彼の役者人生を奮い立たせているものなのかもしれない――。ひとつひとつ言葉を選びながら、ときに深く思案しながら、質問に答える松田。紡がれた言葉の先に、彼の本質を見た気がした。

撮影/祭貴義道 取材・文/渡邉千智 制作/iD inc.
ヘアメイク/Emiy

オーディションで勝ち取った金木役に“怖さ”を抱えて

今回、金木 研役は一般公募を含めたオーディションで決定されました。オーディションを受けるにあたり、金木役に興味があったのでしょうか?
正直、それしかなかったです。金木役もそうですし、僕はもともと『東京喰種トーキョーグール』という作品が好きなので、「好き」という思いが自分のなかで強かったのが一番でした。ただ、僕がオーディションを受けていいのかは…少し悩みました。
それは、どうしてですか?
一般公募ということもあり、多少なり経験がある僕でいいのかな、というところと、『東京喰種トーキョーグール』に本当に思い入れがあるゆえ、自分より金木役に強い思いを持っていたり、合う人がほかにいれば、自分は納得できるなって思ったんです。
自分以外に金木役に合う方がいれば、それでいいと。
でも、それがいないのであれば、僕が演じてみたいという気持ちがあって、受けさせてもらいました。
実際に、作品と金木への思いが通じて、役を射止めたときはどんな気持ちだったんでしょうか?
んー……やっぱり怖い、ですね…。
怖い…?
なんだろうな…僕は何かお仕事をいただくと、まず、「うれしい」っていう感情が先だって出てくるんです。でも、金木役に決まったときは怖かった…。なぜかと今聞いていただいて、「なんでなんだろう」って思っちゃいました。
前作があることや、シリアスな作風だからこそのプレッシャー…を感じているのでしょうか。
前作があるからっていうのは、僕としてはあまり気にしていないですね。『東京喰種トーキョーグール』の原作を読んで…僕はマンガが好きで今までいろんな作品を読んできたんですけど、この作品にはこれまで読んだことがないようなメッセージ性を感じたんです。だからこそ、作品への責任…全部とは言わないけれど、金木 研の人生を背負う責任への不安…なのかな。
なるほど。
やっぱり、金木役ってスゴいことだと思うんです。彼が物語のなかで変わっていく過程…その“グラデーション”を、僕が追えるのかなっていう不安はありますね。僕自身も『東京喰種トーキョーグール』が大好きなので、作品として壊せない思いもあります。
マンガをお読みになって、作品への印象はどう持たれましたか?
衝撃的でした。心がえぐられるような描写も多くて…でも読み進めてしまうんですよね。僕は、昔からこういった退廃的で混沌とした作品が好きだったということもありますが、『東京喰種トーキョーグール』は、ただそれだけじゃなくて、その裏にすごく大きなテーマがあると感じていて。「生きていく価値ってなんだろう」というのをすごく考えさせられたので、我に返る部分もあるというか。
金木のキャラクターについての印象は?
そうだなぁ……金木は……。どこから話せばいいかなぁ。
難しい顔をしていらっしゃいますね…。
…マンガを読んでいて最近感じるのは、“特別”って罪なんだなっていうこと。金木だって、最初でこそ普通の少年ですけど、それが普通じゃなくなった。喰種でも人間の世界でもないところにひとりだけ混じったからこそ、いろんなことが起きたじゃないですか。
そうですね。
『みにくいアヒルの子』のお話もそうだけど、特別な存在であるゆえに、罪深いことも起こってしまう…。僕も役者として、唯一無二の存在になりたいって思いますけど、そういうふうになるためにはいろんな犠牲を払っていかなければいけないんだなって…金木を見ていて感じますね。

想像を超えた先にある芝居で、勝負をしていく

「前作は気にしない」とおっしゃっていましたが、それこそ、前作で金木が人間から半喰種になる過程…松田さんの言葉を借りるなら、そこまでの“グラデーション”がすでに描かれている状態での今作になるわけです。そういう面でのお芝居に難しさは感じていますか?
いや、やっぱり演じる人間が違うと、そもそも人としての考え方が違うので、まったくの別物として考えています。僕は前作を見て、小越(勇輝)くんが演じていた金木 研って本当に素敵だと思ったし、原作が好きな人間としてすごくうれしかったんです。
小越さんの金木は、原作ファンである松田さんも認めるほどだったと。
しかも、最初ということもあって、物語の状況説明をしなければいけなかったので、きっと今の僕よりももっと責任を感じていたんじゃないかなと思います。金木に訪れる最初の大きな葛藤の表現…あれは本当に素敵でした。でも、僕が小越くんと同じことをしたら、僕が選ばれた意味がないし、作品として絶対ダメなこと。僕が表現する金木じゃないと、なんですが…でも……。
でも…?
僕が表現する意味は追求していきたいですけど、今回僕は「松田 凌が演じる金木 研」というふうにはしたくなくて。
そうなんですか?
うーん、言葉で表現するのが難しいんですけど、今回に関しては、金木にとにかく寄り添っていきたいと思っています。自分の色を出さないわけじゃないですけど、見に来ていただいたお客様に極力、「金木 研」として見てもらえるようにしたいんです。
役を演じるうえで、普段は「自分の色を出そう」という思いが強いけれど…というところですよね。
僕は、原作ものの舞台をやらせていただくことってあんまりないんです。シリーズでずっとやらせていただいてきたことが多くて。そんな僕が一概には言えないのかもしれないですけど…まず、原作を守ることは絶対。そのなかで、僕ら三次元の人間が演じるわけなので、原作をリスペクトしつつ、人間が表現することによって出るものは、全部出したほうがいいと思っているんです。
人が演じるからこその魅力、ですね。
たとえ、それが原作にはなく、舞台版だけでの話だったとしても、お客様に見て、受け入れてもらえるような水準まで上げるっていうことはしていたんですけど、今回に関しては、それとはちょっと違う気がしていて。
金木 研に見せるためには違う、と。
原作ものって先が見えていることが多いと思うんですよね。物語の内容や結末を知っているからこそ、舞台でもシーンやシチュエーションの想像がつく。だから、自分の芝居のイメージもつきやすいんです。…でも、『東京喰種トーキョーグール』は想像がつかない。僕自身、どうなるかわからないんです。
物語の流れや、内容がわかっているのに…?
そうなんです。内容やこれからの展開もわかっているんだけど、僕が金木として、「そのシーンを演じてください」って言われたら、どういうお芝居をするのか想像がつかなかった。そういう意味で、自分の想像の範疇でやっていたら追いつかないと思うので、自分の想像を超えて出たもので勝負をしていく作品なんじゃないかと思います。
想像の範疇を超えてお芝居をするって、簡単なことではないと思うのですが…。
自分の想像の範疇を超えて出たもので勝負をする作品だと思うと、僕は『東京喰種トーキョーグール』っていう作品と金木役を、「やりたくない」とは思えなかったです。「やりたい」って言葉にするより、「やりたくない」とは思えないっていう感じ…。役者として嘘はつけなかったんです。……言葉で表現すると難しいですね(笑)。

「次に出会うことで救われる」――作品と向き合う姿勢

これまで、松田さんが「想像の範疇を超える」経験をされたことは?
原作もので言うと、ミュージカル『薄桜鬼』は、想像の範疇を超えていたなと思います。『薄ミュ』に出会って、本当に人生が変わったので思い入れが強いです。
具体的に、舞台上でどういうふうになったんですか?
そうですね…泣く必要のないシーンで自然と泣いてしまったりとか…。それが、芝居としてダメなこともあるんですけどね。でも、お客様が入ったときに出る芝居が、自分の想像と違った感覚をはじめて体感したのは、ミュージカル『薄桜鬼』でした。
そういう部分で勝負しないといけないのが、舞台『東京喰種トーキョーグール』…と感じているわけですか。
舞台『東京喰種トーキョーグール』は、人が演じるにあたって、たぶん限界がくると思うんですよ。…でも、自分はできると思うなぁ…。これまでいろんな経験を重ねてきたなかで、「想像の先にいけるな」って感じているんです。
5月28日までの舞台『男水!』が終わってすぐ、舞台『東京喰種トーキョーグール』のお稽古に入られました。物語の雰囲気にけっこう差があると思うのですが、気持ちとしてすぐ切り替わるものなんでしょうか?
切り替えを意識したことはあまりないですね。ただ、以前にすごくヘビーな作品をやったときは、けっこうそのままのテンションを引きずってしまったこともありました。そのときはマネジャーさんにいろいろと相談をしましたが…。でも、僕はだいたい、ひとつの作品が終わって、次の作品に出会うと救われるっていうことが多いんです。
救われる?
たとえば、『男水!』で、男子高校生のすごくさわやかな日常を過ごしていたとしたら、ないものねだりで『東京喰種トーキョーグール』のような作品をやりたくなってしまう。逆に、シリアスな内容で心が本当にしんどくなったとき、目の前に次の作品があって、その作品に入れると…気持ちが新しくなるというか。体力的、精神的に辛かったとしても次の作品に出会うことで救われちゃうので…僕にとって、役者の仕事は天職だなって思っています。
特別意識するわけでなく、次の作品に出会うことで気持ちが切り替わっているのかもしれないですね。
だからこそ、僕が怖いって思っているのは「どれが本当の自分かわからなくなっちゃう」こと。演じている役に向き合っているのが「今」の自分なので、役によって「自分」に振り幅が出ちゃうんです。
軸は変わらないにしても、演じている役に入っているときが、「今」の松田さんなんですね。
どのときも本当の自分なので、「どれが本当の自分なのか」という不安はあるんですけど、それが楽しいから役者をやっているっていうのもありますよね。
改めて、舞台『東京喰種トーキョーグール』の見どころをお願いします。
僕、「勇気をもらった」とか「幸せな気持ちになった」と思ってもらわなくていいと思うんです。あ、「面白かった」と言ってもらえるのは絶対必須です。正直、目を覆いたくなるようなシーンもあると思います。そのなかで、一筋の光みたいなものが垣間見えるからこそ、美しく見える。そこを頼りに、お客さんが衝撃的なシーンで引いてしまったとしても、また前のめりになって見てくれたらうれしいなと思います。『東京喰種トーキョーグール』の世界を体感してほしいです。
舞台だからこそ、より迫力を感じられる部分もありますね。
そうなんです。7月29日には映画も公開されますし、舞台は舞台ならではのものをお届けできたらと思っています。『東京喰種トーキョーグール』を生で感じていただければ。舞台を見に来たというより、『東京喰種トーキョーグール』を見に来たっていう感覚を持ってもらいたいなと思います。